第九話 闇の使者、冥獣四天王現れる!
悪霊・玉梓の命を受け、山城の国の大江山に辿り着いた幻斎坊は、大江山の怪鬼・酒呑童子の前に姿を現し、こう話し掛けていったのである。
『お主が、大江山の酒呑童子か・・・。』
『そう言う貴様、何者だっ。』
『拙僧は、幻魔城城主・玉梓様に仕える闇の僧侶・幻斎坊と申す。』
『その幻斎坊が我に何の様だ。』
『単刀直入に話そう、我等闇の一族に力を貸さぬか・・・。』
『闇の一族に力を貸すだと・・・、それは出来ない相談だ。』
『ならば仕方があるまい・・・、貴殿には我等の下撲となって貰うぞ。』
すると、幻斎坊は酒呑童子に奇襲攻撃を仕掛け、酒呑童子は幻斎坊の攻撃を避けていくが、暫くして幻斎坊は姿を消していったのである。
『幻斎坊っ、何処へ消えた。』
『ふはは・・・。酒呑童子よ、貴様には我の攻撃をかわす事が出来るものか。』
『黙れっ、何が何でも貴様等闇の一族に力を貸すものか。』
『ならば仕方あるまい、あまり荒っぽい事はしたくはないが・・・やむを得んな。』
そう言って、幻斎坊は懐から〔霊魔転怪符〕を取り出し、酒呑童子に目掛けて放っていった。
『げ、幻斎坊・・・貴様何をした・・・。』
『ほほほ・・・、ちょっと細工を施したまでだ・・・。貴様は今日から我の下部として光の犬士を抹殺して貰うぞ。』
『うっ・・・、うぉぉぉ〜っ。』
幻斎坊が酒呑童子の背中に〔霊魔転怪符〕を貼り付け、酒呑童子の表情が豹変していき、邪悪に満ちた恐ろしい魔物に変貌していったのである。
『さぁ、酒呑童子よ・・・。我が命令に従い、光の犬士どもを必ず始末するのだ。』
『御意・・・。』
一方同じ頃、ドクロ法師との激闘を終えた導節一行は、一路山城の国に向かっていった。
既に上空は暗雲が立ち込め、邪気に満ち溢れていたのである。
「やっと此処まで来たな、それにしても何だかおぞましい妖気が立ち込めているぞ。」
「確かに、此処山城の国はおぞましい妖気が充満している。これは、間違いなく闇の一族が関わっているに違いない。」
「導節様、急いで大江山に向かいましょう。」
「待てっ、新兵衛。大江山へ行くのはまだ早い。酒呑童子との戦いはいつでも出来る。」
「導節の言う通りだ、此処はひとまず、鋭気を養った方がいいぞ。」
「・・・分かりました、導節様。」
「それよりも、これからどうするんだ。」
すると信乃は、口火を切ったかの如く、導節に話し掛けていった。
「とりあえず、宿を捜しましょう。大江山に行くのはそれからにしたほうが・・・。」
「そうだな、新兵衛、信乃、現八、小文吾。急いで宿屋に行くぞ。」
と、その時だ。
突然導節達の前に、闇の僧侶・幻斎坊が姿を現した。
『光の犬士の諸君、初めまして・・・。』
「だ、誰だてめぇは・・・。」
『申し遅れました、我は闇の僧侶・幻斎坊と申す者・・・。』
「何っ、闇の僧侶だと・・・。」
「まさかっ、闇の一族の者か。」
『さすがは光の犬士の諸君。』
「ちょうどいいや、てめぇをぶっ飛ばしてやるぜっ。」
現八が幻斎坊に斬り掛かろうとしたその時、幻斎坊が妖術を施し、現八の動きを封じていったのである。
「な、何っ・・・。」
「やいっ、幻斎坊。現八に何をしやがった。」
『ふはは・・・、少しばかり貴方達の仲間の動きを封じさせて貰いましたよ。』
「くっ、か・・・身体が・・・。」
「現八っ・・・。」
「てめぇ、現八殿を元に戻しやがれっ。」
『それは無理な相談だ。ならばお主達も同じ目に逢わせてしんぜよう。』
幻斎坊が再び妖術を施し、導節達に攻撃を仕掛けようとしたその時、小文吾の身体が突然変異を起こし、獣の姿に変身してしまったのである。
『な、何だあれは・・・。』
「うぉぉぉ〜〜〜っ。」
獣の姿に変身した小文吾は、幻斎坊に突進していくのだが、幻斎坊はひらりと身をかわしながら空中に漂っていったのであった。
