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第二話 夢

三時間目の授業。


この中途半端な時間の授業はどうも眠くなる。怜奈はうとうとしながら頑張って眠気に耐える。先生から見て中央の右隣なので目立つ、しかも寝ている人が誰一人も居ない。


フラフラになりながら必死に耐えるが、『どうせ誰も気にしない、寝てしまえ』という悪魔の囁きで、もうどうでも良くなり睡魔に負けてしまって夢の中に入る。


―――――――――――――





私はパープルディープズというアイドルグループメンバーでセンターを務めている。オリコン一位を叩きだし続け、私達はテレビ局に引っ張りダコだった。


ここまで上りつめるのはとても楽な道のりではなかった。まずは最初に路上ライブから始まり、駐車場や大通りや協力してくれる店の前やカレー屋の前、電車の中、線路の上、ピラミッド、南極、ルクセンブルク……


本当に大変だった。だけどその積み重ねがこの素晴らしい結果に辿り着いたのだ、過程というのは本当に大切だ。


だけど私はもう充分に幸せになった。私達はラストの曲を歌い終わると大勢のファン達の前に立つ。


「みなさん!私は今日をもって、パープルディープズを引退します!」


ファン達は騒然とする。そしてメンバーも驚きを隠しきれないようだ、だけどもう私が居なくてもパープルディープズはやっていける。偉杏が居ればなんとかやっていける。


「ごめんねみんな、黙ってて」


「フーン…そーなんだ。え?今から帰るの?」


人が引退するってのに、ミッチーはクソ冷たい。表情は一切変えずに眠そうな声でそう言う。


「ちょっとミッチー!怜奈が引退するってのにどうしてそんなに冷たいの!?」


「え?いやだって…別に怜奈が引退しようが死のうが…私には関係ないし…ていうかぶっちゃけ音楽が出来たらそれでいいし…つーか私別にアイドルじゃなくてバンドしたかったのに、アンタ等が人数埋め合わせで無理矢理連れて来たんじゃないか…」


「ミッチー!」


「いいのよ。ミッチーは前からこういう子だったじゃない、カメラ壊したり、会場の機材燃やしたりなんてまともな神経だと出来ないわ。みんなありがとう!さようなら!」


怜奈ー!まってくれー!行かないでー!ウォー!ウヴォー!ブベー!怜奈ー!怜奈ー!


ファン達は泣きながら怜奈に手を伸ばしてくる。みんな、そこまで私の事を…!


