第弐話 導節、謎の怪事件に挑む
悪霊・玉梓が復活してから二日目の朝、導節は残りの同じ光の玉を持つ同志を捜す旅をしていた。
「それにしても、悪霊・玉梓と暗黒の魔術師の関係には、何かありそうだな。」
導節が暫く歩いていると、遠くの方で黒山の人だかりで溢れ反っており、導節が人だかりを掻き分けると、何とそこには一人の少年が大道芸を披露していた。
「さあ、お立会い。これより御覧に入れる大道芸は、南蛮より伝わる世にも珍しい奇妙奇天烈な技をとくとご覧じろ。」
そう言って、少年は次から次へと妙技を披露し、歓声が湧き挙がっていたのである。
「あの少年、なかなかの妙技を見せてくれるな。」
導節が少年の妙技に感心していると、突然空が真っ暗闇に包み込まれ、その暗闇の中から妖魔の軍団が姿を現して来たのである。
「またしても、妖魔が現れやがったな。」
すぐ様導節は、得意の修験術で妖魔の軍団を蹴散らし撃退していくが、あまりの多さに苦戦を強いられていた。
「これじゃ伐りが無いな。」
と、突然大道芸の少年が果敢に魔物の軍団を見事な技でやっつけていったのである。
「あの少年、ただ者では無いな。」
暫くして、導節は少年の元へ駆け付けていき、話しをしたのだった。
「お主、見事な攻撃技だが、何処で習ったんだ。」
「天狗山に住んでいる仙岳道人に習ったんだ。」
「天狗山の・・・仙岳道人。」
「ああ、そうだよ。」
「そうだったのか・・・。ところで、お主の名前は何と言うのだ。」
「私の名前は、犬江親兵衛と言います。」
「申し遅れたが、私の名前は犬山導節と言う旅の修験者だ。」
「導節様は、どうしてこの様な場所へ・・・。」すると導節は、親兵衛に今迄に起こった出来事を話していった。
「そんな事があったなんて全く知りませんでした。」
「親兵衛、今の魔物の軍団は、恐らく悪霊・玉梓の手下に違いない。」
「導節様、悪霊・玉梓とはいったいどんな魔物なのですか。」
「悪霊・玉梓は、かつてこの世を闇に変えた諸悪の根源。その玉梓が、百年の眠りから目覚めてしまったのだ。」
「本当ですか、悪霊・玉梓が復活したと言うのは・・・。」
「ああ、百年前の悪夢が甦ろうしている。何としてでも、悪霊・玉梓を再び封じなければ・・・。」
「導節様、どうやって悪霊・玉梓を封じようと言うのですか。」
「悪霊・玉梓を封じるには、私が持っている八大童子の宝玉が必要だ。」
すると親兵衛は、懐から大事そうに麻の袋から《仁》の文字が施されたた宝玉を導節に見せたのである。
「親兵衛、その宝玉を何処で手に入れたのだ。」
「この宝玉は、死んだお爺さんの形見なんです。死ぬ間際、お爺さんは幼かった私を呼び、『よいか親兵衛、この宝玉をお前に授ける。いずれこの宝玉が役に立つ時が来るだろう。』そう言い残し、ずっと肌身離さず身につけていたのです。」
「・・・そうだったのか。とりあえず、親兵衛は二人目の選ばれし光の犬士に選ばれた訳だ。」
「私が、選ばれし光の犬士・・・。」
「そうだ、親兵衛の持っている光の玉がお主を光の犬士として認めたんだ。」
「・・・導節様、私は光の玉に誓って、悪霊・玉梓を討伐します。」
「よくぞ申した、親兵衛。一緒に戦おう。」
「はい。」
こうして、犬江親兵衛を仲間に加えた犬山導節は、新たなる同志を見つけるべく、旅を続けるのであった。
翌日、導節と親兵衛は近くの宿に泊まり、身体を休めていた。
「導節様、最近やたらと怪奇現象が頻繁に起きていますが、もしかしたら悪霊・玉梓に関係があるのでしょうか。」
「恐らくな、だが油断は禁物だ。いつ何時奴等が現れるか分からないからな。」
その日の夜、辺りは静寂に包まれ、近くの木の上では一羽の梟がホー、ホーと響かせながら鳴いていたのである。
そんな静寂な夜を脅かす怪奇事件が発生した。
一人の男が、酔っ払いながら道を歩いていると、遠くの方から全身緑色をした化け物が、いきなり襲い掛かり、その後酔っ払いの男は無惨にも殺されてしまったのだった。
翌朝、柳の木の下で男の変死体が発見され、奉行所の役人数名が現場へ駆け付け、立証見分が始まったのである。
「うわっ、こいつは酷いな。」
「笹野様、昨日の晩に現場を目撃したと言う者を連れて参りました。」
すると一人の役人が、目撃したと言う男を南町奉行所筆頭同心・笹野新三郎に引き合わせた。
「一つ聞くが、昨日の晩の事を詳しく聞かせてくれぬか。」
「へえ、あの晩あっしがふらりと飲み屋から帰る途中、丁度この柳の木の下辺りから悲鳴が聞こえたんです。あっしが駆け付けた時には、既に殺されていたんでございます。」
「・・・そうか、お前が駆け付けた時には、既に無惨な姿で殺されていたんだな。」
「へい。」
