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魔法使いは鏡の中で笑う  作者: こま猫
第四章 学園生活と不穏な街

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テスト結果

「司法局から、わたしは今後、学園生活に集中するようにと言われています。それが一番安全なので」

 わたしはジョシュに視線を投げた。「でも、やっぱり不安はあります。自分じゃなく、周りの人が危険な目に遭ったらと思うと」

「なるほどな……」

「一応、わたしは司法局の捜査官――あの、貸倉庫に呼んだ子ですが」

「ああ、あの子供――」

 と、ジョシュは眉を顰めて見せる。魔法取締捜査官の印を見せられても、簡単には信じられないだろう。

「はい。あの彼女に魔法を教えてもらっています。いざという時に備えるためです」

 この辺りの事情はあまり説明はできない。捜査官の個人情報につながることもあるからだ。


「この魔法も捜査官からか」

 ふと、サイモンが小さく呟いた。教室を取り巻く施錠の魔法。

「そう」

「可能なら後で教えてくれ」

「うーん、それは」

 予想外のことを言われて、わたしは戸惑いながら彼を見つめた。

「許可が下りなきゃ別にいいよ」

 サイモンは笑う。「学園生活に集中するのは悪くないと思う。特に、僕たちはAクラスだ。問題を起こすのはまずいしね」

 ――確かにそうだ。

 わたしはキリキリと痛み出した胃を押さえた。もう充分、問題を起こしている。司法局が誤魔化してくれてはいるけれど。

「とにかく、さっきのは聞かなかったことにする」

 サイモンがわたしの肩を叩きながら言った。

「さっきの?」

「今さら友人じゃないとか言われてもな。普通の学園生活をして、普通に試験を乗り切って卒業しよう」

「え」

 わたしはまじまじと彼の横顔を見た。

 それは、凄く嬉しい。

 今のところ、サイモンが一番仲のいい友人だし。彼がいなかったら、やっぱり学園生活は楽しくないと思うし。

 でも、サイモンが急に肩を落とした。

「……しかし、女か……。せっかく友人ができたと思ったのに」

「どういう意味」

「ちょっと混乱してるからほっといてくれ」

 サイモンが疲れたように言うと、ジョシュが呆れたように笑った。

「逆よりマシだろ。女と思ってたら男とか」

「あー、そっちのほうが嫌ですね」

 サイモンが何か吹っ切れた様子で顔を上げた。「少なくとも、いつか女の子の肉体に戻る可能性がある、という夢がある」

 戻るよ!

 可能性だけじゃなくて戻る気満々だよ!

 っていうか、何の話!?

「戻れることを祈るよ」

 サイモンは笑顔をわたしに向けた。

 何だか釈然としないけど、まあいい。わたしはしばらくサイモンを軽く睨んだ後、ジョシュに言った。

「あの、勉強もそうですが、剣術部も頑張りますので、相手をお願いします。女だからといって……」

「手抜きはしない」

「ありがとうございます」

「え、剣術部も続けるの? 司法局に任せるんじゃ」

 サイモンが怪訝そうに言う。わたしは小さく首を振った。

「わたしの身体を奪ったやつをせめて一発ぶん殴りたいし、とりあえず身体は鍛えるよ!」

「身体を奪った……」

 サイモンは微妙な表情をしつつ、やがて我に返ったように続けた。「殴る相手は自分の身体だけどいいの?」

「うっ」

「……」

「……」


「頭がいいんだか悪いんだか解らないよ」

 やがてサイモンは深いため息をついた。

 すみません、否定はできません。


 とにかく、それからの生活はテスト勉強が中心となった。

 もちろん、剣術部も手抜きはしないで頑張りながら。剣術部で一番の腕を持つジョシュが、できるだけわたしの稽古をつけてくれたから、かなり充実していたといっていい。

 屋敷に戻れば、休日はエリザベスと魔法の勉強。

 学園での授業で解りにくいところがあれば、エリザベスに訊けば、理解できるように教えてくれる。

 おかげさまでテストの結果は上々だった。貼り出された結果には、魔法科Aクラスの面々が上位を埋め尽くしている。

 特待生のサイモンが一位だったのは、さすがというべきだろう。

 でも、わたしも四位!

 素晴らしい快挙だと思わないだろうか! 数日、学園を休んだというのに!

