C-3
──────はぁ?
十六夜昼夜は素っ頓狂な声を上げた。咄嗟に理解は出来ないのが理由だろう。十六夜昼夜は一般的価値観からでしか考えられない。具現システムを使わずしても、常に十六夜昼夜の脳内では一般的価値観が渦巻いているから、彼の判断は一般的に考えると正しい筈だ。子宮に具現システムのテスターを埋め込む。この事自体に理解が及ばない。理由は、パーセンテージが足りないから、では、何故その場所が選ばれたのだろうか。十六夜昼夜は問いを投げかける。
「つかマジ、それ意味あんの?別にヘソとかでもよくね?」
「何を言うか昼夜君。君には一般的価値観から判断出来る異常が備わっている筈だろう?それじゃあ、私の思惑も分かる筈だ」
十六夜三日月はそういうと、K-145RSのスカートをゆっくりと捲り上げた。制服のスカートは膝下まで隠れているものなのだが、初めから膝部分が露出していたこともあって、彼女のスカートは然程長いものではなく、むしろ履いたニーソックスによって太股が強調されているようにも感じる。それを更に捲り上げるのだから、その下に隠れる下着が露出する事は道理だと言えよう。
「感覚向上の薬物を投与しているんだ。そりゃあ、針による痛みなんて激痛で仕方ないだろうが、それも次期に快楽へと変わろう?となれば、俗に言うムラムラした状態でこの数時間コイツは過ごしていたんだ。それはもう、きっと子宮が疼いて堪らないだろうね。しかも、パッチは残念ながら貼ることが出来ない。パッチはあくまでパッチだからね?蓋さえしてしまえばいい。君には子宮にテスターを埋め込んだ後に生殖器で蓋をして欲しいのさ。一番フィットするのは生物としての原理に適っているものの方がいい事だしね?」
「あぁこうしてみて分かったわ。アンタ変態だなうん。しかも色々捻じ曲がってる方の」
十六夜昼夜は判断して、そう即答する。判断基準は世間。掛けた天秤は、”健全な理由鵜かどうか”。結果、健全じゃなかった。それだけの話。十六夜昼夜は額に手を当てて、ヤレヤレと万歳する。
「いいのか昼夜君?」
十六夜三日月は蕩けた表情で十六夜昼夜に問いかけた。
「”サイコパス”に人権なんてあってないようなものだぞ?君が何をしようと、君が咎められる事もないだろうさ。一般的価値観様はまさか『玩具を壊してはいけない』とでもいうのかね?」
クツクツと十六夜三日月は嗤う。そのの理由は十六夜昼夜も分かっていた。これは十六夜昼夜の異常が露呈しては解決出来ない問題だからだ。世間一般からの”サイコパス”に認識を以てすれば、K-145RSの処遇は簡単に予測出来る。どんなことをしても咎められない、何をしても言っても、”サイコパス”という生き物には反抗する手段はないに等しい。十六夜三日月は”サイコパス”の事を『玩具』と呼んだのは精一杯の皮肉だろう。十六夜三日月もまた”サイコパス”なのだから。十六夜昼夜は一瞬だけ躊躇って、言葉を紡ぐ。
「簡単だよ。十六夜昼夜さんは不完全だから、不能さんなんだよ」
「なんだ。君には性欲というものは存在しないのかね。つまらないな」
十六夜三日月は表情を突然普段の物憂げな顔に戻して、淡々とした作業のように持っていた針をK-145RSの鳩尾部分に突き刺した。K-145RSの表情が一瞬歪むが、すぐに緩んだ。未だに感覚向上の薬物が効いているのだろうか、それとも、保身の為に痛みを快感と受け取っただけなのか。しっかりと15cm、針を突き刺したところで真っ直ぐ抜いて、パッチを貼り付ける。
「そうだ。不完全な君に言っておこう。因みに、”サイコパス”は奴隷だと思えばいいさ。君は確かに”サイコパス”の資格を持っているが、あくまで持っているだけだ。どう使うかも、使われるかも君次第だよ?君は一番良く”サイコパス”の事が分かる。しかし、君は同時に”誰よりも”サイコパス”に近しい存在なんだ。判定されたら黒と出るだろうよ。確かに検査から除外はしてあるが、万が一そんなことがあれば」
十六夜三日月は振り返って、パチンと指を鳴らした。
「私の身では、救う事が出来ないよ」
部屋の真っ白が消え、元の彩色へと戻っていく。十六夜三日月の部屋はそれこそ、たくさんのもので溢れ返っている。それこそ、現象を起こす事も書き換える事も十六夜三日月には可能だ。十六夜三日月の具現の異常は、具現化する事に関しては天才的な才能を発揮するのだ。十六夜三日月は、現れた窓際の椅子に腰かけて、肘をつきながらふふんと笑った。自虐的な笑みにしか十六夜昼夜には見えない。
「そうか」
十六夜昼夜は短くそう答える。
「さ、そろそろクラスの方でもホームルームが終わってしまった頃だ。寮を紹介しよう」
「それと、K-145RSにした行為とは話が違うけどな変態」
十六夜三日月は嘆息する。
「やれ、最近の子供は茶目っ気にまで変態呼ばわりするのかね?」
K-145RSは既に事態の収拾を諦めていた。