『うぬぬ・・・、今日のところは引き上げよう。だが、この次に逢う時は必ず貴様達を地獄へ送り込む故、左様心得ておくがいい・・・。』
そう言って、幻斎坊は妖術を施しその場から姿を眩まして行くのであった。
「くそっ、あと一歩のところで・・・。」
「幻斎坊の奴、とんでもない術を掛けやがったな。」
「それよりも、現八に掛かっている術を解かないと・・・。」
信乃は現八に掛かっている妖術を解く呪文を施していくが、何の効果もなく妖術を解く事は出来なかった。
「駄目だ、妖力が強すぎて現八殿に掛かっている呪いを解く事が出来ない。」
「呪いって何々だよ、信乃。」
「恐らく、幻斎坊の放った妖術は相手に呪いの術を掛け、永遠の命を奪う恐ろしい術だ。」
「信乃、どうすれば呪いの術を解く事が出来るんだ。」
「・・・今のところ、呪いの術を解く方法は無い。」
「何だって、このままじゃ現八が死んでしまうじゃないかっ。」
「落ち着け、新兵衛。」
「しかし・・・。」
「信乃、何かいい方法は無いのか。」
すると信乃は、
「一つだけ方法がありますが、かなり危険を伴います。」
「どんな方法なんだ、信乃。」
「この山城の国の南東にある〔霊岳洞〕と呼ばれる洞窟があり、その洞窟には恐ろしい魔物が住んでおり、洞窟の奥には〔万能霊薬〕と言う妙薬があるとされているのです。」
「・・・信乃、その万能霊薬を手に入れれば、現八は助かるんだな。」
「ええ、ただ・・・。」
「ただ・・・って何々だよ。」
「ただ、あの洞窟から生きて出れた者は、誰一人いないと・・・。」
「だったら、俺がその万能霊薬を取って来てやるぜ。」
小文吾が一人で万能霊薬を取りに行くと導節に言うのだが、それではあまりにも危険過ぎると小文吾を咎めるのだった。
「小文吾、お前の気持ちはよく分かるが、あまりにも無謀過ぎる。」
「しかし導節様・・・。」
「落ち着け、小文吾。此処は一つ、私と新兵衛と三人で霊岳洞へ向かうと言うのはどうだ。」
「そうですよ、三人で行けば万能霊薬を手に入るかも知れないじゃないですか。」
「・・・分かった、万能霊薬が手に入るのであれば、一人で行くより三人で行ったほうが確実だからな。」
「そうと決まれば、今すぐ霊岳洞へ行こう。」
「信乃、現八の事頼むぞ。」
「分かりました、現八殿の事は任せて下さい。」
「新兵衛、小文吾。行こう・・・。」
その頃、闇の僧侶・幻斎坊はと云うと、かつて伝説の犬士に封じられていた【冥獣四天王】を復活させようと、《封魔塚》と呼ばれる場所にいた。
『オン・バゾロウ・キリセンマンダ・アーク・バサラ・タンカン!深き闇に眠りし冥獣四天王よ、今こそ我が命令に従い、再びこの世を闇に染めよっ。』
すると、突然空が闇に染まり始め、雷鳴が轟く中四つの墓標が爆発を起こし、暗闇の中から妖しい光を放ちながら冥獣四天王が復活を遂げたのである。
『うぉ〜〜〜っ、久しぶりの人間界の空気は、随分と邪気が少ないな。』
『あ〜ら、そんな事ないわ。これでも充分悪の気は充ちているじゃないの。』
『ふんっ、貴様は相変わらず呑気な事を・・・。』
『まあまあ、そう興奮しないで下さいよ。我々冥獣四天王は再びこの世に出られたのですから・・・。』
『ほほほ・・・、皆さんどうやらお揃いの様ですね。』
『貴様はいったい何者だっ。』
『まぁ、お聞きなさい。拙僧は闇の僧侶・幻斎坊と申す者。』
『その闇の僧侶である貴様がいったい我等冥獣四天王に何の用だ。』
『次第に因っては、命を貰い受けるぞっ。』
『そう興奮なさらずに・・・。実は我が主である幻魔城城主・玉梓様に御目通り願おうと・・・。』
『我等を幻魔城に招待すると申すのか。』
『まさか、我等を騙そうとしている訳ではあるまいな。』
『とんでもない、拙僧はその様な事は一切致さぬ。では、我が妖術で幻魔城へ案内致そうぞ。』
そう言って、幻斎坊は妖術を施し、一気に幻魔城へと移動していったのである。
