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不思議な校舎と悲しみの木  作者: 三箱
第3章 ロスト・コール
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21話 水色の夢

21 水色の夢




 水色に広がる世界……。


 今俺の視界には水の世界が広がっていた。

 水の中だと思うけど、不思議と暖かい。

 重力がほぼ無く、体がふわふわと浮いている感覚だ。


(ここはどこだろう。)


 朦朧としていた意識の中、ゆっくりと顔を動かした。


 どこまでも、どこまでも、水色の世界が広がっている。


 だがそれ以外に何も見当たらなかった。


 そう思った矢先、ひとつの影が静かに俺の視線の先を通り過ぎていった。

 ぼんやりとしていた目をこすり、その影が過ぎ去った方へと体を動かした。


 初めての無重力空間なのに、別に苦労もなく進んでいった。

 追いかけていると、向こうが気がついたのか、振り返って止まった。


 空間に流れる光が、黒い影を彩色に変えた。


「ケガは大丈夫?」


彼女は微笑みながら言った。


「大丈夫だ。しかし、お前そんなに流暢に話せるのか?」


 あまりの衝撃に体のバランスを崩しかけた。


 でも彼女は、何ともなく普通に答えた。


「夢の中では、何でもできるから。」


(あ。そういうものなのか。)


意外とあっけない答えに、変な気分になる。


 水流のせいか、彼女の水色の髪が少し横になびく。


「ここは、夢の中なのか。」


ひとまず確認で聞いてみた。


 彼女はほぼ即答で答えた。


「そう。」


俺は手の平を見て、握ったり閉じたりしてみる。確かに現実ほどの感触を感じられない。


 もう一度彼女に向き直る。

 水色のショートヘアに、丈の長い薄い紫色のスカート、水色の服に青いベストを着ている。そして少し薄い紺色のスカーフを着ていた。


 水の中にいる彼女は、水の妖精と比喩してもいいだろう。


 そんな彼女に俺は救われた。


「あのさ。」

「何?」

「助けてくれてありがとな。」


彼女は無言でニッコリと笑った。


 本当に彼女には感謝してもしきれないくらいに、助けてもらった。彼女がいなかったら、本当に俺たちは生きていなかったのかもしれなかった。


 でもそんな恩人にも、少し不可解な事が多かった。それだけは気にならないはずがなかった。


「一つ質問をしてもいいか。」


彼女は無言で頷いた。


「君は何者なんだ?」


彼女は表情を変えなかった。まるでこの質問が来ることを分かっていたかのように、感じた。


 水の世界の水流の向きが変わり、彼女の髪が逆さまに流れた。


「今は、まだ全部答えられない。」


彼女は顔を横に向けた。


 何か遠くを見つめているのか、それとも何かを言うのを渋っているのか。


「トモヤ。」


静かに俺の名前を呼んだ。


「私は記憶が戻っていない。」

「!!」


記憶喪失ということか。だが新たな疑問が生まれる。


「それって全部か。」

「いいえ。全部ではないけど、でもほとんどかな。」


深刻なことなのに、彼女は笑顔を絶やさない。


「じゃあ。魔法は。」

「魔法?」


彼女は少し首を傾げた。


 魔法という言葉が分からないのか、それとも違う言い方なのか。


「俺たちを助けてくれたあの能力のことだ。」


そういうと、彼女はあっと静かに口を開いた。


「その能力の記憶は、不思議と消えていなかった。だから瞬時に使うことができた。」


そう言い切ると彼女は笑顔を消した。


「でもそれ以外の、君に出会う前の記憶がほとんど覚えていない。それに、時より頭が割れるような痛みに襲われる。」


その言葉を聞いて、彼女が凶暴化した時の光景が蘇った。


 俺は無言で彼女の話を聞く。


「それに君の最初の疑問、私は現実世界での話し方ですら、記憶が半分以上消えていた。」

「だから現実世界では機械的だったのか。」


彼女は無言で頷いた。


「でも、俺に頭の中に直接話しかけたみたいに、みんなにすれば会話の不自由さもなくなるんじゃないのか?」


いい発想だと思った。

