第拾話 冥獣四天王篇 第壱部 冥界からの使者
酒呑童子の猛攻に、窮地に追い込まれた導節達は、まさに八方塞がりの状態に陥っていた。
「どうするんだよ、このままじゃ俺達奴の闇の力でやられてしまうぞ。」
「何か解決策は無いのですか、導節様。」
すると導節は、
「こうなったら、五人の力を一つにして、一気に酒呑童子を倒すしかない。」
「導節、俺達五人で酒呑童子を倒せるのか?」
「ああ、一か八かやってみるしかないだろ。」
「よ〜し、いっちょやってやるぜっ。」
導節、新兵衛、信乃、現八、小文吾の五人は、精神を集中させ、力を合わせながら八大童子の宝玉に念じていった。
『八大童子の宝玉よ、我等光の犬士に力を与え、闇の怪鬼を玉砕せよっ。』
すると、導節達の持っていた八大童子の宝玉がまばゆい光を放ち、酒呑童子は宝玉の光に因って弾き飛ばされてしまうのだった。
『な、何だ今の光は・・・。』
「酒呑童子よ、どうやら形勢逆転の様だな。」
『まさか、貴様等にそんな力があったとはな・・・。だが、我が闇の力はこんなものではないのだ。』
「どう言う事だ・・・。」
『見よっ、我が最強の闇の力を・・・。』
そう言って、酒呑童子は全身に闇の魔力を増幅させ、今まで以上に邪悪の力を導節達に見せ付けた。
『オン・バサラ・アーク・ダライア・キリーク・バンドラ・ボダナン・クナキリ・ソワカ!』
酒呑童子の身体が更に邪悪な妖気を漂わせながら導節達に攻撃を仕掛けていった。
『くたばれっ、光の八犬士よ。』
「まずいっ、この場を離れるんだっ。」
導節達が一斉にその場から離れ、酒呑童子の攻撃をかわしていくが、その後大爆発が起こり、再び酒呑童子が攻撃を仕掛けていったのである。
「おいっ、このままじゃ俺達奴にやられてしまうぞ。」
「いったい、どうすればいいんだよ。」
「導節様、もう一度八大童子の宝玉の力を使いましょう。」
「駄目だっ、もう間に合わない。」
あわや、史上最大の危機に追い込まれた導節一行。
完全に死を覚悟を決していた導節に、苦悶の表情を見せる新兵衛、信乃、現八、小文吾の四人。
と、その時・・・。
「酒呑童子、そこまでやぁ。」
導節達が空を見上げると、何と巨大な龍を操りながら酒呑童子に目掛けて突進していく一人の若者が現れたのだった。
『おのれ、貴様は何者だっ。』
「わいは、龍使い・犬坂毛野や。」
『何っ、龍使いだと・・・。』
「貴様なんか、わい一人で倒したるさかいなぁ、覚悟しときやぁ。」
『小賢しい小僧め、これでも喰らいやがれっ。』
酒呑童子が毛野に目掛けて魔導秘剣を繰り出していくが、毛野はひらりと避けながら龍を操り、反撃に出るのだった。
「これでも喰らうとえぇわ。」
すると毛野は、龍を自由自在に操りながら酒呑童子に攻撃を仕掛け、時折龍の口から高温の炎を吐きながら酒呑童子を窮地に追い込んでいった。
「導節様、あの龍使いは・・・。」
「ただの龍使いじゃなさそうだな。」
「おいっ、見ろよ。酒呑童子の奴が・・・。」
「あの若者の攻撃で窮地に追い込まれているぞ。」
「とにかく、奴を倒す機会だ。いくぞっ。」
導節達は一斉に酒呑童子を攻撃していき、龍使いの若者と力を合わせ、最後の最後まで酒呑童子を倒していったのである。
『ぐぐっ・・・、こっ、このままで終わる酒呑童子ではない・・・。』
「いい加減に観念しろっ、もはや貴様は、我等に敗れたんだ。」
『・・・こうなったら、貴様等もろとも地獄へ道連れにしてやるっ。』
酒呑童子が最終手段として闇の妖術を施し、導節達を道連れにしようと画策していた。
「そうはさせへんでぇ。」
毛野は、すかさず導節達を一瞬のうちに助け出し、暫くして酒呑童子は自らの妖術で命を落としてしまうのだった。
「いやぁ〜、助かったぜ。」
「なんて礼を申してよいのやら・・・。」
