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遭遇1

「ナツキ、行くなら気を付けるのよ?」

「大げさだよ、そこのコンビ二に行くだけかんね、そもそも行かせようとしてるくせに」


 母親にそういってから靴を履き玄関を出る。

 僕はナツキ、小田夏樹。高校に入学したてでクラスでは居るは居るけどというクラスの脇役に甘んじている。本当はもっとワイワイやりたい性格なのだけど、入学してすぐ人見知りが発動してスタートを損ねてしまったのだ。中学の友達もいたから一人じゃないけど、できるならクラス編成からやり直したい。


 コンビニは歩いて五分もしない。チューブに入ったわさびが無くなってしまい、父親がどうしても欲しいと言うため買い出しに行かされているのだ。

 自転車を止めてまぶしい自動ドアに近づくところで犬の鳴き声が聞こえた。普通に元気よく吠えているのではなくどきりと驚いてしまうような悲痛な鳴き声である。僕ははその声に何かあったのではないかと気になり、先にそちらに近寄ってみることにした。

 

 少しうわ足だっていることを自覚しながら何かあるのではないかと好奇心につられ鳴き声の方へ向かう。声した場所は何も入ってない空の雑居ビル、その入り口に一匹の犬がいた。見覚えがある、我が家の近くに住む独身の男の飼い犬だ。

 綺麗な色をした犬で、飼い主とも犬のつながりで親しくなり話したこともあるが当の犬の種類は忘れてしまった。名前はリン、飼い主にものすごく懐いていて、足元から離れず後ろから付いてく姿が印象的な賢い犬であり、学校の帰りに何度も撫でていたおかげで僕にもお腹を見せるくらいに懐いている。


 今はリンのそばには誰もいない。


 リンが噛みついたりするような犬でないことを知っているからそばに近寄ってどうしたのか尋ねる。もちろん返事など帰ってこないが僕の方と雑居ビルのドアを交互に見ながら悲しげに鳴く。


「ここに入りたい?」


 そう聞くとこっちを見て少し嬉しそうな顔をした気がした、だからビルのドアに手をかけてやる。鍵がかかってると思ったが埃っぽい抵抗があっただけで難なく開く。リンは一つだけ吠えてドアを開けてすぐの階段を駆けて行った。その後はかすかに静かになり、暗く二階へと続く階段の目の前に取り残された。


「リン?」


 ちょっと不安げにもう一度名前を呼ぶも帰ってくるはずもない。いつもと違うリンの様子を放置することができいと思うがこの階段を登ることも気が引ける。少し考えてから「よし」と声をかけ辺りを見回してから片足を階段に載せる。あたりは誰もおらず、勝手にビルに侵入する自分をとがめるような人はいない。僕は臆病じゃないはず。

 二階から物音が聞こえてくる。床をける音、リンのと別に誰かがいるようだ。もう一度自分を励まし、一気に駆けあがる。しかし足音は出来るだけたてないようにした。


 二階に上がってすぐに窓から入る街灯光により半分開いたドアが映し出される。そこの向うにリンと何かがいるようだ、一応自分がいることをばれないよう静かに歩いていたがすぐにリンのうなり声、それだけで怪我人が出そうで腹の底をかき混ぜるような声に驚いたけど腹をくくりドアをくぐる。


 目に飛び込んできたのは薄暗い中でも鮮やかに映える全身赤い影とそれに向かいうなり声をあげるリンであった。


「リン?」

 

 名前を呼んで恐る恐る足を踏み出すと全身赤い人が窓から入る光で鮮やかな光を反射するフルフェイスのヘルメットをこちらに向ける。と同時にリンが飛びかかり赤い人に尻餅をつかせもみ合う。リンは激しく赤い人に噛みつき、合間合間に大きく響く声で吠えている。焦って、さらにリンを大きく呼んだ。

 わずらわしそうゆっくりと抵抗する様はまるでじゃれる子犬を相手する如くで

着てる赤いスーツで牙も爪も通してないことがわかる。それからリンと赤い人の奥の陰にもう一人誰かがいることに気づいた。しかし光が窓枠に遮られぼんやりとした輪郭しか見えなけどそれが人に似た別のもであると確信させ、息をのませる。


 赤い人がリンを投げ飛ばし、立ち上がりながら「すぐにここから出るんだ」と変に低い声で言う、それから再び飼い主にべったりであった面影をまるで持たないリンが赤い人に再び飛びかかる。


 向う側の陰にいる良くわからないものを背にして、リンは赤い人に飛びかかられそのたびに跳ね返されている。

 一歩だけ、奥のものが近づく。


「この犬をすぐ連れて帰れ!」


 一度飛びかかってきたリンを掴み、そのまま背後のナツキのいる方へ投げ飛ばす。キャンと悲鳴を上げて足元に転がってきたけど僕がどうする前にまた人の背中に飛びかかる。背後に取り付かれた赤い人は「やめてくれ」と声をあげつつ振り払おうと背中を動かす。

 二歩と奥から近づいた。


 街灯の光が斜めにかかる。

 破けたダークグレーの布が垂れていて、それを破ったのが取っ組み合ったためとかではなく内側から生えた昆虫のようにぬらりと光を反射する棘がいくつもつき破っているからだ。ただでさえ不気味に揺れて進む身体さらなる奇怪な印象を与える。光に照らされて舞う埃の中に浮かび上がる姿は決して人の物ではない。また着ぐるみとかではないことは異様に細長く関節と思わしき箇所で大きな棘を持つ腕と足によって否定された。


 僕が一言で言うならば“怪物”である。


 言葉を失って見ているとそれは赤い人に対し、棘の付いたリーチのある腕をもって横から振りぬく。「危ない」と伝えたかったが声が出ない。リンに気を取られた瞬時の一撃を赤い人はかわすことができなかった。


 リンが赤い人と共にナツキの足元に飛ばされる。

 赤い人がうめき声をあげて起き上がろうとする。呻きを上げたのはリンも同じであるが少し異なっている。呼吸がか細く、まるで穴から漏れるだけのように聞きたくない音が聞こえた。


「うそ」


 自然にしゃがみこみリンの前で呆然とする。そこには背中を大きく裂かれ毛皮の中に暗く赤い血が大量に含まれていて、さっきまでと同じリンに見えなかった。棘がえぐったんだ。そんな光景を目の前にしたからか吐き気のような塊が胸にこみあげて腕から力も抜ける。めまいが同時に襲い、気づいたらリンの上にかぶさるように倒れていた。



 

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