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付加術師を追放したら、能力が超低下したんだが、どうしたらいい?

作者: 藤原 智
掲載日:2026/11/05

 俺達は、とんでもないミスを犯したんだと思うwww


 付加術師を追放したら、能力が超低下したwww

 魔物狩れねえwww

 クソワロタwww


 いや、笑ってる場合じゃねえんだが?


 俺達は五人で冒険者をやっていた。


 アタッカー、俺。

 和弓使い、神楽。

 戦士、ヴォイド。

 魔術師、シド。

 付加術師、クラウド。


 役割分担は完璧だった。

 俺が斬る。神楽が射る。ヴォイドが守る。シドが焼く。

 クラウドが、なんかする。


 この「なんか」を、もう少し詳しく聞いとけばよかったwww


 でもさ、魔物とか簡単に狩れてたからさ。

 俺が剣を振ったら大体終わるし、神楽の矢は岩ごとぶち抜くし、ヴォイドなんか竜に踏まれても笑ってたし。


 クラウドは後ろで杖持ってるだけじゃん?

 なのに取り分は五等分。


「誰か一人抜けたら、取り分増えね?」


 俺が言ったら、全員うなずいた。


「俺は抜けないぞ」

「私も」

「当然、私でもないな」


 協調性なさすぎwww


 で、クラウドを追放した。

 あいつ、しばらく黙ってから「そうか」って言って、普通に荷物まとめて出てった。


 怒鳴るとか、泣くとか、引き留めてほしそうにするとか、そういうの全然なかった。


 引き留める予定もなかったんだけどなw


 翌朝、俺は剣を抜けなくなった。


 鞘から抜けないんじゃねえの。

 床から持ち上がんねえの。


 神楽は弓を引けず、ヴォイドは鎧を着たまま椅子から立てず、シドは寝癖を直すための風魔法で魔力が尽きた。


 なにこれwww

 昨日まで竜狩ってた連中の朝か?


 慌てて能力値を確認した。


 俺の筋力、一万二千。

 だったのが、十二。


 十二。


 俺の年齢より少ねえwww


 どうも、クラウドが俺達の能力を千倍にしてくれてたらしい。

 ずっと。

 三年間。


 え?

 言えよ?


「以前、説明されていなかったか」


 シドが床に座ったまま言った。


「我々の能力には自身の付加が含まれるので、定期的に素の能力も測定してほしい、と」

「あれって、そういう意味だったの?」

「私は途中までしか聞いていない」

「私も」

「俺もだ」


 急に協調性出してくんなwww


 とりあえず、人に聞こうと思った。

 宿の壁には魔導通信の紋章がある。手持ちの魔導板をつなげば、王都から辺境まで、好きな掲示板を見られる。


 この宿、お湯は出ねえのに回線だけ速い。

 文明の順番おかしくね?


 俺は冒険者専用板を開いた。



【付加術師を守れなくて死なせてしまい、能力超低下なんだが、どうしたらいい?】


 1:名無しの冒険者

 三年組んでた付加術師がいなくなった。

 能力がありえんくらい落ちた。

 マジで困ってる。

 こういう時どうしたらいい?


 2:名無しの冒険者

 まずはお悔やみ申し上げる。


 3:名無しの冒険者

 きついな。

 しばらく休め。判断力落ちてるぞ。


 4:名無しの冒険者

 付加切れか。

 どのくらい落ちた?


 5:スレ主

 千分の一。


 6:名無しの冒険者

 桁間違ってるぞ。


 7:スレ主

 間違ってない。

 一万二千あった筋力が十二になった。


 8:名無しの冒険者

 休め。

 想像以上に判断力落ちてる。



 俺、実際の数字書いただけなんだがwww


 ちなみに「追放した」って書いたら、絶対怒られると思った。

 だから死んだことにした。


 ネットって怖いじゃん?

 こっちにも自衛が必要だろ。


「クラウドを死なせるな」


 横から見ていた神楽が言った。


「俺達の中で、って意味だから」

「今いちばん生きていてほしい相手だろう」


 ヴォイド、椅子から立てないくせに正論だけ強いな。



 12:付加術師やってます

 まず、装備の重さを確認してください。

 今の筋力で扱えるものに替える必要があります。


 13:名無しの冒険者

 お、専門職。


 14:スレ主

 専門家きた!