「城崎、こいつは唯の殺しじゃなさそうだな。」
「笹野様、いったいどう言う事ですか。」
「・・・、私の感が正しければ、恐らく化け物の仕業に違いないと推測しているんだ。」
「笹野様、幾ら何でもそれは有り得ないでしょう。第一、それが化け物の仕業だとしても、証拠が無いじゃありませんか。」
「城崎、よ〜く考えて見ろ。此処最近化け物に因る怪奇事件が六件起きているのだぞ。それに、死体の首筋を見てみろ。こいつは刀傷でやられた物では無い。鋭い牙の様な歯型がくっきり残っている。これはどう見ても化け物の仕業としか思えん。」
「・・・そうだ、笹野様。」
「どうした、城崎。」
「確かこの近くの宿に、旅の修験者が泊まっていると言うのですが・・・。」
「何っ、旅の修験者。」
「はい、何でもその修験者は、妖怪退治を生業としているそうですけど・・・。」
「本当か、早速案内してくれぬか。」
笹野と城崎の両役人は、導節と新兵衛が泊まっている宿に向かい、早速笹野は、事件の概要を話していった。
「・・・と言う訳なのですが。」
「なるほど、そう言う事があったとは・・・。」
「導節様、もしかしたら・・・。」
「間違いない、闇の一族の仕業に違いない。」
「導節殿、闇の一族とは何者でございますか。」
「笹野様、闇の一族は悪霊・玉梓を中心とする妖怪軍団の事にございます。」
「何ですって。」
「導節殿、その悪霊・玉梓とは何者なんですか。」
「悪霊・玉梓は、今から百年前に封じられた大妖怪。その悪霊・玉梓が百年の眠りから甦ったのです。」
「既に悪霊・玉梓は、この世を闇に変えようとしているのです。」
「俄信じ難い話しだが、いったいあの化け物をどうやってやっつけると言うのですか。」
すると導節と新兵衛は、懐から光の玉を笹野と城崎に見せた。
「そ、その光の玉は・・・。」
「まさか、八大童子の宝玉。」
「左様、我々は雷帝龍王より授かりし八大童子の宝玉を受け取ったのでございます。」
「それではお主達は、噂に聞く光の八犬士。」
「ええ、私達は悪霊・玉梓を倒す同志を捜しながら旅を続けているのです。」
「そうだったのですか・・・。」
「知らなかった・・・。はっ、それはそうと導節殿。」
「何か・・・。」
「今度の事件の下手人はいったい誰なんです。」
「それは分かりません。でも、一つだけ言えるのは今夜奴が再び現れるのを待つのです。そうすれば、全てが明らかになるでしょう。」
「分かりました、今夜手の者を引き連れ、警戒に当たらせましょう。」
「それは危険です。相手はとてつもない恐ろしい妖怪。笹野様でも手に追えない輩です。全てはこの犬山導節と犬江新兵衛にお任せ頂けませんか。」
「分かりました、導節殿と新兵衛殿にお任せ致しましょう。」
「忝ない、笹野殿、城崎殿。」
その日の夜、導節と新兵衛は柳の木の近くの物陰に身を潜め、妖怪が姿を現れるのを待っていたのだった。
「導節様、本当に奴は現れるのでしょうか。」
「ああ、奴は必ず来る。」
と、その時だ。突然白い霧が辺りを包み込み、その白い霧の中から全身緑色をした妖怪が姿を現し、再び人間を襲い掛かって来たのだ。
「うわ〜、助けてくれぇ。」
物陰に隠れていた導節と新兵衛が男の悲鳴を聞きつけ、急いで現場に駆け付けていった。
「待ちやがれっ。」
導節が妖怪に術を放ち、怯んだ隙に男を助け出す事に成功したのである。
「さあ、早くにげるんだ。」
「は、はい・・・。」
男は脱兎の如くその場から逃げていき、導節と新兵衛は妖怪の前に立ちはだかっていった。
「とうとう現れやがったな、妖怪め。」
『貴様等は何者だ。』
「我が名は、修験者・犬山導節。」
「同じく、犬江新兵衛。」
『まさか、貴様等は光の犬士なのか・・・。』
「いかにも、我等は雷帝龍王様より命を下されし光の犬士。」
「この世を乱す悪の妖怪め、これまでに犯した罪を償うがいい。」
『黙れっ、我は闇の一族の一番手、妖怪・螳螂鬼。玉梓様の命により、貴様等光の犬士を滅ぼせとの御命令だ。』
「やはり悪霊・玉梓の差し金か。」
『我等闇の一族に逆らう者は、容赦無く抹殺するから覚悟しろ。』
するといきなり、妖怪・螳螂鬼が鋭い鎌で導節と新兵衛に襲い掛かり、打撃を与えようとしたが、導節と新兵衛は右往左往しながら螳螂鬼の攻撃を避けながら徐々に攻めていった。
「これでも喰らいやがれっ。」
導節が修験術を放っていき、螳螂鬼に打撃を与えていくが、螳螂鬼は卑劣な技で導節を苦しめていくのであった。
『けけけ・・・、さすがの光の犬士も、我の強靭な鎌の攻撃を避ける事は出来まい。』
「くっ、螳螂鬼の奴・・・。」
「導節様・・・。」
螳螂鬼の卑劣な攻撃技に、窮地に追い込まれた導節と新兵衛。果たして、二人の運命やいかに・・・。