すると突然、ステージの裏が大爆発した、燃え上がる炎の中から螺子が数本刺さった大男が私に突進してきた。避けきれない。


「ごはっ!?」


骨が砕ける音を響かせながら、私は中を舞いながらファンの所へと落ちていく。

だが、そこにはファン達は居なかった、その代わりに無数のゾンビ達が居た。腹をすかせて餓えたゾンビは私の肉を食べようとする。


「う、うわぁああ!止めろぉーッ!このちっぽけな小僧がァァーーーッ!!!」


「ぐわぁあああばぁああああああああああ!!!!」


           ブチッ






ここはどこ?だ? 腹減った…  寒い  寒い


  寒い  

              寒い  

                      寒い  寒い

     寒い

         寒い 

              寒い

     寒い 


                      寒い


 腹減った  

               腹減った


                      お母さん…


オカアサン   ダレダッケ 


                モウ…  ナンダッテ


               イイヤ…



グチョ…べチョ…グチュ…ブシッ!ゴリゴリゴリ…クッチャクッチャ…


ニク ノ アジ ダ 


「ウゥウゥ…グルル…」


ワタシ ガ イドウ スルト ホカ 

                  ノ ミンナ モ ツイテクル・・・




ワタシ   ハ  ゾンビ タチ ノ アイドル  ニ ナッタ



       インタイ  デキナカッタ。







―――――――――――――――――


「おっぴぃぃ!?」


怜奈は飛び上がるように起きる、先生やみんなが怜奈の奇声に反応して注目を集めてしまった。


「あ、あの…いや…すみません」


そう言うと何事もなかったかのように授業が再開する。良かった真面目な人ばかりで。


なんて事だ、凄い悪夢を見てしまった…。怜奈は冷や汗でビッショリになりながらも、書きかけのノートにペンを走らせる。


「あれ…今、どこやってるの…?」


結局私は授業について行けず、そのまま三時間目は終了した。



放課後。私は自分で作った非公式の部活をやっている、その名も『妄想部』。


ひたすら妄想するだけで、もし自分が神様だったら~とかをひたすら妄想するだけの部活である。


この前行われた妄想全国大会で私は個人部門で優勝した実力がある、妄想だけど。


部活のメンバーはまぁ中が良い、のり子と彩加だけ。一年生は居ない、まぁ非公式だから仕方が無い。


2-8の教室を勉強会と称して部室として使わせてもらっている。何より静かでいい。吹奏楽部の練習する音も聞こえない。


教室に入ると中は静寂だった。図書館みたいに静かで、窓から入って来る隙間風が気持ち良い。


さっそく椅子に座って妄想タイムと洒落込もうとしたその時、ガラガラっとドアを引く音が聞こえた。


「もう来てたんだ、早いねぇ本当に」


「全くですね」


来たのは、のり子と彩加…そしてもう一人女の子が居た。その女の子…どこか見覚えがあった…このクールな感じの雰囲気…。


「あぁ、この子の名前は月庭美智子。一年生で今日入部する」


「よろしくお願いします」


「美智子ちゃんはミッチーと呼ばれているんですよ」


「ミッチー!?」


怜奈は驚愕した。まさかこの子あの夢 (悪夢)に出てきた、あのブラックモアもどきか!?


「アンタ、少しぐらい私を心配しろよ!何!?スーパーギターリスト気取りなの!?」


先程の夢の事を思い出して怒りが込み上げてきて思わず怒鳴ってしまった。美智子は『?』マークを浮かべている。


「おいおい怜奈…まだ妄想から醒めてないのか?それともラリったのか?」


のり子が心配そうにそう怜奈に言う。


「大丈夫。ラリってないよ、ごめんごめん、コッチの事。あのさ、美智子ちゃん…ひょっとしてバンドとか好きなの?」


「え?いや…どちらかというと漫画とかアニメが好きです…けど…」


オドオドした感じで美智子はそう答えた。それを聞いた怜奈はホッとした。


「いや~そうかそうか良かった良かった。ねぇ?良かったね?」


「……何がです?」


「怜奈…アンタ本当に大丈夫?妄想のし過ぎで頭やられちゃったんじゃないの?」


「ヴァかな!妄想は無毒だよ!ナハハハハーッハハーッ!」


怜奈は近くにあった椅子に座り、目を瞑った。


「あの、ところで、どういう妄想をすればいいんですか?」


「え?あぁ、妄想部なんていうけど娯楽部みたいなもんよ。怜奈はガチで妄想に入るからアレだけど」


「怜奈の様に妄想に入ってもいいし、携帯ゲームで遊んでも良い…先生とか滅多に通らないですし」


「フーム…なら…」


美智子はバッグの中からノートと筆箱を取り出し、シャーペンを取り出すと何かを真剣に書き始めた。

のり子が覗き込んで見ると、漫画を描いていた。とても丁寧で尚且つ早いスピードで描き上げていく。

思わず、のり子と彩加はその手際の良さに見とれてしまっている。


怜奈は妄想に完全に入って気付いていない…そして目をゆっくりと閉じてそのまま怜奈は……寝てしまった。


―――――――――――――


「はぁ…はぁ…もう少し…もう少し…」


怜奈はスコップで穴を掘り続けていた。ガチンっと金属音が響く。


「やった!」


手で土をどけると中から宝箱が出てきた、宝箱を開けると金の延べ棒が沢山溢れ出てきた、沢山、沢山。


「う、うわッ!?な、なんだこれ!?だ、誰か助けてくれーッ!」


溢れ出る金の延べ棒を止められず、怜奈は金の延べ棒で埋まってしまって完全に身動きが取れなくなってしまった。


延べ棒の重さが体中に押し潰す様な力が体全体に圧し掛かる。


もう何時間この延べ棒の下敷きになってるのだろうか…今は何時なのだろうか?

今は昼なのかそれとも夜なのすら分からない。


体が痒くなっても腕も動かなく、掻けない。


それより強烈な空腹に襲われるが食べるものなど、どこにも無い。


あぁ … 腹減ったな…


そして翌日、怜奈は救助隊に救助された……死体となって……。


―――――――――――


怜奈は飛び起きた、全身から汗が噴き出して呼吸が乱れている。


まただ。また悪夢を見た。


流石にこう何度も悪夢を見てしまうと怜奈も不審に思った。

つい前まではこんな事無かったのに…。


フッと辺りを見回すと、三人が居ない。

ひょっとしてもう帰ったのかと思って外に出ると、外は既に真っ暗だった。


馬鹿な。


さっき部屋の中から窓の外を見たら夕方だったのに…一瞬にして夜になった…!?


今何が起きている?自然現象か?それとも私がマジでイカれちまったのか?


