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魔法使いは鏡の中で笑う  作者: こま猫
第二章 学園生活における非日常

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演劇部への勧誘

 マクレーン先生はてきぱきとした口調で注意事項を説明し、皆の顔を見回した。

 皆、静かに先生の話を聞いている。緊張した表情の生徒が多かった。

 その緊張感は、先生に言われて各自、自己紹介を済ませるまで続いた。

 教室の端から順番に、それぞれ椅子から立ち上がって名乗っていく。

 若干、このクラスは女の子が少ないようだ。

 だんだんわたしも、周りを観察する余裕が出てきた。

「エイス・ライオットです。よろしくお願いします」

 自分の番がやってきて、皆と同じように自己紹介を済ませると、安堵のため息をつく。

 明日からとうとう授業か――なんてことを考えつつ、わたしは手元にある教科書を撫でた。

「さて、今日はこれで終わりだが、興味があるなら学園内を見て回ってくるといい」

 マクレーン先生は笑いながら続ける。「新入生が入ってきたから、部活勧誘が始まっている。やりたいものがあれば入部すればいいし、なければ入らなくてもいい。部活活動は強制ではないから、勉強を優先させたいならそれでもいいぞ」

 なるほど。

 わたしは少し考え込んだ。

 先生が教室を出ていき、辺りの沈黙が壊れた。途端に広がるざわめき。

 皆、近くにいる生徒に話しかけ、挨拶やら雑談やら始まった。

「部活、どうする?」

 サイモンが話しかけてきた。

「剣術があるならやりたいんだけど」

 わたしが机の上にある教科書を、持ってきたカバンに入れながら言うと、彼は意外そうに笑った。

「見た目から想像できないな」

「そうだろう」

 わたしはニヤリと笑う。「意外性の塊なんだ、わたしは」

「エイスってさ、見た目だけなら、女の子侍らせてふんぞり返ってお茶飲んでるイメージだよな」

「何だ、それは」

 わたしが眉を顰めて彼を睨んだ途端、知らない声がこちらにかかった。

「ねえ、エイス君は部活は決めてる?」

 そう言ってきたのは、少ない女子の中でも華やかな外見の子。

 長い巻き毛の金髪、元気そうな笑顔。可愛い。

「うーん、まだかな」

 そう応えながら、すぐ横でサイモンが笑っている気配。

 何だよ。

 わたしがサイモンを見ると、周りの他の男子生徒たちがこちらを窺っている様子も見て取れた。

 何だか、あんまりいい感じじゃないな、とわたしは慌てた。

「興味がある部活があるなら、一緒に見学にいかない?」

 その子が言うと、他の女の子たちも近寄ってきて「わたしもー」なんて言い出した。


 解った!

 これが以前にレイチェルが言ってた、『モテ期、到来』というやつだ!

 わたしは何とか彼女たちに微笑みかけ、優しく言った。

「部活は多分、やらないと思うから」

「えー」

 少しだけ不満そうな彼女たちを振り払いつつ、荷物をまとめて教室を出ようと扉を開けた時。


 廊下にレイチェルが立っていた。

 わたしは瞬時に扉を閉める。


「迎えにきたわよ」

 すぐにレイチェルが扉を開け、わたしの前に立った。わたしは身の危険を感じてサイモンの背後に回り、レイチェルを睨んだ。

「頼んでない」

「あらあ、人の親切を断るもんじゃないわよ?」

 上から目線の笑顔。怖いぞ、これは!

「親切っていうか、それは脅し」

「先輩の言葉は絶対。これ、学園のルール」

 彼女は『ルール』というところに強調したアクセントを置いた。

 気づけば教室内の注目を浴びている。

 わたしは背中に冷や汗をかいていた。初日からこんなに悪目立ちしてどうするんだ!