 助かる!

 ちなみに能力を戻す方法とかある?


 15:付加術師やってます

 新たに付加を受ければ、一時的には上がります。

 ただ、千倍を前提にした生活はおすすめしません。

 ご自身の能力を把握するところから始めましょう。


 16:スレ主

 千倍にできる人って珍しいの?


 17:付加術師やってます

 少なくとも、今から募集してすぐ見つかる方ではないと思います。


 18:名無しの冒険者

 そんなやついたら国が抱えるだろ。


 19:名無しの冒険者

 千倍にしてもらって三年間、素の筋力十二なのか?


 20:スレ主

 今そこ関係ある?


 21:名無しの冒険者

 そこしか関係ねえだろ。



 あるらしいwww


 千倍にできる人を募集すれば済むと思ったんだけどな。

 募集板も見たけど、一・二倍とか一・五倍とかばっかだった。


 小数点ついてるんだが?

 千倍の「千」、そんなに遠い?



 25:付加術師やってます

 まずは軽装で、東門を出てすぐの草原へ行ってみてください。

 灰色のスライムを一体だけ相手にして、現在の動きを確かめるといいでしょう。

 あそこなら門が近く、午後は採取依頼の護衛も巡回しています。


 26:スレ主

 スライム?

 さすがにそこまでじゃないと思うけど。


 27:付加術師やってます

 念のためです。

 無理ならすぐ助けを呼んでください。


 28:名無しの冒険者

 四人でスライムの動作確認会。


 29:名無しの冒険者

 笑うな。

 仲間亡くしたばかりなんだぞ。



 ごめん、生きてるwww


 ちょっと心が痛んだ。

 でも、今は心より財布の方がヤバい。


 俺達、昨日は取り分が増える前祝いでいい酒飲んだからさ。

 まだ取り分、増えてねえのに。


 先払いで浮かれすぎだろwww


 ともかく、頼れる専門家が現れた。

 俺達はギルドで初心者用の武器を借り、鎧を脱ぎ、東門へ向かった。


「軽いな」


 ヴォイドが小さな木盾を振っている。


「むしろ、こっちの方が動きやすいのではないか?」

「わかる。俺も、この剣すげえ持ちやすい」

「私も、この弓なら引ける」


 全員、装備更新に成功。

 見た目は駆け出しに退化。


 でも、戦えれば問題ない。

 スライムだし。


 いた。

 灰色で、膝くらいの高さで、ぷるぷるしてるやつ。


「俺が正面から斬る。神楽、援護。ヴォイドは側面。シド、いつもの」

「承知した」


 俺が踏み込んだ瞬間、スライムが跳ねた。


 速っ。


 あ、これ、いつもなら避けてる。

 頭では避けてる。

 足、動かねえ。


 顔に来たwww


「ぶべっ」


 俺、横倒し。

 神楽の矢、空。

 ヴォイドの盾、裏返し。


 スライムが俺の背中を踏み台にして跳ね、神楽の腹にぶつかった。


「ぐっ……!」

「神楽!」


 ヴォイドが盾を構えた。

 衝撃を受け止めた。

 盾ごと後ろへ転がった。


 盾は無事。

 持ち主がダメ。


「退け! 炎帝の怒りをもって、我が敵を灰燼に――」

「シド、初級! 初級でいい!」


 途中で詠唱を変更したシドの杖から、小さな火が出た。


 お、いける?


 消えた。


 シドも座った。


 何しに来たんだ、俺達www


 スライムが、もう一回ぷるっと震えた。


 知ってる。

 これ、跳ぶ前の動き。

 さっき学んだ。


 学習したところで、足が出ねえwww


「助けてええええ!」


 俺が叫ぶのと、丸盾を持った女剣士が間に入るのが同時だった。


 盾の角度を少し変えただけで、スライムが横へ流れた。

 そこへ矢が一本。

 核を射抜かれたスライムが、地面にべちゃっと崩れた。


 え?

 終わり?


