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サイコパスシンドローム  作者: 木樵蝋梅
K-145RS否定
1/46

A-1

反社会的な言動、思想、好意は疎まれる対象となり、その当人を抑制しようとした。だからといって殺人を是とする事は出来ず、故に軟禁という形をとって、社会から隔離した。


何が思想の自由だ、と異常者は呟いた。見た目には彼女が異常に見えなくとも、彼女の思想を知った人々は皆口を揃えて彼女の事を異常だと批評するだろう。俗に、彼女のような思想を持った人々を、精神疾患の名前を流用して、”サイコパス”と言う。あまりにも自己中心的で、社会に適合することが出来なかった人物。言わば、多数だったが為に生まれた極少数の異分子。誤差。突然変異。


彼女は全てを否定した。社会のルールも、人の在り方さえも。故に、社会から外れるしかなかった。


「”全否定”それが私の思想」


正確には、自己を肯定する為に他の全てを否定するという異常な思考回路を持った彼女。その彼女を社会は否定した。彼女が思っているだけに過ぎないが、自身を否定した社会を彼女は否定し、自身を肯定する。彼女は生まれながらにして否定者だった。生みの親さえも否定し、独りで暮らす彼女にとって、他者とは自分意外を指しルールを指す。


社会にいては社会に参加しなければならない。それは時間通りに来るというルールがあってのことで、そのルールすら否定しようとした彼女はサイコパス診断専門の医者に”サイコパス認定者”と診断された。ルールを守る事さえも否定した彼女は外出も許されない。社会から隔離された彼女の部屋には外から鍵が掛けられている。室内で生かされていると言えば適切だろう。生かされていると言えば強制的な印象が強いが、そうではなく、むしろ自殺を助長するかの様に部屋には備品が大量にあった。刃物はもちろんのこと、縄も水も練炭まで。


反社会的分子である”サイコパス”は不必要だが、それを殺める事は憲法によって禁じられていた。故にその異常者当人に死んでもらおうと用意された”サイコパス制度”。しかし、”サイコパス”である人々は自己を尊重する余りに自殺に至った人数は数える程度だった。義務教育に縛られた国家故、日本が導入した”サイコパス制度”で認定された児童は例外的に外部との接触が可能だった。もちろん、それは教師という国家公務員だったが。


他者を否定する上で知識が必要だと、彼女は勉学には熱心だった。教師を驚かせる程でないにしても、その知識の絶対量に関しては量り知れない。並の同年代児童とは比べ物にならない知識を持っている彼女はより確実に他者を否定出来るようになり、自身をより強く肯定した。


そもそも、行為としては罰せられる事をしておらず、仮に罪だとしても償わせる対象に何もさせずにこうして一室で軟禁する事はおかしい、と彼女は思う。


息をふっ、と吐き出して立ち上がり、体力トレーニングに為に設置されたランニングマシンへと足を運ぶ。自身の健康を考えた彼女は日課としてランニングマシンで運動をしていた。体力がなければ何もできないからだ、と彼女はその行為を肯定するが、何もする必要のない”サイコパス認定者”にとって、果たして意味があるものなのだろうか。


軽い足取りでマシンのスイッチを点けて、動き始めるベルトの上に乗った。時速表示は20km/h。ランニングにしては早い数値だが、彼女の知識の中にその数値が異常である事を示す情報はなかった。彼女にしてみれば、ただ単に今まで体力は付く度に速度を上げていき、その速度が丁度いいと理解したまでだった。


マシンのベルトが加速し始める。表示されているのは時速表示と、残り三十分という駆動時間のタイムセットのみ。時間機能は狂っているし、カロリー消費計算も彼女が正確な値を入力しなかった為に表示されずにerrorとされている。前方に設置されたバーを掴んで足をベルトに合わせて動かす。この速度で走ったのであればどうなるのだろうか、と彼女は自身のの持つ力を知りたいという欲求に駆られる。部屋の中を走った経験があるものの直ぐに壁にぶつかってしまい、トップスピードに至れない。風を切りたい願望が湧き上がった。マシンでは、どれだけ走ってもただ体力を消耗するだけだ。はぁ、と深く息を吐いてマシンを停止させて速度を落としながら停止させる。彼女自身が飽きてしまった。


首を回しながら部屋に置かれたテレビのスイッチを点け、水道の蛇口を捻って口を直接近付けて水を口に含む。


「…………ぬるい」

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