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魔法使いは鏡の中で笑う  作者: こま猫
第七章 始まりの場所、終わりの場所

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もう一度、学園へ

「少しいいか」

 わたしとグレイが隔離室で向かい合っている時、シドがその場に姿を現した。その途端、グレイは笑みを消して居住まいを正した。

 シドは扉のところに立ったままだったエリザベスに意味深な視線を投げる。すると、エリザベスは何か察したかのように隔離室から出ていってしまう。そして、三人だけになってからシドは口を開いた。

「とりあえず、決定事項を伝えておく。まず、グレイ・スターリング」

「はい」

「君は完全に中央魔法司法局の監視下に置かれる。隔離室住まいになるが、悪いようにはしないとうちのハゲが言ってる」

「はい」

 グレイは神妙な表情で頷き、他には何も言わない。

 そんな彼を見ていたシドは、少しだけ表情を和らげた。

「中央はしばらく局長不在になるが、地方局長が交代で中央の局長代理として責務を果たすことになった。それぞれ中央の内部の立て直しに躍起になっているから、しばらく中央は慌ただしくなると思う。でもまあ、何か気になることがあったらあのハゲに言うといい」

「ハゲハゲ連呼すんな」

 そこに姿を現したのは、当の本人で、北部局長が隔離室の扉のところで頭を撫でていた。多少、疲れたような表情ではあったけれど、シドに向かって笑顔を見せている。

「そろそろ傷心旅行にいかせてくれ、息子よ。これ以上働いたら頭以外も禿げるぞ」

「全力で却下だ」

 憮然と言い切るシドの横を通り、局長はグレイの前に立った。グレイは椅子から立ち上がり、その椅子を局長に勧めたものの、局長は首を横に振って見せる。そして、グレイとわたしの顔を交互に見やる。

「エアリアル君は帰宅許可が下りた。下りたというか、下ろされたというか、うん、まあ、そういう感じだ」

 ――やっぱり、お母さまの手腕だな。

 わたしは曖昧に微笑み返した。

「ただ、一つ忠告はしておく」

 局長が困ったように笑い、肩をすくめながら続けた。「神殿の連中は、強い魔力を持った人間を引き込むのに熱心でね。さすがにエアリアル君はオーガスティン家の名前があるから、相手もそうそう手出しはできないと思う。それに、この状況で奴らが狙うとしたら立場の弱いグレイ・スターリングの可能性が高い。かといって、司法局としても犯罪者を神殿に入れることには賛成できない」

 グレイは僅かに眉を顰め、ただ沈黙していた。

 すると、局長はそこでニヤリと笑う。

「ここで交渉がある」

「……交渉?」

 グレイは警戒したような声を上げた。

「我々司法局は、君を神殿に引き渡さないように守ってやろう。その代わり、その魔力の強さを活用して、時々我々の捜査に協力をしてもらいたい」

「それは……強気な発言ですね」

 グレイは猜疑心あふれる口調でそう呟いた後、小さく頷いた。「僕に決定権はありません。そちらの命令に従います」

「素直だねえ。拍子抜けするわー」

「いや、こちらこそ意外すぎて困惑しています。僕を危険だとは思わないんですか?」

「そりゃ危険だとは思っとるよ。ただ、これが私が君に与えることのできる最後の更生のチャンスだと思ってくれ。我々の命令を裏切ったり、司法局にとって不利益になるようであれば、我々は君を全力で潰さなくてはならないということも理解の上で返事が欲しい」

