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魔法使いは鏡の中で笑う  作者: こま猫
第二章 学園生活における非日常

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剣術部の見学

「後で彼女たちには謝る! とりあえず、わたしは逃げる」

 そう言って荷物を掴み、教室を出ると、サイモンが慌てたように追いかけてきた。

「ちょっとエイス!」

「とめないでくれ!」

「とめないよ。面白そうだからついてく」

 面白そう?

 わたしが早足で歩きながら振り返ると、サイモンは興味津々といった感じでわたしに問いかけてきた。

「で、どこにいくんだ?」

「……体育館」

 わたしは困惑しながらも、学園の本館を出て外へ。

 そのまま体育館へいくと、入り口から中を覗き込んだ。すると、そこでは意外とたくさんの生徒の姿がある。

 期待していた通り、剣術や武術の部活があるようだ。しかしやはり、目立っていたのは剣術部だろう。

 怪我防止のために、簡易的な甲冑のようなものを身につけ、剣を振る。多少、ぎこちない動きの生徒もいたけれど、大半は慣れた動きで手合わせをしていた。

 剣の稽古を見るのは久々で、何だか嬉しくなった。木を相手に剣を振るより、ずっと緊迫感がある。

 ううっ、わたしも早く参加したい。うずうずする。

 わたしはじっと彼らの動きを見つめ、その中でも一番動きの鋭い生徒に目を留めた。

 甲冑の兜はそれほど顔を隠していない。真面目そうな双眸と銀色の前髪が覗いていた。

「人気ありそうだなあ」

 サイモンがわたしが見つめる方向に目をやって、苦笑した。

 剣術部が体育館の一部を占領しているようだったけれど、何よりも目立つのは、それを遠くから見つめている女生徒たちの姿。

 きゃあきゃあ言いながら応援している彼女たちの姿は、確かに可愛いのだろうけど、正直、邪魔だろうな。何て考えてしまう。

「入部って、顧問の先生に言えばいいのかな。どこにいるんだろう」

 わたしが稽古風景を見つめたまま呟くと、サイモンが驚いたように言う。

「え、もう入部すんの」

「当たり前だろ。早いほうがいい」

「演劇部は?」

「却下だ」

「……エイスって見た目によらず」

 サイモンが隣で小さく呟いていたけれど、軽く聞き流して剣術部のほうに近寄っていった。

 おそらく、見学者と思われる生徒の姿が壁側に数名見られた。

 そこで気がついた。

 彼らの制服の袖に見えたカフスの形が、わたしのものとは違う。彼らのカフスは太陽をモチーフに作られていて、それは普通科の生徒であることを表している。

 対して、魔法科のカフスは月がモチーフ。

「入部希望者は集まって」

 剣術部の部員らしき人が、壁の辺りに固まっていた生徒たちに声をかけている。

 稽古はまだ続いていて、誰もがそちらに視線を奪われていたけれど、その声の主に視線を向けた。

 兜を脇に抱えて穏やかに笑う彼は、剣術部の部長か何かだろうか。その優しげな風貌はあまり、剣術部には似合ってなさそうに思える。

 わたしもちょっと控え目に近づいてみる。サイモンは少しだけ離れた場所で足をとめていた。

「わたしは三年生のリオン・スミスです。この剣術部の部長です」

 彼はそう言って軽く頭を下げた。すると、柔らかそうな金髪が揺れる。

「ウェクスフォードの剣術部は、他の学園とも定期的に試合を行っています。練習もハードですので、気楽にのんびり……とはいきません。しかし、やってみなければ楽しさは解りませんので、入部自体は気楽にどうぞ」