「なぁに、わいはあんた等があんな化け物を相手に無茶するさかいな、助けなしゃあないやん。」
「それはそうかも知れないが、我々には我々の考えがあるのだ。」
「我々の考えって何やねん。」
「おいっ、失礼だろ。この方はなぁ・・・。」
「現八、もういいだろう。」
「し、しかし・・・。」
「なぁ、あんた等はいったい何者やねん。」
「申し遅れたが、私の名は修験者・犬山導節と申す。」
「同じく、犬江新兵衛と申します。」
「私は、犬塚信乃と言って、導節様と共に旅をしている者です。」
「俺は、犬飼現八だ。宜しくなっ。」
「私は犬田小文吾と言います。」
「わいは、犬坂毛野言うねん。」
「犬坂毛野殿と申すのか、随分と派手な攻撃をするみたいだが・・・。」
「ああ、こいつのお陰で多くの化け物と戦って来たんや。」
そう言って、毛野は一匹の飛龍を導節達に見せたのである。
「な、なんだこいつは・・・。」
「ああ、こいつは飛翔丸と言って、わいの弟みたいなもんや。」
「随分でかい弟だなぁ。」
『ぐわぁぁ〜ぉっ。』
「うわっ、びっくりしたなぁ。」
「何も驚かんでもよろしいわ、こいつは普段おとなしい性格やからな。」
「そ、そうなのか。」
「ところで、導節はんは何で山城の国に来はったんや。」
すると導節は、これまでに起きた経緯を毛野に話して言った。
「何やて、闇の一族が人間界を支配してはるってホンマなんか?」
「ああ、我々はその闇の一族の首領である、悪霊・玉梓を追って旅をしているんだ。」
「毛野殿、実は我々は光の犬士なのだ。」
「光の・・・犬士。」
そう言って、導節達は懐から八大童子の宝玉を毛野に見せた。
「そ、その宝玉は・・・。」
「その通り、この宝玉は天界の王・雷帝龍王様より授かった光の犬士の証。」
「この宝玉がある限り、今までにない力が発揮されるのだ。」
「・・・なんや信じられへん話しやけど、もしその話しが事実なら、わい一人でもその闇の一族っちゅう連中を倒してみせるさかいな。」
「毛野殿、闇の一族を甘く見ない方がいいぞ。」
「奴等は毛野殿が思っている程、相当手強いぞ。」
「八大童子の宝玉が無いと、命が幾つあっても足りないんだぞ。」
「わいは、そんなもん持ってへんし、仮に持っていたとしても、あんた等に手を貸すつもりもないしな。」
「こ、この野郎・・・。」
「現八殿、落ち着いて下さい。」
「まあ、いいでしょう。しかし、毛野殿。」
「な、なんやの・・・。」
「私は必ず毛野殿を我々の仲間に引き入れてみせる。」
「わいは絶対に、仲間にはならへんっ。」
「じゃあ、勝手にするがいい・・・。」
「導節様・・・。」
そう言って、導節はその場から去って行くのだったが、新兵衛、信乃、現八、小文吾の四人は、毛野の言葉に少し違和感を感じていたのだった。
「導節様、これからどうするんですか。」
「・・・暫く様子を見る。」
「暫く様子を見るって・・・、まさかっ。」
「毛野殿は必ず来る。」
「おいっ、導節本気か・・・。」
「私は本気だ。」
「・・・私も、導節様を信じます。」
「導節様、この犬塚信乃も毛野殿が来る事を信じます。」
「新兵衛・・・、信乃・・・。」
と、突然周りの空が真っ暗になり、白い靄の中から邪悪な妖気を漂わせながら四体の妖怪が導節達の前に姿を現していった。
「導節様、あれを・・・。」
導節が白い靄の中にいる四体の妖怪を見て、思わず愕然としてしまった。
「ま、まさか・・・。」
「導節、奴等は何者なんだ。」
「奴等は、闇の使者・冥獣四天王だ。」
「何ですって・・・。」
「知っているのか、信乃。」
「ええ、今から三百年前に封じられていた、闇を司る四体の魔獣。」
「厄介な連中が現れやがったな。」
と、その時・・・。
