第拾八話 冥獣四天王篇 第九部 伝説の天空八将神、誕生す。
天将楼に辿り着いた導節達は、八賢者の前にひざまづき、太上老君の立会いの下にこれまで起きた事を事細かく報告していったのである。
「天将楼の八賢者様に申し上げます。恐らく御存知とは思いますが、闇の一族冥獣四天王の一人、闇の破壊王・玄武将軍が突如蓬莱国に潜入し、我々を追って此処まで来たのでございますが、なんとか撃滅致した次第でございます。」
『左様か・・・。だが、お主達は第三の試練を踏破していないのは何故なのか・・・。』
『申し上げます。実は全てこの太上老君が決断を下したまでの事・・・。闇の一族の配下の者が蓬莱国へ潜入し、この国を守る為に仕方なく第三の試練を行わなかったのでございます。』
「八賢者殿、太上老君様は我々の事を思ってしたまでの事・・・。」
「あまり、太上老君様を責めないで下さい。」
「せや、太上老君様は悪うないで。」
「お願いです、八賢者様・・・。」
すると八賢者は、導節達と太上老君にこう言って聞かせたのだった。
『・・・光の八犬士達よ、お主達の活躍・・・確かにこの目で見させて貰った。更に、太上老君の采配は実に見事ではあった。だが、肝心の八大童子の宝玉の光がまだ見えない様が、どうやら霊泉洞の龍神水に沈めていったみたいだな。』
「そこまでお見通しでしたとは・・・。」
『それで、八大童子の宝玉は光を取り戻したのか・・・。』
「ご覧の通り、八大童子の宝玉は無事光を取り戻しました。」
導節達は八賢者に、まばゆい光を放つ八大童子の宝玉を見せていった。
『おお・・・、まさしくその光は、八大童子の宝玉。』
『その輝きこそ、紛れも無く八将神の力の源・・・。』
「八将神って、まさか〔天空八将神〕の事では・・・。」
『その通り・・・。かつて天空八将神は八大童子の宝玉を用いて力を増幅させ、強大な妖怪と死闘を繰り広げていったとされている。』
『だがその後、八大童子の宝玉は〔八大守護神〕と呼ばれる者達に渡ったと聞いた事がある。』
「八大守護神・・・。」
『八大守護神とは、千手観音・虚空蔵菩薩・文殊菩薩・普賢菩薩・勢至菩薩・大日如来・不動明王・阿弥陀如来の八人の守護神の事。』
「その八大守護神が、その宝玉を受け継いだと言う訳ですか。」
「しかし、本当にそんな事があったなんて・・・。」
「全然知らなかったな・・・。」
『八大守護神は、宝玉を安置する為、〔八角堂〕に納めたのだが、何の因果なのか・・・八大童子の宝玉は忽然と何処かへ消えてしまったのだ。』
「そして今、我々の手元にあるのか・・・。」
「なんや、不思議な話しやなぁ。」
「それにしても、この八大童子の宝玉にそんな秘密があったとはな・・・。」
『光の八犬士達よ、今からお主達に我等天将楼の八賢者から渡したい物がある。』
そう言って、天将楼の八賢者は導節達に色違いの装束と八本の剣を渡していったのである。
「八賢者様、これはいったい・・・。」
『それは、伝説の天空八将神が身に纏っていた〔八将神の装束〕と、〔陰陽八極剣〕(おんみょうはちきょくけん)だ。』
「これが・・・伝説の八将神の装束と、陰陽八極剣。」
「こんな凄い武器と装束は初めてだぜっ。」
「なんや、色も鮮やかで・・・結構カッコいいやん。」
「おいっ、早速着てみようぜ・・・。」
導節達は早速、それぞれの装束に袖を通し、剣を装備して八賢者に披露したのである。
『おお、まさしく天空八将神の生き写し・・・。長生きはするものだなぁ。』
『これこそが、我々天将楼八賢者が求めていた姿・・・。』
『今此処に、お主達を天空八将神と名乗る事を認める。』
「しかし、第三の試練がまだ終わっていませんが・・・。」
『もう、既に終わっておる。闇の破壊王・玄武将軍との戦いで、必殺技の修行は完璧に習得済みじゃ。』
「それじゃあ・・・。」
『うむ、そなた達は三つの試練を全て踏破した事になる。』