「意外だよ」

 サイモンが壁に貼られた結果表を見上げながら言う。「剣術部と見事両立したよね」

「もっとほめていいよ」

 わたしはわざとらしく肩をすくめた。しかし、そんなわたしを胡乱そうに見つめたサイモンは、ただため息をつくだけだ。

 くそう、次のテストにはサイモンに追いついてやる!


「さすがだねえ」

 急に、背後から年配の男性の声が聞こえてきて、わたしは振り向いた。

 見覚えのある顔。

「あ、面接で」

 と、わたしは居住まいを正して彼に頭を下げた。

 わたしが入学する直前に会った面接官だ。彼は笑い皺を目元に刻みながらわたしを見つめ、さらに続けた。

「そう、覚えているよ。勉強も身体を鍛えるのも頑張ると言っていたよね。有言実行、素晴らしいことだよ」

「ありがとうございます」

 わたしは再度、彼に頭を下げた。彼はにこにこしながら何度も頷くと、この場から歩き出して廊下の先に消えた。

「で、誰だっけ」

 わたしは笑顔を消してサイモンに訊く。

「普通科の先生じゃなかったっけ。ギリアムとか何とか」

 サイモンもよく知らないようで、首を傾げている。

 まあ、いいか。

 そんなことを考えていると、背後から「お疲れー」と言いながら首に腕を回してきたやつがいる。

 チャドだ。

「さすがじゃん、お前ら」

 そう言って身体を揺さぶられ、わたしは何とかそれを振りほどく。

「チャドは何位?」

 わたしがそう訊くと、彼はニヤリと笑った。

「十三位」

「手堅いね」

「おう」

 サイモンも笑い、そこにマクミランも近寄ってきた。彼は少しだけ疲れているようだ。

「こっちは二十九位。ずっと五十位以内に入れないとマズいから、もう少し頑張らないとなあ」

「二十九位なら大丈夫だろ」

 チャドはマクミランの肩を軽く叩き、ふとわたしたちの顔を見回した。「テストも終わったし、今日くらい早く帰ろうぜ。買い食いして帰ろう。美味しい串焼きの屋台があるんだ」

「串焼きかあ」

 それを聞いてマクミランの表情が明るくなる。

「いいね」

 サイモンも頷く。それから、どうする? と言いたげにわたしを見た。

「いくよ」

 わたしも頷いた。

 普通の学園生活を満喫すると決めたのだ。楽しそうなことは全部やってやる!

 そしてこの場を離れる時、結果表を前に喜んでいる女生徒、暗い表情の女生徒の姿を見た。

 同じAクラスかな、と思いつつ、落ち込んでいる少女のことが少し気になった。


「うま」

 マクミランが串焼きを食べながら言う。

 学園からそれほど離れていない大通りに、小さな屋台が出ていた。大通りにあることもあり、並んで待っている人もいる。

 わたしたちも並んで購入し、大きな串を手に歩きながら食べる。

 豚肉、牛肉、鶏肉と種類があって、わたしは豚肉を選んだ。スッゴくジューシーな肉の塊。

 サイモンはお土産用に何本か紙袋に入れてもらっている。

「家族にもね」

 サイモンはわたしの視線に気づき、照れたように笑う。そう言えば、サイモンには病気の妹さんがいるって聞いたよなあ、と思う。

「優しいね」

 そう言うと、彼は小さく唸った。


 わたしたちは大通りを歩いているけれど、少し離れた場所にマックスが馬車をとめている。

 さりげなく見張ってくれているわけだ。


「そう言えば」

 わたしはふと思い出した疑問を口にした。「さっき、マクミランが言ってたけど、五十位以内に入らないといけないってやつ。もし入れなければ、来年はBクラス?」

「そうだよ」

 マクミランは串焼きにかぶりつきながら小さく頷いた。「特待生が落ちたら奨学金とか出なくなるし、ヤバいよね。まあ、サイモンは大丈夫っぽいけど」

「当たり前だ」

 サイモンは胸を張った。「青春という名の時間を削って勉強してるんだし、このくらいは」

「特待生と言えば」

 マクミランが首をふと傾げた。「Aクラスに何人かいたよね」

「ああ」

 チャドが頷いた。「今回、五十位以内に入ってないやつもいた」

「うーん、他人事ながらキツいな」

 サイモンが眉を顰めている。

 わたしはふと、先ほど見かけた少女を思い出した。酷く暗い表情で結果表を見上げていた少女を。

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