 リオンの笑顔は無邪気だ。そしてどうやら、女生徒たちに人気があるらしい。彼が微笑むと遠巻きでこちらを見ていた女生徒たちから小さな歓声が上がる。

 おおっ、ここも何だか異世界のようだ。

 屋敷でクレアとしか触れ合いがなかったわたしとしては、こんなにたくさんの人間が集まる場所がとても新鮮だ。しかも、皆が同年代。

 学園生活って素晴らしい。

「さて、この中に剣術の経験者は?」

 リオンが僅かに首を傾げ、辺りを見回した。

 その場にいるほとんどの人間は、剣術の経験がないらしい。しかし、二名ほどが「少しなら」と言いながら手を上げた。

 なるほど、少しくらいの経験でもいいんだろうか。

 じゃあ、わたしも手を上げる。

「経験者は大歓迎です」

 彼は手を上げた生徒たちをそれぞれ見て、頷く。「少し見学していってください。入部届は後日提出でかまいません」

 そして、新入生たちが近くにいる生徒たちと会話を始める中で、リオンがわたしのほうへ近寄ってきた。

「魔法科だね」

 彼の笑顔は穏やかだ。わたしの手首のほう――カフスを見て、魔法科だと気づいたらしい。

「君も経験者?」

 わたしの横にいたサイモンに目をやり、そう言うと、サイモンは慌てたように首を振った。

「いえ、そもそも僕は入部希望者ではないですし」

「ああ、そう」

 リオンは何故か少しだけほっとしたように見えた。「魔法科は勉強が忙しいから両立は大変かと思って」

 彼はそう言ったけれど、何となく彼の笑顔の裏に別のものが隠れている気がした。「……基本的に、剣術部で使うものは各自持参でね」

 ふ、とその声が小さくなる。そして気がついた。

 ――甲冑とか、使っている剣とかは自分で用意するんだな、と。

「お気遣いありがとうございます」

 わたしはそっと微笑む。「わたしにだけに伝わるように、言いにきてくださったんですね。皆に解らないように」

 何となく、彼の意図は理解できた。

 どうやら魔法科の生徒は、普通科と比べて裕福ではない人間が多そうだ、ということ。

 そして、剣術部はお金のかかる部活であるらしいということ。よくよく見れば、今も稽古をしている生徒たちが持っている剣には、あまり実用的とはいえない彫刻や宝石が入っているのも珍しくないのだ。

 甲冑だって、簡易的に見えたそれは、いかに軽く身動きが取りやすいか、そして耐久性があるかを追求したようなもの。そういったものは高価であるに決まっている。

 多分リオンは、周りの人間――普通科の生徒たちに気づかれないよう、確認しにきてくれた。そういうことだ。

「失礼なことをしてすまない」

 彼は眉根を寄せて言う。わたしは小さく笑った。

「いえ」

 わたしは話をそらすべく、稽古風景に目をやった。「それよりあの人、凄く上手いですよね」

 と、銀髪の生徒をそっと指差す。背が高く、余計に目立つ。

「ああ、彼は……まあ、それしか取り柄がないというか」

 リオンは複雑そうに笑った。

 うーん? それしか?

 わたしが首をひねると、リオンがため息をついた。

「あいつが変なことを言うかもしれないけど、無視していい。何ていうか……金髪アレルギーというか」

「金髪アレルギー?」

 わたしとサイモンが同時に首を傾げる。

 リオンがあはは、と笑って手を振りながら誤魔化す。

「多分、大丈夫だろうから気にしないでくれ。ちょっと、変人なんだよ」

 何がだろう。

 わたしが眉を顰めていると、その話題の銀髪氏が稽古の手をとめてこちらを見た。

 さりげなく彼の剣を観察する。他の生徒たちのものより少し大きい。多分、重いだろう。柄の部分も、申し訳程度に青い宝石が入っているものの、どちらかというと実用性重視に見えた。

 わたしが司法局で見かけたような、武骨さが目立つ剣に近い。

「ジョシュ・マーチンだ」

 彼はまっすぐにこちらに歩み寄ってくると、兜を脱いでわたしを見下ろした。

 デカい。

 うん、筋肉凄そう。

 剣だけが取り柄って言った?

 わたしはこっそりリオンの横顔を盗み見た。それから、もう一度ジョシュを見上げる。

 見た目九割。そんなことを思い出す。

 見た目で脳筋と判断されるアレックスだって、本当は違う。目の前にいるジョシュだって、違うかもしれない。

「入部希望者のエイス・ライオットです。よろしくお願いします」

 礼儀正しくそう言うと、彼は少しだけ戸惑ったように頷いた。そして、彼は稽古の場所に戻っていってしまう。

「何だったんだ」

 サイモンが不審そうにジョシュの背中を見つめている。

「世の中、金髪の人間は多いからなあ。今年の入部希望者にももう一人いるし」

 リオンは自分自身の金色の髪を掻き上げ、呆れたように呟く。

 わたしもつられて自分の髪を掻き上げた。

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