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scene4 予感

実習でとても優しかった先生達。でもいざ、現場に入ってみると何処か園内の雰囲気が最初の印象と違う。厳しい言葉遣い、自分の身の回りの事ができない子どもに、ため息をつく先生達。私がイメージしていた千草保育園の雰囲気とは、かけ離れていた園内の現実だった。


私は0、1歳児クラスの1歳児、すみれ組の担任となった。クラス担任は、私を含めて4人。その先生達をまとめる主担任の先生は、須田美和先生。実習の時にとても優しく、親切に指導して頂いた先生だった。だから、新卒1年目で不安だったけど須田美和先生と同じクラスで担任を任された事は、自分にとってかなり心強かった。


でも……実習の時にはわからなかったけど、日頃の美和先生の保育は、私が実習の時に見せてくれていた保育とは、ちょっと違っていた。子どもに対しての言葉かけが乱暴で、可愛がる子どもとそうじゃない子どもとの関わり方があからさまに違ったりしていて……正直、1年目の私が言う事じゃないけど、なんか……優しくない。


しかも同じクラスの先生達は、美和先生と仲が良いらしく、それに同調してしまう事が多々見られて、子ども達が何となくクラスの先生達に懐いていないように感じていた。この園では、クラスの子どもを何人かのグループに分け、週替わりで担当グループを持ち回りしていたのだけどそんな事があるせいか他の先生が担当している子どもが、まだクラスの子ども達の名前も覚えきれていない、新任の私を頼ってくる事が多々見られるようになっていた。


その度に、先生達の冷たい視線が私に向けられているような感じがしていた。自分に優しくしてくれない先生を、子ども達は、見て分かっている。大人もそうだけど愛のない人は、出来るだけ避けたい……子どもは、気持ちのいい程真っ直ぐで正直だ。その気持ちを受け止めてあげたい私。だけど、そう思いつつも……


「ほらほら、美和先生がパンツ持って待ってるよぉ!」

周りを気にしない様にさり気なく且つ先生達の機嫌を損なわない様に、気を遣いながら子ども達に声掛けをするようしていた。


だけども嫌な予感は現実になろうとしていた。次第に先生達の私に対する態度が明らかに変わり始めたのだ。それは、まだ就職して間もない時だった。



【只々辛い日々】


週の始まり月曜日。その週私は、排泄の担当だった。なので紙パンツの在庫数を確認する為、物置で棚を開きその準備をしていると、同じクラス担当の菜美先生が……


「それ、先週末にやったから」


いつの間にか、後ろに立っていた菜美先生。腕組をしたまま、無表情で私に向けて冷たく言い放った。


私は『えっ?』と思いつつも、直ぐにお礼の言葉を返した。


「すみません菜美先生、お世話になりました」


そう言うと私を『キッ!』と睨み、


「神先生! そこは『お世話になりました』じゃなくて『有り難うございました』でしょ!」

と強い口調で怒鳴る様に言われてしまった。


「は……はい、有り難うございました……」

私は、その声に驚きながらも直ぐに言い直した。


そして私が立案した日案の活動計画を、急に変更させられ、子ども達の前でしどろもどろする私を後から見ながらコソコソと話していたりと保育に支障をきたすこともあった。他にも休憩時間を飛ばされたり、申し送りの内容を私だけ知らなかったり……日に日にそれはエスカレートして行くように感じていた。


それでも私は『私はかみ先生みたいになるんだ』と自分に言い聞かせ、歯を食いしばって頑張った。何より大好きな子ども達が私の名前を呼びながら、駆け寄ってきてくれることがすごく励みになった。


(私の要領が悪いから……1年、とにかく1年頑張れば今よりもっと保育士として成長できているし、そうなれば他の先生達の、足手まといにならなくなる。先生達の期待に応えないと……)


そう自分に言い聞かせた。


そんな辛い毎日を送っていたけど給食の先生、管理栄養士の美香先生は、私の事を気にかけてくれていた。毎日フラフラだった私に気がけて声を掛けてくれて、休憩時間には、こっそり甘いチョコレートや手作りのクッキーをくれたりした。