暫くして、冥獣四天王を幻魔城に連れ出した幻斎坊は、玉梓の前にひざまづき冥獣四天王も同時に平伏したのであった。
『玉梓様に報告致します。これに控えているは、かつて最強の魔物と恐れられていた冥獣四天王にございます。』
『何っ、冥獣四天王とな・・・。』
『はっ、是非玉梓様に御目通りすべく、この場にて連れて参りましてございます。』
『なるほどのぅ。それで、うぬ等の名は何と申すのじゃ。』
『我は冥獣四天王の一人、闇の吸血鬼・朱雀将軍。』
『同じく、闇の破壊王・玄武将軍。』
『同じく、闇の風使い・白虎将軍。』
『同じく、闇の妖術師・青龍将軍。』
『我等、冥獣四天王・・・見参!』
『幻斎坊、なかなか心強い者達ではないか。』
『御意、玉梓様がお喜び頂ければ、この幻斎坊身に余る光栄にてございます。』
『では、冥獣四天王に命令を下す。我等を亡き者にせんとする輩である、光の八犬士を抹殺して欲しいのじゃ。』
『玉梓様、我等冥獣四天王に万事お任せの程を・・・。』
と、そこへ冥獣四天王の前に現れたのは、なんと暗黒の魔術師が姿を現していったのだった。
『こいつ等が、噂に聞く冥獣四天王か・・・。』
『だ、誰だ貴様は・・・。』
『俺の名は、闇の魔導騎士・暗黒の魔術師。』
『てめぇ、我等冥獣四天王を侮辱するつもりか・・・。』
『侮辱だと・・・。ふっ、貴様等が光の八犬士を抹殺する事など、到底無理な事だ。』
『き、貴様我等の力を見くびっているのか。』
『ならば、我々の力を思う存分受けてみなさい。』
すると冥獣四天王は、暗黒の魔術師に斬り掛かっていくが、暗黒の魔術師は剣を構えて術を唱えていったのである。
『ふっ、無駄な事を・・・。魔導秘術・波動烈火斬!』
暗黒の魔術師の必殺技・波動烈火斬が炸裂し、冥獣四天王は四方に弾き飛ばされてしまったのだった。
『ば、馬鹿な・・・。』
『我等が束になっても、あんな奴に負けるなんて・・・。』
『だから言ったであろう、貴様等には、光の八犬士は倒せぬと・・・。』
『暗黒の魔術師、お前は光の八犬士を倒す自信があると言うのか。』
『さぁな、奴等の力はまだ完全では無い。だがいずれにせよ、奴等八犬士が揃った時、底知れぬ強大な力を発揮するだろう。』
『・・・なかなか面白い男じゃな、暗黒の魔術師。』
『玉梓、勘違いをするな。俺はお前達に忠告をした迄の事。決して手を貸すつもりは無いのでな・・・。』
『暗黒の魔術師、貴様玉梓様の御前であるぞっ。無礼を働けば、例え貴様でも容赦せぬぞ。』
『よさぬか、幻斎坊。放っておくがよかろう。』
『まあ、せいぜい光の八犬士と互角の戦いをするがいい・・・。』
そう言って、暗黒の魔術師はそのまますぅ〜っと姿を消していったのである。
『暗黒の魔術師め、奴はいったい何を考えているんだ。』
『さぁな、それよりも光の八犬士を捜しだし、一気にやっつけてしまおうぜ。』
『ああ、それがいいかもな・・・。』
『あ〜ら、だったら纏めて始末したほうがよくないかしら。』
すると、玉梓は冥獣四天王にある命令を下したのであった。
『冥獣四天王よ、これより大江山に向かい、光の八犬士を待ち伏せし、一気に叩き潰してしまうのじゃ。』
『はっ、我等冥獣四天王・・・、命に変えても任務を遂行致します。』
『では行くがよい、冥獣四天王っ。』
そう言って、冥獣四天王はその場から姿を消し、大江山へと向かっていったのである。
『玉梓様、あの者達は光の八犬士を倒す事が出来るのでございましょうか。』
『幻斎坊、全てはあの者達に任せ、高みの見物と参ろうではないか。』
『御意・・・。』
遂に、復活を遂げた最強の妖魔・冥獣四天王。
光の八犬士との戦いを前に、いったいどの様な罠を仕掛けようと言うのか・・・。
そして次回、いよいよ光の八犬士と、大江山の怪鬼・酒呑童子との決戦を迎える・・・。
果たして、この戦いの結末やいかに・・・。