表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/23

番外編〜魔法使いは君(4)

 式が終わり、新郎控え室にノックの音がして、誠也が顔を出した。


「兄貴、お疲れ」

 真也はフロックコートのまま椅子にもたれて座っていた。

「ん。お前もご苦労さん」

「・・・いい仕事したっしょ?」

 ほくそ笑む誠也に、真也は渋々頷いた。

「悔しいが認めよう。智はすごく綺麗だった」

 片手をあげた真也に、誠也も片手でハイタッチをする。さすがに疲れた。二人はそのまま大きくしなやかに伸びをした。

「このままハネムーンに行けたら良かったね」

「式だけで精一杯だったからな、そのうち」

 タイを緩める真也に、誠也が冷やかす。

「どうせ毎日がハネムーンだもんな?」

「・・・何言ってんだ。用がないならさっさと行けよ」

 真也はにやつく誠也を追い払うように手を振ったが、誠也は胸ポケットから手品のように出した一枚のカードを二本の指に挟み、ぴらぴらと揺らした。

「要らないのかなあ?ハネムーンのないお二人に、俺からの、せめてものお祝いなんだけど?」

「は?」

「この式場の上、ホテルの3階、301号室のキイ。ちゃあんとスイートルーム仕様だから」

 ふふん、と得意げに笑う。

「智ちゃんにはまだドレス脱がないで待ってて、って言ってあるよ?」

 その言葉が終わらないうちに、真也はカードをひったくる。

「恩に着る!」

 荷物を掴むと、真也は階段を駆け上がった。


 息を整えながら、スイートルームのドアをノックした。

「はい、どうぞ?」

 てっきり式場の人が着替えの手伝いに来てくれたと思ったらしく、よそよそしい声だ。

 真也がドアを開けると、智は窓際のレースのカーテンの前にこちらに背を向けて佇んでいた。ベールを外しているので、白い背中の凹凸が窓から差し込む夕陽に照らされ美しい陰影を描いているのが見える。

「・・・ん!」

 肩胛骨の間にキスを落とされて、智から甘い声が漏れる。

「・・・翼が生えてないか、確かめた」

 そんな台詞も、彼なら許せてしまう。智はゆっくりと振り返った。

「綺麗だ・・・本当に、天使みたい」

 真也はじっと眺めて、ため息をつく。智もうっとりと真也に視線を滑らせた。

「あなただって」

「・・・君の見立てだろ」

「誰にも見せないで、しまっときたい」

 俺なんて、と真也は首を振った。

「欲しければどうぞ。全部、君のだ」

 智の両手をとった。

「・・・君は本当に、今日から俺のもの?」

「そうよ」

 躊躇わずに答える智に、思わず緩めたタイの奥で喉仏が上下する。

「・・・人前で足に触らせるなんて」

 すっとミニスカートから伸びた太ももに手を滑らせる。

「ひどい拷問だった。君が男達の卑猥な目に晒されるのも我慢出来なかったし」

 そのまま膝裏に手を入れて、事も無げに智を抱き上げる。

「・・・この堕天使!」

 ドレスの裾が滝のようにこぼれる。白いヒールがことん、ことん、と右左一つづつ順番に落ちて。唇を啄まれながら寝室へと運ばれる。

「あの窓から、さっきパーティーをしたお庭が見えたの」

 キスの合間に智が呟く。

「見ないの?ねえ、夕日がとっても綺麗だったよ?」

「景色なんてどうでも」

 天蓋付きのダブルベッドに落とされた途端、キスが噛みつくようなものに変わる。首筋へも、まるで食いちぎられんばかりだ。皆にあげてなくなってしまった白薔薇の代わりに、鎖骨の上、開いた胸元、点々と赤い花が咲く。

「待って」

「待たない」

 一瞬唇を離してぐっと視線が絡みつく。黒豹が獲物を睨め付ける目だ。

「俺のものなら、好きなようにさせて?」

 そう、さっき、言質を獲られていた。

「・・・『今夜は、そういう夜』だから?」

 智は微笑みながら、いつか、初めて思いを遂げた日の彼の言葉をなぞった。

「・・・わかってるじゃないか」

 タイに手をかけながら、ふふん、と三日月のように微笑む。

「最後だから聞いてあげよう。思い残すことはないかな、生け贄くん」

「・・・急がないで?」

 と彼のタイの上に手を重ねた。

「素敵なんだもの、もっと見ていたい。私に、させて?」

 そう言うとゆっくりタイを外していく。

「今日は強気だな!」

 そう言いながらも本当は焦れて、服なんて自分でむしり取りたくなる。朝から翻弄されてばかりだ。

「あの照れると敬語になる、しおらしい智はどこに行っちゃったんだ?」

 からかう真也に智は、

「飼い慣らされたの」

 しれっ、と答えて、ベストのボタンをゆっくりと外す。真也は、

「違いない」

 とほくそ笑むと、再び目の前の獲物に集中した。キスの音で智の肌に次々と赤い薔薇が花開く。咲くほどに智からは熱い吐息が漏れた。

「・・・真也」

「何」

「幸せ?」

「当たり前だろ、こんな幸せな日はないよ。智は?」

「・・・あなたが幸せなら、私も幸せにきまってる」

 全てを包み込むような瞳で愛しい伴侶を見上げる。真也は固く智を抱きしめた。

 


 これからも、何度となく泣かされ、何度となく喜びを与えられるだろう。

 

 いつまでも僕だけに呪文をかけて。

 

 君は、僕の魔法使い。

 

 


Fin

 

 

 




 ここまで読んでいただいた皆様。本当にありがとうございました。智と黒豹真也のお話はこれでおしまいです。この後、新作カップルのバレンタイン話があります。登場人物は約3人。名前は伏せますが、多分2人はすぐわかります。もう一人は連載までのお楽しみということにさせて下さい。皆様にも素敵な魔法がおきますように!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