「やったぜ、俺達完璧に三つの技を完全に習得したんだ。」
「これで、我々も闇の一族に対抗出来る力が更に付いたと言う訳ですね・・・。」
「導節様、急いで元の世界へ戻らないと、また闇の一族が暴れているのかも知れませんよ。」
「ああ、急いで戻ろう。何だか、嫌な予感がするんだ・・・。」
『天空八将神よ、お主達にもう一つこの太上老君から渡したい物がある。受け取ってくれ。』
そう言って、太上老君は導節達に〔退魔の鏡〕を渡していったのであった・・・。
『これは〔退魔の鏡〕と言って、あらゆる妖魔の魔力を跳ね返す力がある究極の法具じゃ。これさえあれば、どんな強大な妖怪の呪力でも完全に防ぐ事が出来るじゃろ。』
「ありがとうございます。何から何まで太上老君様にはお世話になりました。このご恩は一生忘れません。」
『では、天空八将神よ。気をつけて行かれられよ。お主達の武運を祈っておるぞ・・・。』
「ありがとうございます、天将楼の八賢者様・・・。」
「おいっ、そう言えば九尾の狐は何処へ行ったんだ。」
『導節様、遅くなって申し訳ありません。』
「いったい何処へ行っていたんだよっ。」
『そ、その姿は・・・。もしや、天空八将神ではありませんか。』
「ああ、どやっ・・・結構似合っているやろ。」
「そんな事より、今まで何処に行っていたんだ・・・。」
『はい、私は闇の一族の行動を偵察していました。ところが、冥獣四天王の一人である、闇の風使い・白虎将軍が江戸の町に現れ、事もあろうに江戸城を占拠した模様にございます。』
「何っ、遂に江戸城まで手を伸ばしていたとはな・・・。」
『それだけではございません。先程幻魔城で、闇の破壊王・玄武将軍の魂が、怪魔将牙神の中に取り込まれてしまいました・・・。』
「くそっ、遂に朱雀将軍と玄武将軍の魂が、怪魔将牙神の中に入っちまったか・・・。」
『天空八将神よ、急いで人間界に戻り、闇の風使い・白虎将軍を何としてでも倒すのだ。』
「分かりました、必ずや我等天空八将神が白虎将軍を倒してご覧にいれます。」
『では早速時空の鏡に向かいましょう。事は一刻を争います。』
「分かった。新兵衛、信乃、現八、小文吾、毛野、荘助、大角・・・。」
「ああ、俺達の力を奴等に見せつけようぜ。」
「せやっ、光の八犬士改め、天空八将神の誕生やで。」
「皆、気合い入れていくぞっ。」
『おお〜〜〜〜〜っ。』
その頃、人間界では闇の風使い・白虎将軍が江戸城を占拠し、江戸八百八町を支配していたのである。
『あの最強だった玄武将軍が、まかさ光の八犬士如きにやられるなんて・・・本当に情けないわね。けど、この闇の風使い・白虎将軍は他の二人とは違って、頭脳明晰で策略家だと言うところを光の八犬士どもに知ら示してやらねば・・・。』
と、そこへ例の如く闇の僧侶・幻斎坊が現れ、白虎将軍に話し始めたのだった。
『相変わらずの策略家である白虎将軍が、そんな愚痴を零すとはのう・・・。』
『ふんっ、何が愚痴を零しているですって・・・。別に好きで愚痴を零している訳じゃないのよ。ところで、私に何か用があって来たんじゃないのかしら。』
『おお、そうだった。実は、玉梓様からの特命で、江戸の町全体に結界を張る様命ぜられたのだ・・・。』
『もしかしたら、〔魔導結界陣〕の事かしら・・・。』
『さすがは白虎将軍殿・・・、察しが早いですなぁ。』
『玉梓様の御命令とあらば、この白虎将軍が江戸の町を闇に変えて見せるわ。』
すると白虎将軍は、江戸城の天守閣から魔導妖術を施し、江戸の町の四方八方に結界を張り巡らしていったのだった。
『これで光の八犬士であろうと、この結界を破る事は出来ないわ。』
『さすがは白虎将軍、術のキレもなかなかの物だな。』
『それ程でも無いわ・・・。それはそうと幻斎坊殿、最近光の八犬士の姿が見えない様だけど、いったい何処へ行ったのかしら・・・。』