でも彼女は首を横に振った。


「その能力は、他の人にも試したけど、使えたのがトモヤしかいない。」

「何故だ。」

「分からない。」


互いに口を閉じた。


 俺は腕を組んで、深く考えようとした。

 だけどすぐに放棄した。

 正直、今起きているこの夢の現象すら分からないのに、この人の能力が俺にしか効かないわけを考えても、答えなんて出るはずがなかった。


 面倒な思考はやめて、ぶらんと腕を開き、余計な力を抜いた。今思うとこの空間はとても居心地が良かった。


「トモヤ。」


気が付くと彼女は俺との距離を縮めていた。


 少し彼女の顔が近くなった。


「私も礼を言わせていただく。あの時、止めてくれてありがとう。」


俺は少し顔を赤くしてしまった。

そんなに近くで、笑顔で言われたら、当然少しは照れてしまうよ。


「あ。いや。そんなに大したことではないよ。そっちが俺たちを助けてくれたことに比べたら……。」


恥ずかしさのあまり、末尾にはっきりと声が出なくなった。


 彼女はクスッと笑った。


 笑われた。


「トモヤは面白いね。」

「……。」


ずいぶん前にも言われたような……。


自分のおかしさに思わず吹き出してしまった。


 その光景を見てまた。彼女が明るくなった。

 こんな楽しいやりとりが続くといいなと思った。

 でも現実はそう長くは続かないと言う事を知っていた。


「そろそろ時間みたい。」


彼女は少し沈んだ表情になった。


「またこんな機会あるよな。」

「そうね。でもこの能力は意外と気まぐれだから……。」


彼女が何かを言いかけたが、そのあとを口にすることはなかった。


 暖かな水色の世界が、少しずつ黒色に染まってきた。


「じゃあ。また起きたら。」


彼女が少しずつ離れていく。


「あ。最後に教えて欲しいことがあるんだ。」


俺はギリギリまで彼女を追いかけた。


「名前を教えて欲しい。思い出しているなら君の本当の名前を教えて欲しい。」


その質問に、彼女はすぐに答えた。


「思い出したよ。私の本当の名前は……」





「……ウッ。」


肩と背中に鈍い痛みを感じて体を起こした。


 目を開けるとグワッと光が入り思わず閉じてしまった。


 瞬きを繰り返し、目をこすりながら、瞼を開いた。


「おはよう!」


明るくやんちゃな声が聞こえた。

とりあえず返事をした。


「おはよう。」

「よかったよ。結構長く寝ていたから心配したよ!」


リオが俺に近づく。


「結構って今何時だ?」

「昼過ぎ。一時くらいかな。」


一時か。確かに長く寝てしまったな。


 俺は部屋の中を見渡した。水上の女性とサクラの姿が見えない。


「あれ二人は?」

「ん?ああ、二人は散歩に行ったよ。サクラがあの人を連れて行くって言って。」

「へえー。ってあれ、自力で起きたの?」

「へ?うん。自力で起きたよ。」


リオが何かびっくりした顔で答えた。


 俺も冷静に考えてみた。


記憶が少し戻ってきたから、起きられるようになることなんて、冷静に考えれば割と普通か。自然とそういうものは慣れていくものだよな。


「あれ。どうしたの。」


俺はリオに視線を向ける。

リオが不思議そうに顔を覗き込ませている。


 相変わらず察しが良い。いや、俺が分かりやすいのか。


「いや。何でもない。」

「ふーん。そう。」


あれ今回は意外と早く退いたな。まあ無駄に疲れるなどの心配はなさそうだ。


ガチャ。


「ただいま!」


サクラの声が聞こえた。


「おかえり!」


二人が帰ってきた!


 リオが玄関へ向かっていった。

 ドタバタとフローリングの鳴る音が聞こえてくる。

 しばらくしてリビングの方に音が近づいてきた。


「友也くん。おはよう!」


サクラは爽やかに、リビングに入ってきた。そしてリオ、最後に水髪の女性が入ってきた。


 彼女は黙って俺を見つめた。


「ト・モ・ヤ」


ゆっくりとぎこちない動きで、彼女は手を振った。


 俺も彼女に手を振った。



「おはよう!セティナ。」


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