冥獣四天王の一人、闇の妖術師・青龍将軍が導節達にいきなり妖術を放っていった。
『オン・キリーク・バサラ・アーク・センマンダ・バラク・ウンハッタ!』
闇の妖術師・青龍将軍の放った妖術が導節達の前で大爆発が起こり、導節達は弾き飛ばされてしまうのである。
『ふはは・・・、どうかね、我が妖術の威力は・・・。』
「てめぇ等が、冥獣四天王か。」
『いかにも、我等は闇の使者・冥獣四天王なり。』
『ほほほ・・・、貴方達が光の八犬士なのね・・・。』
『どんな奴等かと思えば、ただの人間じゃないか。』
『なぁんだ、つまんないなぁ。期待していたのに、がっかりだわぁ。』
「ごちゃごちゃ言ってねぇで、名前ぐらい名乗りやがれっ。」
『よかろう、我は冥獣四天王の一人、闇の吸血鬼・朱雀将軍。』
『同じく、闇の破壊王・玄武将軍。』
『同じく、闇の風使い・白虎将軍。』
『同じく、闇の妖術師・青龍将軍。』
「遂に、始まってしまうのか・・・。」
導節が、何やら浮かない表情で呟いていたのを、信乃は見逃さなかった。
「導節様、まさか・・・。」
「ああ、あの戦争が・・・始まろうとしている。」
「何だよ、その戦争と言うのは・・・。」
すると導節は、
「第一次聖魔大戦が、勃発しようとしているんだ。」
「第一次・・・聖魔大戦?」
「今から三百年前に起きた、天界、魔界の者達が起こした戦争の事だ。」
「その中でも、魔界を守護する冥獣四天王が、天界を滅ぼしていき、辛うじて天界の王・雷帝龍王は自らの命と引き換えに、龍神像に姿を変えたのだ。」
「それが、今俺達の目の前にいると言うのか・・・。」
『その通り、我等は天界を滅ぼし、雷帝龍王を始末しようと思っていたが、既に何処にも居なかった。』
「そんな事で、天界を滅ぼすなんて・・・。」
「絶対に許さないっ。」
『既に我が首領である玉梓様は、我等に光の八犬士を倒す様命じたのさ。』
「・・・俺達光の八犬士は、断じて貴様等を許さない。」
『お前達五人で、どうやって我等冥獣四天王と戦うつもりだ。』
と、そこへ飛龍に跨がった犬坂毛野がやってきて、導節達と合流したのだった。
「ちょっと待ちぃや、光の八犬士は此処にもおるでぇ。」
「毛野・・・。」
「どうして此処へ・・・。」
「あれから何や胸騒ぎがしてな、飛翔丸が妙な泣き声するからふっと懐を探ったら、こんな玉が出て来たんや。」
そう言って、信乃は懐から《礼》の文字が浮かび上がった宝玉を取り出した。
「そ、それは《礼》の文字が入った宝玉。」
「では毛野殿が、六人目の同志。」
「わいが、六人目の同志やて。」
「そうとも、毛野殿がいれば我々にとっては心強い仲間だ。」
「毛野、よく戻って来たな。」
「・・・導節様。わいは導節様の為に、闇の一族を倒しまっせ。」
『ぐぐっ・・・、光の犬士が六人も揃ったのか。』
『だが、光の犬士が六人揃ったところで、我等冥獣四天王には敵うまい。』
『ああ、我々は無敵の四天王だ。人間如きに我等を倒せるものか。』
『ええ、私達の華麗なる術で、貴方達を抹殺してあげるわ。』
「へっ、八人揃わなくても、てめぇ等をぶっ倒してやるぜ。」
「わい等を舐めとったら、怪我するでぇ。」
「潔く、天の裁きを受けるがいい。」
「みんな行くぞっ。」
「おぉ〜〜〜〜〜。」
『おのれっ、我等冥獣四天王の恐ろしさを思い知らせてやる。』
『何だか、腕が鳴るぜ。』
『久しぶりに暴れてやるぜ。』
『私の華麗な術で、たっぷり始末してあげるわ。』
『玄武、朱雀、白虎、我等の力を光の犬士どもに見せてやるぞ。』
『万事承知した。』
遂に冥獣四天王対光の犬士の戦いが、今まさに始まろうとしていた。
しかし、この戦いは第一次聖魔大戦の序章に過ぎなかった。
果たして、この戦いの顛末はどうなってしまうのだろうか・・・。
冥獣四天王篇、第弐部へと続く・・・。