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第四話 魔神岩の怪異

一方、妖怪・螳螂鬼と鎌鼬を失った玉梓は、闇の僧侶・幻斎坊に何やら相談事を話していた。

『幻斎坊よ、螳螂鬼と鎌鼬を失った今、もはや我等は絶望の淵に追いやられたも同然じゃ。』

『何を仰せられます、玉梓様。奴等を倒す機会は幾らでもあります。』

『しかも奴等、遂に三人目の仲間を見つけた様なのじゃ。』

『何ですと・・・光の犬士が三人に増えたと申されるのでございますか、玉梓様。』

『うむ、さっき使い魔が我に報告をしてきたのじゃ。光の犬士は三人に増え、今四人目の仲間を捜しているとの事じゃ。』『・・・玉梓様、こうなったら一気に奴等を始末した方がよかろうかと思います。』

『そうじゃな。幻斎坊よ、全てその方に任せるとしよう。』

『万事、この幻斎坊にお任せの程を・・・。』

すると幻斎坊は、闇の八卦陣の前に立ち、印を結びながら術を唱え始めていったのである。

『闇の世界より出でし魔界の住人よ、今こそ我が命令に従い、その任務を遂行せよ。出でよっ、妖怪・猿神さるがみ。』

幻斎坊が術を唱え終えると、闇の八卦陣が怪しい光を放ち、その闇の八卦陣の中から妖怪・猿神が姿を現した。

『お呼びでございますか、幻斎坊様。』

『妖怪・猿神よ、玉梓様の御前じゃ。』

『これは玉梓様、お初にお目に掛かります。』

『お主に光の犬士討伐命令を下す。既に光の犬士は三人に増えており、四人目の仲間を捜しているに違いない。』

『妖怪・猿神よ、玉梓様の仰せの通りじゃ。一刻も早く、光の犬士を捜し出し、何としてでも始末するのだ。』

『万事承知致しました、必ずや光の犬士共を始末してご覧にいれましょうぞ。』

『頼んだぞ、妖怪・猿神。お前だけが頼りじゃからな。』

『御意・・・。』


その頃、妖怪・螳螂鬼と鎌鼬を倒した導節一行は、四人目の仲間を捜すべく、東北地方の陸奥の国に向かっていた。

「どうかしましたか、信乃殿。」

「どうも、私の持っている宝玉が光を失ってしまった様なのです。」

「光を失った・・・。」導節は信乃が持っている《信》の宝玉を手に取ると、完全に光を失い、全く反応しなかったのである。

「もしかしたら、信乃殿が持っている《信》の宝玉は、別の犬士が捜しているのかも知れんな。」

「導節様、信乃殿の本当の宝玉は、恐らく《孝》の文字が書かれている玉では・・・。」

「と、言う事は《信》の玉の本当の持ち主は、別にいると言う事になるな。」

「導節様、一刻も早く《孝》の宝玉を捜しましょう。」

「ああ、早いとこ《孝》の宝玉を捜さない事にはな・・・。」

暫く歩いていると、近くの村に辿り着き、一軒の民家を訪ねた。

「御免下さい、誰かおりませんか。」

すると奥の座敷から、一人の老婆が現れ、導節達を招き入れた。

「おや、どちら様でございますか。」

「私達は旅の者だが、一晩宿をお願いしたい。」

「こんなところで良ければ、どうぞお上がりくださいませ。」

「そうですか、では早速・・・。」

導節達は民家に上がり込み、暫く身体を休めていくのであった。

「旅のお方、どちらから参られたのですか。」

「私達は、江戸から参りました。」

「遥々江戸から来なさったのか。」

「はい、私達は諸国を旅しております故、何かと身体が鈍ってしまうのです。」

「そうでしたか、まぁゆっくり休んでいって下さいませ。」

「忝ない、御好意に甘えさせて貰います。」

「ところで、此処に住んでいるのはお婆さん一人なのですか。」

「いえ、私の孫娘が一人いるのですが・・・。」

「娘さんがいらっしゃるのですか。」

「ええ・・・。」

老婆は何やら口を濁した態度で導節達を見ていたが、導節はすぐに『こいつは何かありそうだな』と感づいたのだった。

「お婆さん、いったい何があったのか、話して頂けませんか。」

すると老婆は、あと十日程で自分の孫娘を山神様に捧げなければならないと話していった。

