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scene8 桜の花が咲く頃に……

【櫻瓣】


美香先生、そして洋介……3人となら面と向かって話が出来るようになった私……。だけど、外出しようと試みるとやはり同じような症状が出てしまう。お母さんが心配するといけないから表情には、出さないようにしているけど……内心『私……一生このまま外に出れないんじゃないか?』って不安が日に日に募ってきているのも事実だった。


美香先生が会話が途切れた時、さりげなく『外に出てみない?』と聞いてくる時がある。その問いに私は、黙って小さく頭を横に振る事しかできなかった。

 

そんな私に美香先生は、頷いて優しい眼差しで私の目を見つめながら言ってくれる。


「うん、大丈夫だよ、きみちゃん。ゆっくりね……」


その言葉に私も頷く。



【桜の木の下で】


私が家から出れなくなってどのくらいの月日が過ぎただろう。でもその時は、突然やってきた。


それは、吹く風は、冷たいけど頬にあたる日差しは、暖かく感じ始めていた頃だった。


週末、何時ものようにカーテンを開け、空気の入れ替えをしようと窓を開けた。外は、雲一つない青空が広がっていた。私は、その空を見上げ、手を広げながら大きく息を吸った。


『すぅぅぅぅぅ……』


「すっごい……いい天気!」


そう思った時だった。


『ビュゥオォォォ!!』


っと一陣の強い風が正面から私の部屋に吹き込んできた。


「きゃっ!」


その風に私は、顔を背け下を向いた。そして風が治まり目を開けて見ると上空の青空に、その風に乗って桜の瓣が空一面に散りばめられる様に舞っているのが見えた。とても不思議な光景だった……青く澄みきった空を桜色に染める程に舞っている瓣は、まるで、大きな大きな鳥がゆっくり羽ばたいているようにも見えた……。


「わぁぁぁ……綺麗……綺麗だぁ」


桜の瓣は、そのまま風に乗って遠くへ……ずっと遠くへ飛んで行き、やがて消えるように見えなくなってた。私は、それをずっと眺めていた。そして窓を閉めると……机の上に一片の瓣があるのに気が付いた。その瓣を指で摘みあげ、日にかざし……


「あぁ……もう春なんだなぁ……」


そう呟くと、ふと、頭の中に大学時代の事が思い浮かんだ。


それは、キャンパスの芝生広場の中央にあった大きな桜の木の下で、友達数人で集まってお花見をしながらお弁当を食べていた事。皆で丸くなって座って、他愛もないおしゃべりをしながらお弁当を食べた……楽しかったあの時……。


そんな穏やかな小春日和に、美香先生と洋介の2人が揃って訪ねて来た。美香先生の手には、大きな風呂敷で包んだ四角い何かが握られていた。


そしていつものように3人で他愛のない会話を楽しんでいた、だけどふと……その会話が途切れた。私はその時、顔をあげて2人の顔を順に見ると、いつもと変わらない会話の様こう言った。


「私、皆で公園の桜を……見に……行きたい……」


『!……………………』


それを聞いた2人は、言葉を失い私を凝視した。


「一緒に行ってくれませんか?」


黙り込んだ2人に私が哀願すると洋介は驚き、戸惑いながら……


「えっ?!ぇぇぇぇぇっ!うううん!行こう、行こうよ!!」


大きな声を上げた。


美香先生は、驚きか嬉しさの余り言葉が出なくて、無言のまま笑顔を浮かべていた。そしてその代わりに瞳には、いっぱいの涙を浮かべ、小さく何度も頷いていた。


私は、久しぶりに、本当に久しぶりに家の外に出た。玄関から扉を開けて外に出ると、青く広がる空を見上げ、大きく息を吸ってその息を空へ返した。そして先に外に出ていた美香先生が、私に手を差し出して……


「行こう! きみ先生!!」


その大きな声に私は、笑顔で小さく頷き差し伸べられた美香先生の手をしっかりと握り締め公園へ向かって歩き出始めた。洋介は、風呂敷包みを持ち、鼻歌を歌いながら歩いてる。


そして公園に並ぶ桜の木の下にシートを敷いて3人で丸くなって座り、美香先生が持ってきてくれた風呂敷包みを解いた。艶々の宇和島塗の3段の重箱、その一番上の蓋を私に開けさせてくれた。その1段目の中身は、美香先生手作りの色鮮やかなちらし寿司だった。そして2段目、3段目には、食べ切れ無い位のご馳走がぎっしりと詰まっていた。


「うわぁ……美味しそう!」


美香先生が手際よく紙皿に取り分けてくれた後、皆で手を合わせ挨拶をする。


「それでは……いただきまぁす!」


穏やかな青空の下で食べるご馳走は、格別に美味しかった!



【皆……ありがとう……】


その日を境にして私は、少しの時間ならで1人で外出できるようになった。


暫くは、3人で行った公園、そしてその先にある河川敷、そして商店街と少しずつその距離を伸ばしながら散歩を楽しんだ。


時々散歩の途中にある商店に入ろうとしたけどまだ人と接するには、まだかなりの抵抗があった。


そこでお母さんや美香先生、時には、お父さんにも協力してもらい、複数人で買い物に行く事から始めた。


最初は、3人から始めて次に2人、徐々に付き添いを減らしていき、最終的には、1人でもお店に入って買い物が出来るようになれた。


振り返りたくはないけど、保育園での辛く悲しかった日々。あの時から始まった私の人生初の挫折。それから幾月……お父さん、お母さんそして美香先生と洋介、みんなの協力と助けがあって、まだ完全じゃないけれどやっと、やっと悪夢の様な生活から脱しつつある。皆には、感謝しきれない位感謝している。


皆……本当に、本当にありがとう。


scene9へ……続きます! 頑張れ私!

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