第拾六話 冥獣四天王篇 第七部 無敵の破壊王、蓬莱国へ侵入す。
天将楼の八賢者の導きにより、蓬莱国の三つの試練を挑む事になった導節達は、第一の試練の番人・剛力大仙との戦いで見事勝利を修め、剛力大仙から鳳凰の証を手に入れ、その後導節達は第二の試練に挑むのであった。
「此処が、第二の試練の洞窟か・・・。」
「何だか、第一の試練の洞窟に比べて、強い霊気を感じます。」
「ほんまや、めっちゃごっつい霊気が強烈に来よるで。」
「いかにも、『うぉ〜っ。』って出て来そうな雰囲気だな。」
「ああ、でも油断するなよ。前の試練の洞窟とは違うから気を付けろ。」
「分かっているさ、どんな相手が来ようと、この現八様が一気に決めてやるぜっ。」
「そんな強気でいると、あとでしっぺ返しが来るぞ。」
「そうですよ、現八様は一度こうだと決めたらとことん突っ走る癖がありますからね。」
「・・・わ、悪かったな。だけど、そう言う信乃だって一時は敵に捕まっていたんだから、文句が言える立場じゃないだろう。」
「待てっ、現八・・・。そう苛立つんじゃない・・・。」
「す、すまなかったな・・・。俺が言い過ぎた。この通りだ・・・。」
「私の方も、ちょっと言い過ぎたみたいです。それより、現八様の龍虎餓狼剣の様子が・・・。」
「何っ・・・。」
現八の武器である、龍虎餓狼剣が奇妙な怪音を響かせながら導節達の耳を狂わせていった。
「な、何だこの怪音は・・・。」
「どうやら、現八殿の剣から怪音波が発している様です。」
「何だって・・・。」
更に龍虎餓狼剣の怪音波が激しく共鳴し、遂には導節達を窮地に追い込んでいったのである。
暫くして、怪音波は治まったのだが、原因は分からず現八は龍虎餓狼剣を手に取ってじぃ〜っと見つめていたのだった。
「何故だ、何故龍虎餓狼剣が・・・。」
「妙だな、龍虎餓狼剣が怪音波を発するなんて・・・。」
「導節様、これっていったい何の前触れなんでしょうか。」
「・・・もしかしたら、この近くに闇の一族の妖怪がいるのかも知れないな。」
「だが、この蓬莱国に妖怪が来る事は不可能な筈・・・。」
「せやかて、現八はんの剣が異常な怪音波を発しているさかい、これは何かありそうやで。」
「う〜ん、でも何か嫌な予感がするな・・・。」
と、その時だ。
時空の歪みが生じ始め、黒い霧の様な物が蓬莱国を一瞬で包まれてしまい、その黒い霧の中から冥獣四天王の一人である、闇の破壊王・玄武将軍が導節達の目の前に姿を現したのである。
「な、なんやあれは・・・。」
「そんな馬鹿な・・・。なんで闇の一族がこの蓬莱国に・・・。」
「あれは、冥獣四天王の一人・・・闇の破壊王・玄武将軍。」
『やっと見つけたぞ、光の八犬士達よ。』
「なんで貴様が此処にいるんだ。」
『そんなの簡単な事だ。我の得意とする魔導妖術を用いて、時空転送の術を使って此処まで来たのさ。』
「時空転送の術だって・・・。」
「くっ、奴等もとうとう此処まで手を延ばしていったか。」
「どうするよ、導節。このままじゃ、蓬莱国が闇に染まってしまうぞ。」
「仕方が無い、こうなったらやるしか無いだろう。」
「だけど、まだ第二、第三の試練が終わっていないんだぜ。」
「そんな事はどうでもいい、とにかく奴を倒すぞっ。」
『そう簡単にやられてなるものか。朱雀将軍の仇を取らせて貰うぞ。』
すると、玄武将軍はいきなり導節達に攻撃を仕掛けていき、更に玄武将軍は大きな金棒を振り回し、地面に叩きつけて地響きを起こし、導節達に打撃を与えていったのだった。
「うわっ・・・。」
「あっぶねぇ〜。」
「玄武将軍め、いきなりあの金棒で攻撃するなんて・・・。」
「あの金棒で攻撃されたら、一たまりもないぜっ・・・。」
「せやで、あんなんやられたらどうにもならへんでぇ。」
「おいっ、どうするんだよ。このままでは奴にやられちまうぞ。」
「導節様、こうなったら第一の試練で鍛えた攻撃技を玄武将軍に見せてやりましょう。」
