波乱2
「シン。此処にいたのか」
「! 隊長。驚かさないでください」
夕日と共に城下町が一望できる小高い丘。そこに白銀の髪を風に揺らしながら座る青年の横に腰を降ろしたのは、褐色の肌に漆黒の髪をしだ男性。
シンは隊長、ユグドと共に自分たちの守る街を眺める。
「婚約者ほっといていいのか?」
「巡回途中で子供たちに聞いたんです。絶景の秘密の丘があるからと・・・」
先日シンと幼馴染との婚約を国王が祭典で国民に伝え、最近は巡回中に祝いを言われる事も多くなった。
「子供たちなりのお祝いみたいで・・・」
シンは照れ臭そうに頬をかいた。
婚約者の彼女と共にこの美しい景色を見てほしいと。子供たちからのプレゼントだったのだろう。
ユグドはそうか、と呟きを返すだけだった。
「来てみたら、こんなにも綺麗で。つい独り占め、したくなったんです」
城から見る景色とはまた違う、白亜の街が夕日で朱く染まり、太平に浮かぶ商業船までもが一望できる。
「レイチェルにもこの景色を見せないと仲間はずれにしたと怒られるぞ」
「はは。確かに。この間も祝いの花束を食堂の娘から貰ったってだけで嫉妬されたんです」
国軍の宿舎で生活するシンは食堂の看板娘とも顔見知りで祝いに素朴だが、美しい花束を貰った。婚約者、レイチェルが好きな花だろうと。それをレイチェルに届けると、初めは喜んだが女から貰ったと聞くと不機嫌になり、事情を説明し宥めるのに時間がかかった。
その事を思い出し、シンは苦笑いをする。
幼馴染で国王お抱えの白魔導士長、レイチェル。この国の首都を守る結界は彼女一人で張られている。そして国軍第一旅団副隊長であるシン。国王もこの二人の仲を祝福し、応援していた。民も国を守る二人の仲を祝福してくれていた。
その時、シンは世界で一番幸せだと、そしてそれはこの先も続くものだと。そう思っていた。
火の手が街の至る所からあがり、人々の断末魔と悲鳴が木霊する。
「・・・! これは!?」
王から式の前に最後の任だと言い渡され、シンは敵国との国境付近に現れた魔物を討伐するため二日程国を空けていた。予定よりも早くに帰還し、あとは丘を越えるだけだというところで異変に気付いた。夜も更けたこの時間帯、街の方は赤々としていたのだ。シンは同行した部下を連れ大急ぎで丘を越え、閉ざされた門を突破して街に入ると、陰と魔物に襲われている惨劇が目に入った。
「副隊長! 調べましたが、門を守る門兵は見当たりませんでした」
「!? なに!」
門兵の不在はあってはならないこと。そして他の門を見に行かせた部下も帰ってきては同じことを報告した。
「これでは閉まった門に阻まれ民が逃げられないじゃないか!!!」
「副隊長! ご命令を!」
「・・・・二手に分かれる。民の命が最優先事項だ。リーバとレイ、ガイは民を街の外に。中心街は残りと俺が行く。城門前の広場に集め、陛下に救援を要請する」
力強く頷いた部下たちだったが、その顔には不信感がありありと読み取れた。シンも同じことを思っていたからだ・・・・・。
「あんたは・・・」
悠馬の背後、そこには背の高く筋肉質な男が立っていた。
「結界も張らずに刀なんか出したら、魔物の見えない一般人にはトチ狂った奴にしか見えないぜ」
一歩一歩こちらに近づいてくる男は悠馬の隣でその足を止める。モノクロになった世界で、結界が張られたのだと悠馬は気づく。
「Aクラスの魔物だな。相当生気を喰らってため込んで、今になって爆発させたってとこか」
「・・・・。あんた、相沢の言っていたバイトの関係者か。仕事しろよ。一般人巻き込むな」
「はっ。刀もって魔物に立ち向かっていく青年には言われたくないな」
言い争いをしながらも、二人の視線は魔物から動かない。
「あんたも戦えるんだろ。こいつ何とかしろよ」
「えぇ、俺結界張ってるからムリィ」
「キモいウザいクタバレ」
体をくねらせ悶える男に悠馬は容赦のない言葉で両断する。
「つれないねぇ」
悠馬は男を無視して大蛇の懐に入り込み、そのまま横に一閃。しかしそれはやはり浅い傷を作っただけで修復される。
「なっ!」
修復したところに太い腕が生成され、悠馬は右の壁に大きくなぎ倒された。壁が崩れ、砂埃が舞う。そのなかで悠馬はゆっくりと立ち上がる。
「いってぇな。くそが」
フッと口の中に溜まった血を掃き出し、制服の袖口で拭う。
「内臓か骨がやられたな。な? 結界張ってよかったろ?」
「うっさい。戦わないんなら邪魔だからどっかいけ」
したり顔でにやける男はやれやれとしゃがむと、両手を地面につけた。すると男の足元に白く光る文様が現れる。
「俺は青年みたいな接近戦タイプじゃないんでね。どっちかつぅと、後方支援型なんだよ」
「・・・召喚士か」
「正解。喰らいつくせ、グリフォン」
男の声に反応するようにいっそう光が強くなり、天に向かい光の柱が男の足元から現れる。光が収まると、そこには鷹の翼と上半身、ライオンの下半身をもつ獣が姿を現した。
{未完}