始まり2
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「もしもし、店長? 美咲です。また彼に断られました。・・・いえ、記憶が覚醒していないはずはないです。だって祓うことが出来るのは記憶が覚醒しているからだって店長も言ってたじゃないですか。・・・・解りました。今日はもうそっちに向かいます。では」
放課後、夕焼けに染まる校内に残る者は部活化友人との談笑に講じる者たちだけだった。そんな学校の屋上へと続く階段の踊り場で携帯電話を切った相沢美咲はふぅと息をついた。
祓うことが出来るのは前世の記憶を持ち、それが覚醒しているから。なのに彼はそれを感じさせない。この世に生まれて出会った人々は前世で仲間だった者たちばかりだ。あと揃っていないのは一人だけ。
「校内での携帯電話の使用は禁止のはずだが?」
「! ・・・ここは見逃してくださいよ、生徒会長」
背後から声をかけられビクリと体を震わせた美咲だったがすぐに誰かわかると笑顔で振り向く。振り返ったそこには長髪の黒髪を後頭部で一括りにし、和服が似合うだろう和風美形の青年が立っていた。
「それに立ち入り禁止の屋上に職権乱用で入り浸る会長には言われたくないです」
「ふん。・・・で、電話は店長にか? 美咲」
「そ。店長に。また断られたんだよ藤崎君に。健二もどうにかしてよ、私ひとりじゃ心が折れそう」
健二―――、佐藤健二≪さとうけんじ≫はこの楠野森高等学校の生徒会長を務め、美咲と同じバイト仲間だ。それは健二本人も前世の記憶を持っている。
健二は考え込むように顎に手を添える。
「藤崎悠馬か・・・。成績優秀で容姿端麗運動神経も良し。一部の女子からは無口でストイックなところがイイと評判だな」
「流石情報収集に長けた能力持ってるだけはあるね。そして祓う力を持ってる・・・。私たちのメンバーで考えられるのは『彼』しかいない」
そう、すっと彼を探してきた。あの悲劇で離れて行ってしまった彼を。助けることが出来なかった。仲間だったのに、裏切り見捨ててしまった。残ったのは後悔だけだった。仲間も自分も失ってから真実に気付いた。手遅れだということも知らずに・・・。
「・・・こんな情報なら生徒会の女子にでも聞けば事足りるからな。藤崎の件については店長もお前に一任している。『彼』かどうか、判断材料だってお前のみた祓う場面だけだ。本人は否定しているのだろう?」
「うん。そんなの知らないって」
美咲が2年に上げって大きくなりすぎた陰を祓うためにその場に行くとそこには2年になって同じクラスになった藤崎の姿があった。そして彼は美咲に気づかないまま陰を祓ったのだ。美咲は大きく驚いた。陰を祓うために自分の胸元から刀を取り出したその姿はかつての『彼』そのものだった。
「・・・・『武具』を持っているってことはきっと『纏い』も出来るはずよね・・・」
「何をする気だ、美咲」
美咲は不意に呟く。それに不穏なものを感じた健二は釘を刺すが美咲はすでに思考の海に入っているのかブツブツとなにか計画のようなものを立てている。
健二は止められないと判断し、これから起こるだろうことを出来る限り最小限で抑えられるように努めることしか出来そうになかった。
「今日は空気がざわめくな」
夕焼けの道を歩きながら悠馬は呟いた。彼の赤の混じった黒髪が夕日によって真紅のように見えていた。
一陣の風が悠馬の頬を掠める。
「嫌な風も吹く。今日は大人しく家でいるか」
悠馬の両親は共働きでバリバリの仕事人で今は二人で海外に出ている。悠馬はそれ故に幼い頃から母方の祖父母の家で育った。育ての親である祖父母は数年前に他界。それを期に共に暮らさないかと両親から誘われたが日本に居たいと祖父母の一軒家で一人暮らしをしている。
一軒家といってもこじんまりとした平屋だ。時折一時帰国した両親も帰ってくるのでさほど寂しさを感じたことはない。
「あ・・・。味噌切れてたな、買いにいかねぇと」
学校でストイックだなんだと噂される悠馬の考えることはそこいらの主婦と何ら変わらなかった。
『俺と彼と彼女の関係』始まり2にございます。
今回は美咲と健二の出番が多かったですね。初登場の健二。苦労人です←
そして悠馬と美咲の容姿について書いていなかったことに今更気づくというこの醜態。修正しておきますので気になりましたらチラリと1の方を覗いてやってください。
ここまでお読みいただきありがとうございました!!