「怪我はありませんか」


 弓を下ろした青年が、俺達を見回す。

 四人とも、ある。


 大怪我ではないけど、全員きっちりある。


「間に合ったな」


 背後から聞こえた声に、俺達は一斉に振り向いた。


 白い外套。

 見慣れた杖。


 クラウド。


 昨日追い出したクラウドが、新しい仲間と一緒に立っていた。


「お、お前、なんでここに……」

「採取依頼の護衛。こっちは新しいパーティの仲間だよ」


 女剣士が俺達を見た。

 あ、それ、聞いてる顔だわ。

 何を聞いてるかは知らんけど、絶対、聞いてるわ。


 クラウドは俺達の泥だらけの服と、転がった初心者用の武器を見て、それから、にこっと笑った。


「付加術いりますか?」


 いるうううううwww


 いるけど、即答すんのは、なんかさ。

 昨日あんなこと言っといて、さすがに。


「お願いします」


 ヴォイドが即答した。

 お前、そういうところ切り替え早いな。


「帰り道の分だけな」


 足が少し軽くなった。

 痛いところは痛いままだけど、普通に歩ける。


 クラウド達は採取人のところへ戻っていった。

 俺達は武器を拾った。


「……帰るか」

「そうだな」


 誰も、もう一匹とは言わなかった。

 今日いちばん連携取れてたと思う。


 宿へ戻り、腫れた頬を冷やしながら、俺は魔導板を開いた。

 世話になった人達には、結果を報告しとかないとな。



【狩り成功】


 1:名無しの冒険者

 お前らのアドバイスのおかげで、東の草原から無事帰還。

 スライムの討伐も完了した。

 専門家のコテハンには特に感謝してる。


 2:名無しの冒険者

 お、千倍の人か。


 3:名無しの冒険者

 よかったな。

 少しずつ取り戻していけ。


 4:付加術師やってます

 ご無事で何よりです。

 自分達の力で戦ってみて、どうでしたか?


 5:スレ主

 スライム、意外と速かった。


 6:名無しの冒険者

 初心者の感想で草。


 7:名無しの冒険者

 どうやって倒した?


 8:スレ主

 盾で体当たりを横に流して、弓で核を撃った。


 9:名無しの冒険者

 いい連携じゃん。


 10:スレ主

 俺らもそう思った。


 11:名無しの冒険者

 ん?


 12:付加術師やってます

 その盾と弓を使ったのは、どなたですか?


 13:スレ主

 通りかかった人達。


 14:名無しの冒険者

 お前らは?


 15:スレ主

 倒れてた。


 16:名無しの冒険者

 狩り成功したのお前らじゃねえwww


 17:名無しの冒険者

 救助要請成功。


 18:名無しの冒険者

 なんでスレ立てた?



 え、ダメ?

 結果としてスライムは倒れて、俺らは生きて帰ったんだから、成功の範囲内だと思うんだけど。


「私達の矢は一本も当たっていない」


 神楽が隣で言った。

 わかってるから、言わなくていい。



 22:スレ主

 しかも、その人達のパーティに付加術師がいてさ。

 帰り歩けるようにしてくれた。


 23:名無しの冒険者

 いい人に会ったな。


 24:スレ主

 いや、その付加術師、元うちのメンバー。


 25:名無しの冒険者

 死んだんじゃなかったのか?


 26:スレ主

 生きてる。


 27:名無しの冒険者

 よかった!


 28:スレ主

 追放しただけ。


 29:名無しの冒険者

 よくなかった。


 30:名無しの冒険者

 スレタイ詐欺じゃねえか。


 31:名無しの冒険者

 お悔やみ返せ。



 返せるものなの、それwww


 いや、まあ、嘘はよくなかった。

 そこは認める。


 でもさ、お前ら、追放したって書いてたら絶対こうなってただろ?

 今まさになってる、この感じに。


 自衛、失敗www



 36:付加術師やってます

 そうでしたか。

 ご本人が生きていらっしゃるなら、何よりです。


 37:スレ主

 ありがとう。

 この人だけ優しい。


 38:名無しの冒険者

 優しいか?