帰ったら病院に行こうと決心した怜奈だが保健書を無くした事を思い出して頭を抱えた。


とりあえず、ジッとしてる訳にもいかないから怜奈は玄関の方に行って靴を取りに行った。


夜の学校は本当に気味が悪い。


先生も既に居ないし、明かりも何一つ点いていない。


早くここから出たいという気持ちが高まってきた怜奈はやや早足になる。


怜奈は口笛を吹いて恐怖心を誤魔化しながら靴箱がある玄関の所にたどり着いた。


しかし怜奈の下駄箱には靴が無い。


怜奈だけじゃない、他のみんなの靴も無くなっていた。


「どうなってるんだ…?」


怜奈はあまり深く考えずに上履きのままで校門の所まで早歩きで向かった。


校門の所に辿りつくと、やっぱり校門は閉まっていた。


だがなんて事は無い。乗り越える程の高さだ。


怜奈は校門を乗り上げて、校門の外に出ようとする…しかし怜奈は『異変』に気付いてすぐに内側に戻った。


校門の外を見ると奈落の底が広がっていた。


もう少しでこの暗闇の中に落ちるところだった。


しかし何故こんな事に…考える怜奈。だが原因が一切分からなかった。


「だが、あげられる原因と言ったら…悪魔の悪戯か…天使の罰か…私がイカれたか…」


怜奈はとりあえず2-8の教室に戻った。


「あれ…?」


保健室だった場所がいつの間にか2-8と書かれていた…そして職員室だった場所も2-8と書かれている…。


どこの教室に行っても2-8と書かれた教室ばかりだった。とりあえず近くにある2-8の教室に入ってみる。元は怜奈のクラスの教室である2-3だが。


ガラリと扉を開けると突然手が伸びて怜奈の手首を掴んだ。


「きゃっ!?」


その手はとても冷たく、老人の様な手をしていた。


その謎の手は怜奈を暗い教室の中に引きずり込もうとしている。


怜奈は堪えるが、物凄い力で引っ張られる。このままでは引きずり込まれる。


すると怜奈はポケットに入ってあったボールペンで思いっきりその謎の手を突き刺した。


怪物の様な叫び声を上げた後、手はすぐに引っ込んだ。


「はぁ…はぁ…何だったんだ…?」


怜奈は汗を拭って心を落ち着かせる。


もしかすると間違った教室を選ぶと、あんな風に教室の中に引きずり込まれるのか?


そう考えた怜奈は、元の2-8の教室に行った。


今度はもう失敗出来ない。ボールペンもあの手に突き刺したままにしてしまってもう無い。


怜奈は元の2-8の教室の前にたどり着いた。


怜奈は意を決してドアを開けて中に入る。


教室の中は真っ暗だった。


何も変わらない。あの手も出ない。


助かったのかと思った矢先に、足を掴まれる感覚がする、一本の腕だけじゃない…二…三…四、離そうとするが中々離れない。


顔が現れた。中年男の顔が舌を出しながら怜奈のスカートの中を覗き込んでいた。


その男だけではなく、老若男女問わずに暗闇の中から這い出て怜奈の体を触り始めた。


気持ち悪さを通り越して恐怖を感じた、涙が出そうになる。


すると、何かが聞こえる。


『席につけ』


脳内に響く。誰の声かは分からない、そして暫くするとまた聞こえてきた。


『席につけ』


先程のトーンでもう一度誰かがそう言った、ハッと前を見ると椅子がポツンと置いてあった。これは私が座っていた椅子だ。


私は聞こえてきた声を信じてその席に向かった。だが腕が怜奈の進行を止める。


怜奈は力を振り絞って椅子に辿り着いて座った。



――――――――――――


「怜…奈…怜奈…怜奈!」


目を覚ますと彩加の声が後ろから聞こえてきた。


「どうしたのですか?うなされてましたよ?」


「あ、あぁ…いや、何でも無い…や」


「やっだ怜奈!どうしたのそれ!?」


怜奈が立ち上がると、のり子が顔を覆った。

何かと見ると、制服やスカートやら下着が破れてモロ出し状態だった。


「まぁ…激しい妄想だったのですね…」


「ち、違う!これはな!」


言い訳しようと思ったが、正体不明の手に破かれたと言っても信じてくれないだろう。しかし、服が破れたって事は…まさかアレは現実…?


「もう…次からは家でしてくださいね。私のジャージを貸してあげますよ」


そう言って彩加が怜奈にジャージを手渡し、すぐにジャージに着替えた。


それからは何も無かった。美智子ちゃんが漫画を完成させて喜んでいた、趣味でやってるだけみたいだが。


それにしてもアレは一体何だったのか…?私の空想なのか…それとも……。


いや、もう考えないでおこう。思い出すだけでも不快だ。


それにしてもこの制服…どうしようかと怜奈は悩んだ。

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