「その山神様と言うのは、いったい何者なんですか。」

「はい、今から十日程前の事でございます。突然山の向こうの方から、大きな猿の化け物が現れ、『お前のところの娘をよこせ。』と言ってきたのでございます。」

「導節様、どうやら只事ではないようですね。」

もしかしたら、闇の一族に関係しているのかも・・・。」

「・・・ところで、娘さんは今何処にいるのですか。」

「孫娘は奥の座敷におりますが、今は誰とも話しはしたくないと申しておるのです。」

「導節殿、いかがなさいますか。」

「私が直接聞いてみよう。私が行けば、何か策が浮かぶかも知れぬ。」

そう言って、導節は娘に話しを聞く為、隣の奥座敷に向かっていった。

「あなたは誰なの。」

「驚かせてごめんなさい、私は犬山導節と申す者にございます。」

「導節様、私を助けて下さい。」

「大丈夫、私達が守ってあげますから心配しないで下さい。」

「ありがとうございます。しかし、私の兄がたった一人で山神様を倒すと言って、出掛けたまま帰って来ないのです。」

「何ですって・・・。」

「兄は私の為に、命を掛けて護ってくれているに違いありません。」

「それで、あなたのお兄さんの名前は・・・。」

犬飼現八いぬかいげんぱちと言います。」

「犬飼・・・現八。」

「導節様、兄の事をご存知なのですか。」

「いえ・・・、それより山神様の居場所を知りませんか。」

「山神様は、この山の向こうの魔神岩の洞窟に住んでいると聞いた事があります。」

「魔神岩の洞窟・・・、そこに山神様がいると言うのですね。」

「はい。」

「早速明日、我々が魔神岩に向かい、山神様の正体を暴いて見せます。」

「ありがとうございます。あっ、それからもし兄に逢ったら、これを渡して頂けませんか。」

すると娘は、一対の刀剣を導節に手渡した。

「この刀剣は・・・。」

「私の兄、犬飼現八しか扱えない特別な刀剣・【龍虎餓狼剣りゅうこがろうけん】と云う物です。もし兄に逢いましたら、この刀剣を渡して下さい。」

「分かりました、必ず現八殿に渡します。」


「新兵衛、信乃殿、明日の朝魔神岩へ向かうぞ。」

「もしかして、魔神岩の山神様の正体を暴くのですね。」

「ああ、何としてでも化けの皮を剥いでやるんだ。」

「導節様、いったい何者が山神様の名を語っているのでしょうか。」

「とりあえず明日行ってみるしかないだろう。」

「そうですね、とりあえず今日はもう遅いですから休みましょう。」

「ああ、そうしよう。」


翌日の朝、導節一行は山神様の正体を暴くべく、魔神岩の洞窟に向かっていった。

「導節様、本当に山神様がいるのでしょうか。」

「ああ、必ずいる。」

「それにしても、現八殿が魔物退治から出掛けたまま帰って来ないと言うのは、どうも引っ掛かるんですよ。」

「それなんだよ、もし現八殿が魔物に捕われていたとすると、こいつはただ事じゃ済まされないぞ。」

「とにかく急いで現八殿を助けに行こう。」

導節達は犬飼現八を助ける為、急いで魔神岩の洞窟へ走っていった。

「待てっ、急いで隠れるんだ。」

導節が何かの異変に気付き、新兵衛と信乃を岩陰に隠れる様指示した。

「導節様、洞窟の前に番人がいます。」

「今のところ、番人は二体だな。」

「これからどうなさいますか。」

「とにかく夜を待とう。現八殿を救うのはそれからだ。」


その日の夜、導節達は洞窟の入口が手薄になったところを見計らい、潜入して行くのであった。

「洞窟の中に入ったのはいいのですが、現八殿はいったい何処にいるのでしょうか。」

「分からぬ、とにかく奥まで行ってみよう。」

「導節様、あれを・・・。」

新兵衛は奥の扉にある岩牢の中にいる人影を発見した。

「おい、しっかりしろ。」

「・・・ん、誰だ・・・私を呼ぶのは・・・。」

「お主、犬飼現八殿でございますか。」

「いかにも、私が犬飼現八ですが・・・。貴方達はいったい・・・。」

「私は、犬山導節と申す者。」