 39:付加術師やってます

 ただ、亡くなったことにされた方は、気の毒ですね。


 40:名無しの冒険者

 やんわり刺してるぞ。


 41:スレ主

 そこは反省してる。

 付加の重要性もわかった。

 本人に謝れば戻ってきてくれるかな?


 42:名無しの冒険者

 謝る目的がそれなのがもうダメ。


 43:名無しの冒険者

 追放した理由は?


 44:スレ主

 取り分を増やしたかった。


 45:名無しの冒険者

 正直なのはいいぞ。

 理由は最悪だけど。


 46:名無しの冒険者

 五等分が四等分なら、手取り二十五%増。

 代わりに能力九十九・九%減。


 47:名無しの冒険者

 すげえ取引したな。


 48:付加術師やってます

 最後の依頼の報酬は、きちんと精算していますか?



 俺は魔導板を伏せた。


「……クラウドの分、まだ渡してねえな」


 三人とも、黙った。


 昨日のいい酒が、急にまずくなった気がした。


 腹の中で味変すんなwww



 52:スレ主

 精算、まだだった。

 金貨二枚。


 53:名無しの冒険者

 返せ。


 54:名無しの冒険者

 返せ。


 55:名無しの冒険者

 返せ。


 56:スレ主

 わかったから連携するな。


 57:付加術師やってます

 精算と謝罪は、再加入の交渉とは別にしてください。

 戻ってきてくれなくても、お金は返してくださいね。


 58:スレ主

 返したら付加が戻るとかは?


 59:付加術師やってます

 ありません。


 60:名無しの冒険者

 返金で発動する魔法なんだと思ってんだ。



 四人で金を出し合い、クラウドを探した。


 ギルドの食堂にいた。

 新しい仲間と三人で、夕飯を食っていた。


 あいつ、パンの籠を回してた。

 前も俺達に、そうやって回してたっけな。


 俺、毎回二個取ってたな。


 ……今、それ思い出さなくてもよくね?


 俺達は四人で頭を下げた。


「お前の働きを軽く見てた。取り分増やしたいとか、そんな理由で追い出して、悪かった。これ、最後の依頼の分」


 金貨二枚を置いた。


「ありがとう」


 クラウドは枚数を確認し、財布にしまった。


 で、パンを取った。


 あれ?

 何か変化は?


「それで、あの、また俺達と……」

「今のパーティで続けるよ」


 即答www


 ヴォイドが半歩、前に出た。


「だが、俺達は長く組んだ仲間だ。少しくらい考えても」

「昨日、四人で考えたんだろ?」


 全員、下がった。

 この人、付加かけてない時も攻撃力ある。


 クラウドが、俺の手元を見た。


「それ、借りた剣?」

「ああ」

「今の君には合ってると思うよ。大きい武器にこだわらない方がいい」


 別れ際に、そんなことまで言われた。


 なんか、すげえ負けた気分になった。

 スライムにも負けたし、今日は負けの品揃えが豊富だなwww



【元の付加術師に謝ったけど、戻ってこなかった】


 1:名無しの冒険者

 金も返した。

 謝った。

 戻ってこなかった。

 次どうしたらいい?


 2:名無しの冒険者

 自分で働く。


 3:名無しの冒険者

 これ以外の回答ある?


 4:スレ主

 もう少し専門的なやつ頼む。


 5:付加術師やってます

 では、ギルドの初心者講習を受けてみませんか。

 武器の選び方、立ち回り、魔力の配分まで、ひととおり教えてもらえます。


 6:名無しの冒険者

 自分で働く、の専門的な説明。


 7:スレ主

 俺ら、三年やってるんだけど。


 8:名無しの冒険者

 今日の実績はスライムに敗北。


 9:スレ主

 それ毎回言う必要ある?


 10:名無しの冒険者

 現状確認。


 11:スレ主

 受けて意味あるかな。

 素質とか足りないのかもしれん。


 12:付加術師やってます

 素質の前に、今の能力に合った戦い方を身につける必要があります。

 以前の感覚で大きく踏み込んでも、足が追いつかないのではありませんか?



 え、なんでわかるの?


 俺の顔にスライムが来た理由、たぶんそれだわ。


 この人、マジで専門家だな。

 千倍とか言ったら他の連中は全部冗談だと思ったのに、この人だけは最初から普通に答えてくれたし。


 ひょっとして、宮廷付きのすごい人とか?