『何でも光の八犬士は、蓬莱国へと向かっていった様子なのだが、そこから先は全く見当が付かない様だ。』
『そんな事はどうでもいいわ、例え光の八犬士が強くなろうとも、この闇の風使いである白虎将軍には敵う訳がないわ。』
『ほほほ・・・、なかなか頼もしいのう。だが、あまり自信過剰になり過ぎない様、常に気をつけられるがよかろうぞ。』
『その辺は抜かり無いわ。伊達に冥獣四天王をやっている訳じゃないから、他の三人と一緒にしないで頂戴・・・。』
『全く気の短い奴だ・・・。だが、これだけは言っておく。例え結界が万が一破れたとしても、手加減せずに光の八犬士を抹殺するのだぞ。』
『承知したわ。万事、この白虎将軍に任せて頂戴・・・。』
『頼んだぞ・・・。』
一方その頃、蓬莱国から無事帰還した導節達は、天空神官である九尾の狐の案内で、急いで江戸に向かっていったのだが、途中妖怪の軍勢と出くわし、戦う羽目に遭ってしまうのであった。
「やいっ、邪魔をするな・・・。」
『へへへ・・・、此処から先は通す訳にはいかねぇんだよ。冥獣四天王の闇の風使い・白虎将軍様の命令で、貴様等を近づけるなとの御命令なんだよ。』
「ふざけるなっ、我等の邪魔をする者は、俺達天空八将神が相手になってやるぜっ。」
『何っ、天空八将神だと・・・。貴様等、光の八犬士じゃないのか・・・。』
「そんな事はどうでもいい。闇の一族の妖怪である貴様に、我等天空八将神が成敗してやるから覚悟するがいい。」
『くっ、問答無用ってな訳だな・・・。仕方が無い、この妖怪・修羅魔神様が相手になってやるぜっ。』
「皆、気合いを入れて行くぞっ。」
導節達の行く手を阻む妖怪・修羅魔神は、容赦無い攻撃を繰り広げていくのだが、導節達も今まで以上の力を発揮し、修羅魔神を追い込んでいったのだった。
『なかなかやるな、だがこれで終わりじゃないぞ。我が妖術の威力を見せてやるっ。』
すると修羅魔神は、印を結んで術を唱え、灼熱の炎の柱を導節達の周りを固めていった。
「しまった・・・、奴は灼熱の炎の柱を張り巡らしていったぞ。」
「このままじゃ焼け死んでしまうぜっ。」
「慌てるな、我々は天将楼の八賢者から授かった装束がある。こいつに護られている限りやられたりはしない・・・。」
「せやでっ、わい等は無敵の天空八将神やで。そんな炎の柱なんか、一気に消したるわいっ。」
「信乃、お前の得意な術であの炎の柱を消す事が出来るか・・・。」
「ええ、あの炎の柱ぐらいどうって事ありませんよ。」
「頼むぞ・・・。」
「分かりました、やってみます。」
早速信乃は印を結んで術を唱え、灼熱の炎の柱を消していこうとした。
「水を司りし天空の龍神・東海龍王よ、今此処に我が命令に従い、邪悪の炎を消し去り賜えっ・・・。」
すると、天空の彼方から水の守護神・東海龍王が姿を現し、大量の雨を降らしていきながら修羅魔神の放った炎の柱を一瞬のうちに消していったのである。
「よっしゃ〜、これで一気に逆転したぜっ。」
「これで形勢逆転だな、修羅魔神・・・。もはや、貴様の勝機は無くなったぞ。」
『うぬぬ・・・、ならば奥の手を使うしかあるまいな。』
「いったいどうするつもりだ・・・。」
「何だか、嫌な予感がします。」
修羅魔神は印を結んで術を唱え終えると、なんといきなり巨大化していったのである。
「な、なんやあれは・・・。」
「修羅魔神が巨大化していきやがったぞ。」
「あれじゃ全然勝ち目が無いぞ。」
「どうするんだよ、導節・・・。」
「どうすると言われても、あんなに巨大化されたら、どうにもならない・・・。」
『ふはは・・・。どうだ、これで手も足も出まい・・・。』
「導節、何かいい知恵は無いのか・・・。」
「導節様・・・。」
『導節殿・・・。』
突然、修羅魔神が巨大化した事で窮地に立たされた天空八将神。
果たして、このピンチを切り抜ける事は出来るのだろうか・・・。
第拾九話に続く・・・。