「あの、レイチェル」

 わたしはサイモンの肩を押した。「人身御供に彼を提供するので、何とかそれで」

「えっ、ちょ」

 突然、話に巻き込まれたサイモンは素っ頓狂な声を上げていた。

「あら友達? いいわ、歓迎するわよ」

 レイチェルは嫣然と微笑み、サイモンの手を取った。

 サイモンの顔が赤くなったり青くなったりしているのを横目に逃げようとしたけれど、サイモンが慌ててわたしの腕を掴んできて逃がしてくれない。

「ちょっとエイス何これ」

「演劇部の勧誘」

「演劇部!?」

 わたしたちが慌てている間に、レイチェルはサイモンの手首を掴んだまま歩き出した。

 サイモンのもう片方の手はわたしの腕を掴んだまま。

 そして結局、わたしたち二名は演劇部の部室に連れていかれることになった。


「はー」

 サイモンがぽかんと口を開けている。

 まあ、その気持ちはよく解る。わたしはぐったりと椅子に座り込んで、言葉を失っていた。

 演劇部の部室は何だか華やかだった。部員は皆、女の子たちばかり。それも皆、良家の娘です、と言わんばかりの物腰の子ばかり。

 演劇部の見学者として連れてこられたわたしたちは、部室の一角に置かれたテーブルと椅子に追い込まれていた。

「どうぞ」

 一人の女子生徒がわたしたちの前に紅茶の入ったカップを置く。それと、焼き菓子の乗った皿。

 お茶なんてどこから……と辺りを見回すと、一人の女子生徒が魔法を使って手の上で火をおこし、さらにその上で銀製のポットがしゅんしゅんと音を立てている。

「学園内で火というのは……?」

 と、わたしが小声で呟くと、レイチェルがわたしの向かい側の椅子に腰を下ろしながら笑う。

「先生の監督下ならいいのよ」

「監督下?」

 気がつけば、部室の中には四十代くらいの女性がいて、にこにことこちらを見つめていた。

 どうやら演劇部の顧問らしい。

「魔法科の生徒らしいわね」

 顧問の先生はわたしたちの横に立ち、こちらを観察するかのように見つめてくる。「しかもAクラスだとか。勉強が忙しいでしょう」

「はい」

 わたしは引きつった笑顔を見せた。「だから、部活をやっている時間は」

 と、わたしが言いかけたのを遮り、彼女は続ける。

「演劇部は暇な部活でね。いつもはこの部室でお茶を飲んだり自習をしたりしているの。学園祭が忙しいくらいの平和な部活だから、魔法科Aクラスの生徒でも充分やっていけるわねえ」

 ――こっちの話を聞いてくれない!

「すぐには決められないので」

 わたしが必死に口を挟むと、先生が穏やかに笑いながら頷く。

「ええ、よく考えてちょうだい。また明日の放課後にでもきて、見学していくといいわ」

「……忙しくなければ」

 ああっ、笑顔が強張る!

 わたしは「このお菓子、美味しいな」と、バリボリ食べていたサイモンの腕をひっつかみ、部室から逃げ出した。

 部室の扉が後ろで閉まる前に、部員たちの声が聞こえてくる。

「レイチェルさま、凄い!」

「すっごい美形じゃないですか、美形! あれを掴まえたら、次の文化祭、楽しみ!」

 なんて、はしゃいでいる声が。

 ……頭が痛い。泣いてもいいだろうか。

「いやー、凄いわ」

 サイモンが他人事のように隣で言っている。「正にここは異世界だなあ」

 わたしは誓う。

 もしわたしが演劇部に入ることになったら、このサイモンも巻き込んでやる!


 そして。

 次の日の放課後。

 レイチェルはまたわたしを迎えに教室にやってきた。

 その日、教室の雰囲気はわたしに対して微妙だった。さすがに昨日、あれだけ騒いでしまったせいなのか、冷ややかな態度の生徒もいた。

「ここ、Aクラスだよな」

「勉強より部活が大切なんだろ」

 とか、わざとわたしに聞こえるように皮肉を言う男子生徒もいる。

 いやいやいや、違うから!

 わたしは声を大にして言いたい!

 わたしの学園生活の目的は、魔法や剣術を徹底的に学ぶこと!

 グレイ・スターリングを捕まえてぶん殴ること!

「レイチェル」

 わたしは迎えにきた彼女を正面から見つめた。多分、わたしの目は据わっていただろうと思う。

「何よ」

 彼女は僅かにわたしの視線に身を引いた。

「演劇部の顧問の先生は魔法使い?」

「そうよ。専門は薬草学だけど」

「そうか」

 わたしはふと、辺りを見回した。

 幾人かの男子生徒がこちらを盗み見しているのが解った。その中でも、今日の昼間、わたしに皮肉を投げかけてきた男子生徒の腕を掴んで話を続けた。

「別の生徒も勧誘したらどうだろうか。自習も許されるなら、それでもいいだろうし」

「何だよ! 俺は演劇部なんかには」

 と、わたしを睨みつける男子生徒。わたしは彼に笑顔を投げた。自信あるのだ、邪気のない笑顔を作るのは!

「……何だよ」

 彼が困惑している間に、わたしは彼の腕をレイチェルに引き渡した。さらに、呆気に取られていた他の男子生徒ももう一人掴まえる。

「いってらっしゃい」

 笑顔を崩さずにそう言って、わたしはレイチェルにクラスメートを押し付ける。

 レイチェルがその二人を部室に連れて行くのを見守っていると、サイモンがバシバシとわたしの肩を叩きながら笑っていた。

「お前、面白い」

 失敬な! いっぱいいっぱいなんだよ!

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