 身分を隠して庶民の相談に乗ってるとか?


 俺、そういう人に目をかけられる素質あるのかもしれんwww


「都合のいい素質から見つけるな」


 神楽の指摘は無視した。



 16:スレ主

 わかった。

 四人で受けてくる。

 ちなみに、どこがおすすめ?


 17:付加術師やってます

 明日の午前、中央ギルドの演習場で初級の実技講習があります。

 受付に確認したところ、四人分の空きがあるそうです。


 18:名無しの冒険者

 確認までしてくれたのか。


 19:スレ主

 マジでありがとう。

 何から何まで悪いな。


 20:付加術師やってます

 いえ。

 一度、付加がない時の実力を見ていただきたかったので。


 21:名無しの冒険者

 ん?


 22:付加術師やってます

 ご自身で、ということです。



 専門家は面倒見がいい。

 俺達はすっかり感動し、翌朝、言われたとおりにギルドへ向かった。


 演習場には、初心者が集まっていた。

 俺達より若いやつ。年上のやつ。農家から転職したっていう、すげえ腕の太いおっさん。


 俺、一応、そいつらの先輩。

 ここ大事。


「今日は、武器を持った相手との距離を確かめましょう」


 やってきた講師を見て、俺達は黙った。


 昨日の、丸盾の女剣士だった。


 お前もかよwww


「ああ、皆さんですね。クラウドから聞いています」


 何を?

 何をどこまで?


「大きな付加を受けていたので、今の動きに慣れていないと」


 そこまでか。

 なら、まだいける。


「説明に聞き覚えがあったんです。昨日、東門で倒れていた方達だなって」


 いけなかったwww


 周りの初心者が、俺達を見た。

 農家のおっさんが、親指を立てた。


「生きてりゃ、また始められる」


 やめろ、優しくするな。

 先輩として立っていられなくなる。


 俺は魔導板を取り出した。

 こういう時こそ、頼れる人に聞くべきだ。



【初心者講習、実況】


 1:名無しの冒険者

 講師が昨日俺達を助けた女剣士だった。

 元の付加術師と組んでる人。


 2:名無しの冒険者

 縁があるな。


 3:名無しの冒険者

 元仲間の新しい仲間に指導されるのか。


 4:スレ主

 四対一でもいいって言われた。

 さすがに舐めすぎじゃね?


 5:名無しの冒険者

 スライムも四対一だっただろ。


 6:スレ主

 それ毎回言う必要ある?


 7:名無しの冒険者

 現状確認。


 8:付加術師やってます

 勝敗よりも、どこで動けなくなるかを確かめてください。

 負けても、その理由がわかれば意味があります。


 9:スレ主

 了解。

 ちょっと圧倒してくる。


 10:名無しの冒険者

 読め。



 講師の木剣が、俺の胸に軽く当たった。


 軽くだぞ。

 俺、わざわざ一歩前に出たせいで、そこそこ痛かった。


 ヴォイドは俺をかばおうとして、俺の足を踏んだ。

 神楽はヴォイドが邪魔で矢を撃てず、シドは長い詠唱の途中で、講師から「その間、何回斬られると思います?」と質問された。


 答えを考えている間に、木剣が三回、肩に触れた。


「はい、ここまで」


 終わった。

 講師、息すら切れてねえ。



 14:スレ主

 圧倒された。


 15:名無しの冒険者

 おかえり。


 16:名無しの冒険者

 動きは確認できたか?


 17:スレ主

 主に俺達が互いの邪魔をしていた。


 18:名無しの冒険者

 大きな発見。



 神楽が録画した実技の映像を載せたら、すげえ返信がついた。


 笑ってるだけのやつもいたけど、ちゃんと教えてくれるやつもいた。



 23:名無しの弓使い

 弓の人、今の距離でその大きさの弓は要らない。

 引き切ることより、味方の位置を見ろ。


 24:名無しの盾持ち

 盾、構える位置が高すぎ。

 味方が何も見えねえ。


 25:名無しの魔術師

 その長い詠唱、今の魔力で最後まで持つ?