「そうだな、みんな行くぞっ。」
導節の号令の下、新兵衛、現八、信乃、小文吾、毛野、荘助、大角が一斉に玄武将軍に攻撃を仕掛けていった。
『な、何だこいつ等・・・。凄まじい攻撃力で我を追い込んでいくなんて・・・。』
だが、玄武将軍も反撃していくが、あまりの力技に圧倒されてしまうのだった。
『うぬぬ・・・、ならばこれでも喰らうがいい。魔導妖術・波動裂震破ぁ〜っ。』
玄武将軍の魔導妖術である〔波動裂震破〕は、振り上げた金棒に妖力を送り込み、地面に叩きつけたと同時に強烈な地響きを起こし、打撃を与える玄武将軍が得意とする妖術である。
「ぐわっ・・・。」
「あかんっ、こいつはヤバイでぇ。」
「このままじゃ、玄武将軍にやられてしまうぞ。何かいい方法は無いのか・・・。」
「一か八かやってみるしか無いな・・・。」
「導節、いったい何をするつもりだ・・・。」
すると導節は、印を結んで呪文を唱え、玄武将軍に向かって術を放っていった。
「オン・バサラ・ナウマク・サマンダ・ボダナン・インダラ・ソワカ!」
導節の放った術が玄武将軍に命中し、打撃を与えたかの様に見えたが、玄武将軍の強靭な鎧に導節の術が跳ね返されてしまうのであった。
「何っ、私の術が跳ね返されただと・・・。」
「導節の術が通じないなんて・・・。」
「どないなってんねん、導節はんの術が跳ね返されたで。」
『無駄だ、貴様の術などこの玄武将軍様には通用しないんだ。』
「どうするんだよ、もしかしたら俺達の術が全く効かないかも知れないぞ。」
「・・・もう一度やるしかないな。」
再び導節は術を唱えていくが、何度やっても玄武将軍には全く傷一つ付ける事は出来なかった。
『何度やっても同じ事だ。所詮、貴様等の力などそんなものだ。』
「くっ、もはやこれまでか・・・。」
「諦めたらあかん、導節はん。最後まで諦めたら、人間界に未来はあらへんで。」
「そうだよ、毛野の言う通りだ。最後まで諦めるんじゃない。」
「俺達も一緒に戦うから、決して諦めるな。」
「みんな・・・。」
「とりあえずもう一度やるぞっ。」
再び導節は、他の七人と共に全身全霊の力を込め、玄武将軍に全ての力を放っていった。
『うぉぉ〜〜〜〜っ。』
導節達の術が玄武将軍に命中し、玄武将軍は深い傷を負ってしまい、ひざまづきながらこう言い放った。
『お、おのれ光の八犬士め・・・。よくもこの玄武将軍をコケにしたなぁ。だが、これで終わりだとおもったら大間違いだぞ。いつか必ず貴様等の命を貰い受ける故、左様心得ておくがいい・・・。』
姿を消した玄武将軍を追い掛けようとしたのだが、信乃は突然奇妙な事を言い出したのだ。
「・・・玄武将軍は必ず我々に災いを齎すやも知れません。」
「本当か・・・。」
「どんな災いなんだよっ。話してくれないか、信乃。」
「あの玄武将軍は、四天王最強の妖怪。攻撃・防御・素早さ共に最高なのですが、それだけではなく災いを齎す呪いの術を得意とする〔魔導呪災術〕と言う妖術を使うと聞きます・・・。」
「魔導・・・呪災術。」
「なんや、聞いた事ない名前の術やなぁ。」
「導節、何か知っている事ないのか・・・。」
すると導節は、
「魔導呪災術・・・、それは全ての物に災いや呪いを齎す、最強の妖術・・・。」
「そんなに凄い妖術を持っているなんて、何だか恐ろしい奴だな。」
「だが、いったい奴はどうやって災いや呪いを掛けるんだ。」
「それは分からない。けど、玄武将軍は予告無しに突如相手に災いや呪いを掛けてくるんだ。」
「いったい誰に・・・。それに、どんな災いや呪いを玄武将軍は仕掛けていくんだ。」
『それは、わしから話そう・・・。』
突如、導節達の目の前に白髪の老人が姿を現し、闇の破壊王・玄武将軍の秘密を話していった。
「貴方は・・・。」
『我は天空十二神の一人・太上老君じゃ。』
「天空十二神・・・。」
「えっ、天空十二神と云えば、天空界の神・元始天尊様に仕える、天空神官の事・・・。」
