C-6
エレベーター独特の音声のあと、扉が開かれた。エレベーターにいる間は終始無言で、パリポリと音をならす十六夜三日月のシガレットだけが異様に三人を焦らせた。扉が開くと同時に十六夜昼夜は飛び出す。左右を見舞わしし、部屋番号だけを確認するとすぐさま自室へと身体を転換させて加速する。
「子供か彼奴は」
「子供だな。昼夜君は君と同い年だよ」
呟いた言葉に反応された驚きに表情を強張らせながらも、十六夜りさは一瞥して十六夜昼夜を追う。その頃には十六夜昼夜は鍵を使って扉を開け放っていた。それこそ、効果音はが必要な程に強く。
「俺ん家だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
謎に発声して叫ぶ十六夜昼夜。その後も同じ単語で発狂しつつ、部屋にしかれたマットの上をゴロゴロと転がる。
「うぉぉぉぉぉぉ寝転んでも汚れねぇとか此処何処だよ俺ん家だよ」
飽きれてものも言えない、と十六夜三日月は万歳する。
「さすがの君でもわきまえると思ったのだがね?これだと、りさ君が寝れないじゃないか」
「やだ!!!!!ここは俺の床だ!!!!!」
べたーん、と身体を大の字にして床を占拠している姿を見て、十六夜三日月はシガレットを噛んだ。
「すまないねりさ君。昼夜君は家無しだったんだ。今までも、専属講師として働いていた場所に泊めて貰っていたらしいのだが、担当が君になった瞬間に路上生活を始めてね。いやはや、私の知人の家に預けても良かったのだが、君に弱点を晒さない為にそんなことはしない、だそうだ」
「これが既に弱点と化しているのだが」
「おぉぉぉぉぉぉすげぇ!バスタブが付いてる!湯に浸かれる!!」
「それは本当か!?」
バスタブという言葉に反応したのか、十六夜りさは靴を脱ぎ捨ててバスルームへと走った。ちなみにその際、十六夜昼夜の移動手段はゴロゴロ転がっただけなのだが。
「湯船なぞ半年ぶりだ……私の部屋にはシャワーしかないものだからゆっくりとなんてとてもいられなかったし。おぉぉぉ……」
「でもすげぇわ。つかマジ、このガラス板とかどう考えてもらぶふぉォッ!?」
途中で言葉が遮られたのは、十六夜りさは脇腹を蹴り上げたからである。正気に戻った十六夜りさは十六夜昼夜の首根っこを持ってずるずると引き摺りながら再び玄関へと戻る。
「荷物、さっさとするぞ専属講師」
十六夜りさは単調に、おおよそ低いと判断されるであろう声色でそういった。
「少しは感傷に浸っててもいいだろ!俺がどれだけ湯船に浸かりたかったか……」
「いいか専属講師。貴様、早く準備すればそれこそすぐにでも湯船に湯を張ろう。手早く住ませて風呂に入るのだ」
「……グッジョブ、異常者」
「そろそろ君たちは自分の在り方を考えた方がいいと思うがね?」