 26:スレ主

 持たないらしい。

 本人が今、計算してる。


 27:名無しの魔術師

 現場で計算してて草。


 28:付加術師やってます

 まずは、短い攻撃を一つずつ合わせましょう。

 全員が一度に決めようとしなくて大丈夫です。

 以前は、誰かがたまたま当てるまで耐えられたのでしょうが、今はそうはいきません。



 たまたま当てるまで耐えてたwww


 俺達の三年間の連携、専門家に一行で処理されたんだが?


 でも、映像を見ると、そうなんだよな。


 竜相手にも、だいたいこの順番で突っ込んでたわ。

 ヴォイドに踏まれて転んだこと、普通にあったわ。

 そのまま竜ごと斬れてたから、気にしてなかったわ。


 千倍って、怖いな。


 それから一週間、俺達は講習に通った。

 講習が終わったら、依頼板を見た。

 草を抜いたり、荷物を運んだり、掃除したりした。


 世界の危機とか救ってねえ。

 詰まった排水路なら救った。


 けっこう感謝された。

 これはこれで、悪くなかった。


 使えない重装備を売り、身の丈に合った武器を買った。

 シドは、長い詠唱の魔導書に栞を挟み、短い魔法の練習を始めた。

 神楽は矢を撃ったあと、ちゃんと拾うようになった。


 前は、なくしてもまた買えばいいと思ってたからな。

 クラウドがよく拾ってたけどな。


 思い出すたび、あいつの仕事増えてくんの、なんなん?


 夜は掲示板を開いた。

 困ったら相談した。


 例のコテハンは、だいたいいた。



【四人分の宿代を減らしたい】


 1:名無しの冒険者

 部屋代が地味にきつい。

 野宿ってどう?


 2:名無しの冒険者

 おすすめしない。


 3:名無しの冒険者

 スライムが来るぞ。


 4:スレ主

 もうわかったから。


 5:付加術師やってます

 大部屋に空きがないか、宿の方に聞いてみては?

 別々の個室を借り続ける必要はないと思います。


 6:スレ主

 その手があった。


 7:名無しの冒険者

 今まで個室だったのかよ。


 8:スレ主

 相談したら四人部屋に移れた。

 しかも、こっち湯が出る。


 9:名無しの冒険者

 生活改善してて草。



 ヴォイドのいびきがヤバかったので、次はそれを相談した。


 コテハンに、寝る前の酒を控えろと言われた。

 横向きで寝るのも試してみろと言われた。


 実行したら、少しましになった。


 付加術の専門家、守備範囲広くね?



【魔術師が自分の足元に火を出す】


 1:名無しの冒険者

 短い魔法を練習してたら、靴が焦げた。

 本人は杖が悪いと言ってる。


 2:名無しの魔術師

 杖先じゃなくて、着弾点を意識しろ。


 3:付加術師やってます

 詠唱の最後で杖を下げていませんか?

 魔力が足りないのを、力んで補おうとするとそうなります。


 4:スレ主

 見てた?

 そのとおりなんだが。


 5:付加術師やってます

 よくあることです。



 神楽が弓を替える時にも、ヴォイドが盾の革紐を買う時にも、この人はちゃんと答えてくれた。


 すげえ人に会えたと思う。

 ネットにも、こういう人いるんだな。


 クラウドも、こうやってわかりやすく説明してくれてたら、俺達も――。


「説明はしていたぞ」


 シドが言った。


「私の杖の持ち方も、何度か注意していた」

「私の弓もだ」

「盾の位置も言われていたな」


 全員、そういうことは、もう少し早く言ってくんねえかなwww


 俺達も、もう少し早く聞いておけばよかったんだけどな。



【今度こそ狩り成功】


 1:名無しの冒険者

 東門の草原で、スライム一体討伐。

 四人で。

 今回は他の人は手を出してない。


 2:名無しの冒険者

 証拠は?