「犬山・・・、おぉ、導節ではないか。」

「現八、久しぶりだな。」

「どうして此処へ・・・。」

「お主の妹君から、兄を助けて欲しいと、此処まで来たんだ。」

「そうだったのか・・・。導節、その刀は・・・もしや龍虎餓狼剣じゃないか。」

「ああ、こいつを渡して欲しいと頼まれたんだ。」

「忝ない、導節。・・・ん、導節・・・後ろにいる二人は誰だ。」

「現八、この二人は私の仲間だ。」

「初めまして、私は犬江新兵衛と申します。」

「同じく、犬塚信乃と言います。」

「そうだったのか・・・、と言う事はお主達は・・・。」

「そう、私達は光の八犬士なんだ。」

「やはりそうか・・・。実は俺も、こいつを持っているんだ。」

すると現八は、懐から麻袋から光の玉を取り出し、導節達に見せたのである。

「こ、これは・・・八大童子の宝玉。」

「しかも、《孝》の文字が浮かび上がっている。」

「はっ、私の持っている《信》の玉と、現八殿が持っている《孝》の玉が共鳴している。」

信乃が持っている《信》の宝玉と、現八が持っている《孝》の宝玉が互いに共鳴し合い、それぞれの持ち主のところへ戻っていくのであった。

「導節様、私の宝玉が・・・。」

「おぉ、俺の宝玉が・・・まばゆい光を放っているぞ。」

「どうやら、本来の持ち主のところへ戻った様だな。」

「《信》の宝玉さえ手に入れば、使えなかった力が使える様になる。」

「私も、《孝》の宝玉を取り戻した今、思う存分必殺技を使う事が出来ます。」

「よかったな、信乃、現八。」

と、突然新兵衛が導節に敵が近付いて来る事を知らせていった。

「大変です、導節様。」「どうした、新兵衛。」「敵がこの近くまで来ています。」

「しまった、どうやら感づいた様だ。」

「導節様、現八殿を助けねば・・・。」

「あぁ、急いで現八を助けよう。現八、後ろへ下がっていろ。」

「分かった。」

導節は、印を結んで修験術を唱え、岩牢の扉の鍵を破壊していった。

「よしっ、早く出るんだ現八。」

「よっしゃあ、これで自由の身だ。とことん暴れてやるぜ。」

「導節様、奴等が来ます。」

「よしっ、みんな行くぞ。」

『おぉ〜っ。』

導節達四人は、闇の一族の妖怪軍団を一気に蹴散らしていき、次々と襲ってくる妖怪達をやっつけていきながら奥へと進んでいった。

「どうやら此処は、魔物の親玉がいる場所らしいですね。」

「とにかく行ってみよう。」

「だが気をつけろ、この先どんな罠が仕掛けられているか分からないからな。」

四人は洞窟奥の扉を開き、中へと入っていくのだったが、突然巨大な影が四人を襲っていった。

「な、何だ今の影は・・・。」

「おいっ、こっちに来るぞ。」

導節、新兵衛、信乃、現八の四人は、怪しく動く影が迫って来るのを警戒しながら武器を構えていくが、導節は修験術を施して怪しく動く影に向かって術を放っていったのである。

「気をつけろ、姿を現すぞ。」

すると、縦横無尽に動いていた影が姿を現し、導節達は武器を構え戦闘体制を整えていた。

『う〜、我の邪魔をするのは何者だ。』

「こ、こいつは妖怪・猿神。」

「何だって・・・、何故妖怪・猿神が・・・。」「知っているのか、奴の事を・・・。」

「奴は昔、俺が倒した妖怪だが、まさか生きていたとはな・・・。」

『貴様、犬飼現八・・・あの岩牢をどうやって・・・。まぁ良いわ、貴様を倒し、我が闇の一族の幹部としてのし上がるんだ。』

「妖怪・猿神、お前は山神を名乗り、人々を恐怖に陥れた罪、断じて許し難し。」

「我等光の八犬士が、必ずお前を倒すっ。」

『光の八犬士・・・だと。面白い、貴様達の実力を見せて貰おうか。』

「臨むところだ、妖怪・猿神。」

「我等八犬士の力を思い知るがいい。」

導節、新兵衛、信乃、現八の四人は、妖怪・猿神との決戦を迎えようとしていた。

果たして、戦いの結末やいかに・・・。


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