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サイコパスシンドローム  作者: 木樵蝋梅
K-145RS否定
18/46

C-5

 マンション内は案外狭い。もっとも、その理由はすぐに十六夜昼夜は実感するが。マンションの設備自体は狭いが、代わりに個々の部屋の大きさが大きい。普通はマンション内を大きくして近所関係等を構築したり、子供を遊ばせる場所としたりするのだが、この”サイコパス”矯正校の専用寮においてそれは必要ない。理由は、彼ら全員が近所等はどうでもいいからだ。異常思想はすべて自分に直結する。それこそ、余りにも自己中心的なせいで外された社会の嫌われ者だ。自室が大きい方が都合がいいだろう。十六夜三日月はロビーに入ると、すぐそばにあったエレベーターのボタンを押して、何事もなかったかのようにシガレットを加えた。


「りさ。それでいいのだね?漢字指定はあるかね。まぁ、本来の名前には出来ないだろうがね」


 エレベーターの表示階数が3階を示す。なるほど、最大レベルでの入学者は然程少なくない訳ではなさそうだ、と十六夜昼夜はため息を吐いた。K-145RS改め、十六夜りさもまた、一人間として十六夜昼夜は扱おうとしている。あくまでしているだけなのだが。十六夜昼夜の行動は度が過ぎていると言ってもいい。教室での一件を見れば誰もが分かる事だろう。意味がないのかと言われれば、それは嘘になる。一つ、十六夜りさ自身に”サイコパス”の扱いを言葉以外で教える。二つ、教室で一緒になったクラスメイトに余計な心配をさせない。三つ、”サイコパス”レベルは3だと宣言する事で、担任教師の目を誤魔化す。四つ、専属講師という存在がどれだけストッパーになるのかを示す。


 直結ではないにしても、十六夜昼夜には様々な考えがあって、暴力的な行動を取ったと言える。もっとも、十六夜昼夜自身にそのことを言うつもりはないが。十六夜昼夜は気怠そうにブレザーを脱いで、肩に引っ掛けた。


「異常者。くれぐれもバレるな。面倒な事にしかならないから」


 十六夜りさはゆるりと回転し、名前を得た喜びを身体全体で表現する。新陳代謝の促進効果のおかげでパッチはすべて外れ、パッと見ただけではテスターが埋め込まれていないように感じる。だが実際は、両肘両膝両胸に、額とヘソ部分の合計八ヶ所に、彼女の異常を体現する装置が埋め込まれている。効果の程を十六夜昼夜は見ていないが、それでもどれだけ上手く再現出来るのかを何となく分かっていた。十六夜りさの異常は否定に特化している。となれば、何かを否定する異常を体現するのだろう。自分のような、思考でしか使えない異常等ではなく。


「何、案ずるな専属講師。私の名前は十六夜りさになった。漢字?そんなものはいらんよ。変える事は私の生き方を否定する。だったらなおさら、新たな私として受け入れてしまった方がいいだろう?」


 十六夜りさはにこりと笑った。エレベーターの表示階数が二階に変わる。十六夜りさは屈伸をしながら、走りたくてうずうずしているように見える。その通りなのだが。十六夜りさはただ走り回りたかった。この広い敷地内を走ればどれだけの長さを走れるのだろうと妄想し、彼女は何かに浸っている。半年間、見ることもままならなかった外の世界を、限定的にだとはいえ走り回れるという、欲望の再現。彼女には走る事にしか興味はなかった。


「はは、違いねぇ。つかマジ、お前には異常を抑えられるんだから、努力して欲しいもんだ」


 エレベーターの表示階数が一階になり、扉が開く。無言でシガレットをぽりぽりいわせながら十六夜三日月は中に入って、五階のボタンを押した。十六夜昼夜はくるくる回る十六夜りさの手を取って、閉まり始める扉へと飛び込んだ。


「閉めんなバカ。クズ。変態」


「単なる遊び心で変態はないと思うがね。まぁいい。君たちはどうせ相室だし、一緒に荷物整理でもしたまえ。五階のチェックは始めてでね、私自身が興味があるから、室内を軽く見て回るよ」


 エレベーター独特の浮遊感の後、十六夜の三人は登っていった。

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