 3:スレ主

 討伐証明の核。

 あと動画。


 4:名無しの冒険者

 お、盾のやつ、ちゃんと斜めに受けてる。


 5:名無しの冒険者

 火の魔法、ちっさ。


 6:名無しの魔術師

 これでいいんだよ。

 相手を止められてる。


 7:名無しの弓使い

 弓も当たってるな。


 8:名無しの冒険者

 最後、スレ主がめちゃくちゃ慎重に剣刺してて笑う。


 9:スレ主

 あいつ、跳ねるからさ。


 10:名無しの冒険者

 知ってる。



 今回は、本当に狩れた。


 ヴォイドが受けて、神楽が動きを止めて、シドが小さな火で隙を作って、俺が核を突いた。


 たぶん、スライム一体にそこまでやる必要はない。

 でも、できた。


 帰りに、四人で報酬を受け取った。


 銅貨八枚。

 四等分。


 念願の四等分、これかよwww



 14:付加術師やってます

 おめでとうございます。

 今度は、皆さんの狩りが成功しましたね。


 15:スレ主

 ありがとう。

 あんたのおかげだわ。


 16:名無しの冒険者

 ちゃんと礼が言えるようになってる。


 17:スレ主

 元から言えるわ。


 18:名無しの冒険者

 前の付加術師には言えてたか?



 言えてなかったな。


 魔導板を見ていた三人が、ちょっと黙った。

 俺も黙った。


 この前、金を返した時は、謝ることと、戻ってきてもらうことで頭がいっぱいだった。

 助けてくれた礼も、三年分の礼も、なんか、まとめて済ませた気になってた。


 だっせえな、俺達。


 スライムより先に気づくこと、山ほどあるわ。



 21:スレ主

 今度、ちゃんと言ってくる。

 それとは別で、あんたにも直接礼したい。

 付加術師やってますさん、どの辺に住んでる?


 22:付加術師やってます

 同じ町です。


 23:スレ主

 近っ。


 24:名無しの冒険者

 東門の説明が細かいと思ったら地元民か。


 25:スレ主

 よかったら飯でもどう?

 俺ら四人で奢る。

 助けてもらったの、俺だけじゃないし。


 26:名無しの冒険者

 オフ会?


 27:名無しの冒険者

 元・千倍パーティと専門家の会食。


 28:スレ主

 もう千倍のことは忘れてくれ。


 29:付加術師やってます

 では、明日の夕方でいかがですか。

 銀鹿亭なら、五人で座れる席があります。


 30:スレ主

 了解。

 目印どうする?


 31:付加術師やってます

 白い外套に、杖を持っていきます。

 皆さんは動画で拝見しているので、こちらから声をかけますね。


 32:名無しの冒険者

 ちゃんと恩返ししろよ。


 33:名無しの冒険者

 亡くなったことにするなよ。


 34:スレ主

 それはもうやらねえよ。



 翌日の夕方。


 俺達は四人で銀鹿亭へ向かった。


 白い外套に、杖。

 いかにも付加術師って感じの目印だな。


 神楽は、いつもより髪をきちんと結んでいた。

 ヴォイドは、襟のよれたところを何度も直していた。

 シドは、魔術の質問を紙に書いて持ってきた。


「飯の席で質問攻めはやめとけよ」

「三つだけだ」


 紙、裏まで書いてあるんだが?


 俺も少し緊張していた。

 何しろ、俺達をここまで立て直してくれた人だ。


 ちゃんと礼を言おうと思った。

 最初に、そこを間違えないようにしようと思った。


 銀鹿亭の前に、人影があった。


 白い外套。

 杖。


 クラウド。


 俺達は足を止めた。


「……あれ、お前もここで飯?」

「待ち合わせだよ」

「俺らも。ネットで知り合った人と会うんだ」

「うん」


 クラウドが笑った。


 なんで、うん?


「お前にも、あとで話したいことがあってさ」

「じゃあ、ちょうどよかった」


 クラウドは魔導板を取り出した。

 指を動かした。


 俺の魔導板が、返信を知らせて震えた。



 35:付加術師やってます

 到着しました。

 四人とも、今日はちゃんと歩けているようで安心しました。



 俺は画面を見た。

 クラウドを見た。


 神楽が、俺の肩越しに画面をのぞいた。

 ヴォイドも、シドも、のぞいた。


 クラウドは、あの日と同じ笑顔で言った。


「付加術いりますか?」


 俺達は、声を揃えた。


「おまえかよ!」

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