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死体撃ちのあとで

作者: トントン
掲載日:2026/05/08

人間にそっくりなのよね、亀って。

甲羅の下に傷つきやすい部分があるの。

そう私は、まるで亀。甲羅にこもり愚鈍に生き残る。


戦場に兵士は2人、お互いに生き残りを探す。

茂みの中で、ひたすらに待つ。

敵は、痺れを切らして物陰から飛び出してくる。


「はい、ヘッドショット。」


そう囁いた次の瞬間、敵の頭部にヒットマーカーが弾ける。

同時に、画面中央に「GAME SET」の文字。


「対戦ありがとうございました。」


画面切り替えの前に、倒れた相手の場所に何度も、弾を撃つ。

死体撃ちはマナー違反、通報対象だが、実際にペナルティがかかった事はない。

フレンドリストが空なので、他のプレイヤーに指摘される事はない。


「私のこと忘れないでね…」


暗い部屋でゲームのモニターに照らされ、少女は呟く。

目に生気はなく、連日の昼夜逆転や不規則な生活のせいか、目の下にはくまがある。


匿名掲示板を見る、コンプレックスの裏返しの様なコメント、誹謗中傷、真偽不明の情報で溢れ返っている。

言い合い、マウント取り合い。他を貶め相対的に自分を高める、ランキング争い。

もちろん勝敗は永遠に決まらず。不毛な論戦が続く。

限られた不確かな情報で、相手の心を抉るような言葉を選ぶ。


その歳でその仕事?しょうもな!

なんで?生きてて恥ずかしくないの?

頭大丈夫?


書き込んだあとため息混じりに声が出る。

「……まあ、私無職なんだけど。」


Aiに現状の愚痴を書き込む。

周りは何も気遣いがないばかりか、自分がいたことも忘れる。

最初こそ寄り添う様な回答をしてくれるが。

具体的な解決案、大学、専門学校、就職。

そんな現実的な事は面白くはない、やりたくない。

できたらやってる。

そんな文句を書いてアプリを閉じる。


思えば高校中退の原因も他人のせいだ。

美術部のろくに絵も描かない、コミュニティの広い生徒の友達付き合いで在籍している部員が、自分の作品を批評してきた。


「君みたいに人の作品を貶すゴミは、友人じゃない。人間じゃない。さよなら。」


そう言ってLINEをブロックしたら、学校コミュニティから即座に孤立。

勉強は振るわない、絵しか取り柄がないから、居づらくなり退学。


昼だが眠い。焼いておいた冷凍餃子を食べて、そのまま寝る。


夜アラームオンで起きる。

推しのVチューバーの配信が始まる。毎回見るのが日課だった。

見た目良し、声良し、ゲーム上手い。現実で唯一尊敬出来る人物だった。


時間的にゲームのデイリーミッションが残っている。

配信に集中したいが、ゲームのアイテムも諦めるわけには行かないので。同時進行だ。


起動する。チームミッション、1番苦手な条件。

普段なら適当にクリアしたらチームから離脱。残ったメンバーの事など考えない。


しかし、今日は普段と違う事が起こる。


「はいチームメイトは、ダークネスさんですね?よろしくお願いします。」


「えっ」

思わず声が出る。

自分のハンドルネームが呼ばれた!

驚愕と胸の高まりが同時に来て、変な汗をかき始める。

とても離脱できない。

推しに自分が泥塗るわけに行かない。

推しと共に戦うしかない。


装備選択を終え、出撃。


配信には自分のアバターが写っている。

推しのアバターが写るのは自分のゲーム画面のみ。何と贅沢な画面だろう。


配信は盛り上がっているようだが、とても緊張で、コメント欄など見れない。


戦いが始まる。


推しの戦いは、画面映えする正面突発タイプ。

自分の芋スナイパー戦法とは、前衛後衛でバランスは良い。


2人は難なく初動、中盤を勝ち抜き、残りチームは少ない。


ゲームとして誇張されたエフェクト。

それでも、その光はあまりに美しく、推しの戦闘を彩っていた。


剣を振るたびに閃光が走る。

敵が、一人、また一人と倒れていく。


まるで伝説の英雄に付き従う兵士のような高揚感。

自分は、今この瞬間、確かに“そこにいる”――そんな錯覚で胸が満ちていく。


その時だった。


遠くの高台。

スコープ越しに、小さな影が揺れる。


……スナイパー。


推しは気づいていない。


まずい。


あの人に、負けてほしくない。

一緒に勝ちたい。情けない思い出にしたくない。


心臓が跳ねる。

照準がぶれる。

息を止める。


当てなきゃ。


指先に力を込める。


――撃つ。


乾いた銃声。


次の瞬間、敵の頭部にヒットマーカーが弾ける。


同時に、画面中央に「GAME SET」の文字。


……勝った。


こんな時間が、自分の人生にあっただろうか。


奇跡みたいな、ほんの一瞬。

でも確かに、自分は誰かの役に立った


「ナイスカバー」

推しの声が、遅れて、耳に届いた。


配信は終わりいつも通りの時間にもどる。


興奮が残る中、SNSを開き、推しのページを見る。配信参加者への感謝が書いてある。

自分のことを言ってくれている。――そう、思えた。


推しが、イラストを募集している。

……自分は、絵が描ける。やってみてもいいかもしれない。

鉛筆を久しぶりに取り出してラフを描き始めた。


朝日が差している。

部屋が、やけに明るい。


長いこと外に出ていなかった気がする。

……散歩にでも、行こうか。


ドアノブに手をかける。

少しだけ躊躇して、それから、開けた。


光が、思っていたよりもずっと強くて、目を細める。


――こんなに外は明るかったっけ。


一歩、踏み出す。


空は青くて、少しだけ眩しい。


それでも。


……今度は、違うやり方で、残りたい。


少女の瞳は、何年かぶりに、ちゃんと前を見ていた。

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