「ああ、なるほど」

 グレイは少々、毒気の抜けた表情で応えた。「もちろん、協力を求められたら従いますし、何も問題はありません。邪魔になったらいつでも処分してもらえれば」

「本当、あっさりしてるもんだねえ」

 局長は苦笑を漏らしていた。


「エアリアル君は学園に復帰かな?」

 やがて、局長がわたしを見つめて言った。

「……はい。それが可能なら」

 わたしが一瞬だけ口ごもったのを見て、局長が明るく笑った。

「可能だろう。まあ、できれば学園でいい成績を修めて卒業して欲しい。こちらとしても、優秀な人間であれば公式にスカウトしやすい」

「スカウト……」

「ちなみに、捜査官育成学校は何歳からでも入ることができるのでね」


 そこに、グレイが小さく口を挟んできた。

「……優秀じゃなきゃ捜査官にはなれないはずだけど」

「失敬ね! わたしだって、やればちょっとはできるんだから!」

 わたしはつい、そうグレイに向かって叫んでいた。しかし、グレイは呆れたような目でわたしを見つめるだけだ。

 何よそれ、信じてないのね!

 ウェクスフォードじゃ必死に必死に勉強を頑張って、そこそこ上位にいけたんだから! そりゃ、サイモンには敵わないけど、きっとそのうちには!

「……頑張れ」

 グレイが明らかに面倒くさそうにそう言うものだから、わたしはつい、NGワードを叫びそうになって唇を噛んだ。

 ファッキン、グレイ!

 覚えてなさいよ!


 そして、翌日にはわたしは久々にオーガスティン家に帰宅した。

 迎えに出てきたクレアに抱き付き、久々の感触に感動した。ああ、これよこれ! このサイズが普通なのよ! 男性だったグレイの腕で抱きしめるとクレアはとても小さかったけれど、それよりやっぱりこのサイズがしっくりくる。

 クレアは呆れ果ててわたしを引きはがすことに熱心だったけれど、わたしが元の姿に戻ったことを喜んでくれているのが解った。

 やっと、本当に終わったんだなあ、と実感できる。


 学園に『転学』手続きが済むまで、わたしは屋敷に引きこもっていた。結構長い間、男性の姿でいたせいか、身のこなしが男性っぽいというのが問題で、お母さまがまたカート・ポーターを呼び出していた。

 男性らしい立ち振る舞いを教え込んでくれた教師であるカートは、今度は女性らしい立ち振る舞いを教えるという役目を果たすために呼ばれたわけだ。彼はさすがプロというべきなのか、今度は女性か、と困惑していたにしろ、それを表情に出すこともなく色々注意すべきことを教えてくれた。


 わたしは、事前にウェクスフォードの学力テストを受けていた。一応、形式的なものだ。

 学園長にだけは、わたしに起きた事件のことを伝えてあるらしい。お父さまがそう言っていた。

 司法局からも、何か話がいっているみたいで、転学手続きそのものはとても簡単だったとか。テスト結果からも魔法科のAクラスに戻るのも簡単だったらしく、何もかもスムーズに進んだ。


 そして、記念すべき転学初日。

 わたしは、Aクラスの担任のマクレーン先生に連れられて、初めてこの学園にやってきました、という形でクラスメイトたちに紹介をされた。

「エアリアル・オーガスティンです。よろしくお願いします」

 そう言いながら教卓の横で頭を深く下げ、ゆっくりと視線を上げた時、窓際の席に座っていたサイモンと目が合った。

 サイモンはわたしの名前を聞いた瞬間、驚いたように目を見開いて、それから意味ありげに目を細めていた。

 クラスメイトは皆、それぞれの反応を見せていた。興味津津といった目つき、警戒した目つき、色々だけど。

 自慢じゃないけど、初日だもの、頑張ったわよ!

 まだ髪の毛は短いけれど、念入りに手入れはされているし、制服だって真新しい。立ち振る舞いだって、カートに言われた通り、できるだけおしとやかに見えるよう気を遣っている。

 見た目九割。

 そうよ、なかなかの美少女だって自信はある。

 たとえ中身が残念であったとしても!