「その太上老君様が、何故闇の破壊王・玄武将軍の事を御存知なのですか・・・。」
『あの玄武将軍は、元々我の1番弟子だったんじゃ。ところがある日、奴は我の所を去り、悪の道を進んだ。それ以来、自らを闇の破壊王と名乗り、冥獣四天王の一人として悪霊・玉梓に忠誠を誓った様じゃ。』
「ではその間、玄武将軍は天空八将神に封印され、三百年経った今・・・奴等は復活した。」
「何としてでも、玄武将軍を阻止しないと・・・。」
「太上老君様、玄武将軍を倒す方法は無いのですか・・・。」
『強いて言えば、奴を倒す方法はある。だが、生半可な攻撃では、強靭な防御を誇る玄武将軍には勝てぬ。そこでじゃ、お主達に我が秘術を伝授しようと思うておる。』
「本当ですか・・・。」
『ただし、わしの修行はちと厳しいぞ。』
「と、申しますと・・・。」
『わしが、此処の第二の試練の番人でもあるからじゃ。』
「何ですって・・・。」
「太上老君様が、第二の試練の番人だったとは・・・。」
「ちぃっとも知らんかったわ。」
「・・・太上老君様、是非我々にその秘術を御伝授して頂きとう存じます。」
『お主達にその覚悟があるのならば、伝授しても構わぬが・・・。』
「我々は、どうしても玄武将軍に勝ちたいのです。どんな辛い修行でも耐えて見せます。」
「俺も、もっと強くなりたいんだ。」
「私も同感です。」
「わいも、もっと強うなって真の力を手に入れたいんや。」
「お願いです、太上老君様・・・。」
暫くして、太上老君はすっと立ち上がり、導節達にこう話していった。
『お主達の熱意、しかと受け止めた。では早速修行を始めるとするかのう・・・。』
「ありがとうございます・・・。」
「これで、心置きなく修行が出来るぜっ。」
「よ〜し、気合いを入れて修行をするぜっ。」
太上老君の指導の下、導節達は玄武将軍との戦いに備えて厳しい修行が始まろうとしていた。
さて、丁度その頃。
先の戦いで負傷した玄武将軍は、あまりにも不甲斐ない結果に不満を抱いていた。
『くっ、光の八犬士め・・・。奴等は確実に強くなっている・・・。だが、この玄武将軍は他の三人とは格が違うからな。絶対奴等を根絶やしにしてやるっ。』
と、そこへ闇の僧侶・幻斎坊が現れ、玄武将軍にある秘策を伝授すると近付いて来たのだった。
『玄武将軍よ、どうやら光の八犬士に苦戦を強いられている様だな。』
『これは、幻斎坊殿・・・。』
『奴等は、徐々に強さを増している。だからと言って、油断は禁物だ。』
『そんな事を言われなくても分かっている。俺は無敵の玄武将軍だ。光の八犬士など、誰の力を借りずとも、一気に全滅させてやるっ。』
『やれやれ、これだからお主は自信過剰なのだ。仕方がない・・・、お主にこれを授けよう。』
すると幻斎坊は、玄武将軍に〔魔導玉〕と呼ばれる強力な魔道具を渡していったのである。
『幻斎坊殿、こいつはいったい・・・。』
『これは魔導玉と云って、お主が使う魔導妖術を増幅させる道具だ。』
『ほう、こいつはいいや・・・。これさえあれば、奴等を全滅させられる事が出来るぜっ。』
『よいか、玄武将軍・・・。決して魔導玉の使い過ぎには気をつけられよ。さもなくば、命に関わるのでな・・・。』
『それぐらいは承知しておる。それ程俺は馬鹿では無い。』
『ならば、それでよいが・・・。まぁ、せいぜい命を無駄にせぬ事だな・・・。』
『万事任せておけ、俺はそんなにへまをする様な事はせぬ。まぁ、幻魔城から高見の見物でもするがよかろう・・・。』
『では、そうさせて貰おうかのぅ・・・。』
導節達に不覚を取ってしまった玄武将軍は、闇の僧侶・幻斎坊から〔魔導玉〕を受け取り、更なる力を手に入れてしまった・・・。
そうとも知らない導節達は、天空十二神の一人である太上老君から、玄武将軍との戦いに備えて強力な法術を教わる事になった。
果たして、導節達は闇の破壊王・玄武将軍に勝てる事が出来るのだろうか・・・。
第拾七話に続く・・・。