 こっそり辺りを見回してみると、後ろのほうの席に座っていたレベッカが目に映る。彼女はあまり、わたしに興味を持った雰囲気ではなかった。すぐに机の上に置いてあった教科書のほうに視線を落としてしまったし、時折、退屈そうに窓の外を見る。

 何とかまた、友達になりたい。

 そんなことを考えながら、わたしは自分に与えられた席についた。

 エイス・ライオットが使っていた机。

 わたしはつい、にやけてしまっていた。


 最初の休み時間の時、早速サイモンがわたしに声をかけてきた。

 ただ、他の生徒たちもわたしに色々質問攻めをしようとしてきていたから、サイモンは何て話しかけようか戸惑っていたらしい。

 どちらかと言えば、女の子たちがたくさんわたしの周りにいたし。

「エアリアル?」

 サイモンはそう言った後、口ごもった。

 わたしだって、彼には色々話したいことがある。でも、この衆人環視の中ではとても立ち入った会話はできない。

 どうしようか、と悩んでいるうちに、教室の扉が勢いよく開いた。


「エアリアル! 待ってたのよ!」

 開いた扉のところで立っているのはレイチェルで。

 わたしは背中に嫌な汗をかきながら微笑んだ。

「……レイチェル、ええと、わたしは」

「放課後、またくるからね! 今度こそ演劇部に入ってもらうんだから! 先輩の言葉は絶対なのよ、絶対!」


「何か……見覚えのある光景だなあ」

 気づけば、サイモンの横に立っていたチャドが茫然と呟いていた。マクミランも何だか怪訝そうな表情で近くの席に座っていて、首を傾げている。

 そして、サイモンは頭痛を覚えたかのように額に手を置いて俯いていた。

「いや、ええと。わたしは剣術部に」

 と、慌てて首を横にぷるぷる振っていると、サイモンは呆れたように自分の席に戻っていったのが見えた。

 えええ!?

 グレイといいサイモンといい、わたしに対する態度がひどくない!?

「ちょっと、サイモン!」

 わたしはレイチェルを無視してサイモンの背中に声をかけた。「放課後、図書室に付き合って!」

「……解った」

 サイモンはこちらを見ないままで応える。

 周りでは「知り合い?」とかひそひそ会話している声が聞こえたけれど、まあいい。墓穴を掘ることだったら慣れている。後で何とかうまく誤魔化せばいい。

 わたしは開き直って腕を組んだ。

 とりあえず、普通の生活に戻ってこれた。

 それだけでよしとしよう。


 何か問題があったとしても、きっと何とかなる。どんな問題だって、レティシアの件に比べれば些細なことだ。

 わたしは机に頬杖をついて小さく笑った。


  <END>

ここまで読んでくださいまして、ありがとうございました。

レティシアとの対決が終わり、一番の敵がいなくなるという区切りのいいところにやってきましたので、これで完結とさせていただきます。

色々と反省点の多い作品となりましたが、書いていて楽しい作品でもありました。

一応、身体が入れ替わったのだから、とお義理程度に恋愛フラグみたいなものも入れてみたのですが、主人公が恋愛音痴だから入れるだけ無駄でした。残念!


一応、番外編か続編をそのうちに書こうとは考えています。

その時は、またおつきあいいただければと思います。


今後の感じといえば。


エアリアル

恋愛音痴のため筋肉と恋愛フラグを立てるも回収能力がないため放置、自覚なし

さらにグレイと微妙なフラグを立てる


グレイ

男性に興味がないと公言してはばからないので、一部の捜査官たちから残念な人扱い


サイモン

友人だと思っていたエアリアルが美少女として登場したので困惑


筋肉

しょせん筋肉バカ


シドとマチルダ

恋愛音痴とひねくれ者のためすれ違いが続く


ハゲ局長とシャーラ

悲恋フラグ


神官長

そろそろ自分の痛さに気づいて欲しい(願望)


ギャリー

エアリアルととある事件を通じて会うが反応微妙


エドガー・エリザベス・その他

通常営業


そんな感じで色々考えてます。


何はともあれ、皆様に感謝!

ありがとうございました。また別作品でお会いできたら嬉しいです。

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