「ほら、きみ先生、チョコだよ! 甘いもの食べて頑張れ!」


「ありがとう……ございます」

貰ったお菓子を食べながら、涙を流した日もあった。


そして、主任も新任の私の事を気にかけてくれていた。職員室に行くといつも優しい言葉をかけてくれていた。


「先生、無理しないで、何かあったら私にでもいいからなんでも相談してね! 先生が頑張っている事は、みんな知っているから安心して子どもに関わってあげてね!」


主任のこの言葉に、私は随分救われた。この優しさがあったから私は、次の日も、その次の日も頑張れた。私に何かあったら主任が助けてくれる……その時は……そう思っていた。


ある朝、いつもの様に出勤して始業前の事務処理をする為に職員室のドアをノックして入った。


『コンコン……』


「失礼します……」


職員室に入るとそこには、園長先生、主任、美和先生が話をしていた。だけど何故か、私が入ったと同時に3人が一斉に私の方へ顔を向け、私と気づいた途端に気まずそうな雰囲気になって顔を背け黙り込んでしまった。


「お、おはようございます……」


(会話を止めてしまった、何か悪い事したな……)


そう思いつつささっと事務処理を済ませた私は……


「失礼します……」


そう言って一礼をし職員室を出た。


しかし……この集りが、私にとって人生最悪の日が始まる前の序章だったとは……知る由もなかった。


次の日の午前の保育中に主任が私を訪ねて保育室にきた。


「神先生、園長先生から話があるそうだから、休憩時間に園長室に来てもらってもいいかな?」


主任から告げられた園長先生からの突然の呼び出し。私は、話を聞いてちょっとびっくりしたけど『はい!』と返事を返した。


(園長先生からの話って何だろう?)


そう考えながら午前の保育が終わりエプロンを脱ぎ、必要なのか分からなかったけど筆記用具を持ち、職員室で待つ主任の所へ行った。


園長室へ向かう途中、ちょっと不安だった私は、主任にそれとなく聞いてみた。


「あのぉ、園長先生からの話って……何でしょうか?」


そう聞くと……


「さぁ…私も聞いてないから分からないわ……」


そう、なんか冷たく言い返された。


そして主任と一緒に園長室へ入る。


「失礼します……」


園長室に入ると、中央の大きなソファに園長先生が座っていた。私は、応接テーブルをはさんで向かいのソファへ座るように促された。


主任は、座らずに園長先生の後ろに周って立ったままだ。その時点で二人の顔が険しいのが気になった。


園長先生は、子ども達だけではなく先生達にもとても優しく接してくれる方だった。その園長先生が話の冒頭、大きくため息をついた、その時、私は内心凄く嫌な予感がした。


そして園長先生が口を開き話し始めた。


「君子先生……貴方には期待してた分、非常に残念です……」


私は、何を言われているのか分からなかったが、その言葉だけで頭の中が真っ白になった。その話の内容は、もう思い出したくもない……そんな内容だった。


園長曰く、私の保育は、ガサツで気付きが足りない。保育士としての業務が成り立っていないし子どもをよく見ていない……そういう内容だった。


勤務してまだ半年余りしか経っていないのに……確かにまだクラスの仕事を完璧に覚えている訳じゃない、分からない事をクラスの先生に聞く事だってある。気付きも足りないかもしれない、それは認める。だけど……子ども達に対してガサツで思いやりがなくて冷たい態度をとってるだなんて……保育と言う保育をやらせてもらってないのに……園長先生からの突然の駄目出しに話の途中から放心状態になった私。その声がまったく耳に聞こえなくなった。


そして私を助けてくれるはずの主任は、園長の話に同調するように何度も……何度も何度も、大きく頷いていた。


『主任……どうして何も言ってくれないんですか……私の事、頑張ってるって……ちゃんと見てるからって言ってくれたじゃないですか?』


私は悲しくなった。


そして話の結論は、私をクラス担任から外し『フリー保育士を担当して下さい』という事だった。


フリー保育士とは、保育補助として全クラス手が足りないクラスに入ったり事務補助や園内環境整備が主な仕事になる。前年度フリー担当だった先生が高齢で体調を崩し、退職された為、今年度は、フリー保育士担当の先生が居なかった。


しかしフリー保育士は、年度当初の職員会議で、職員全員で補っていくと決まっていたはず……。フリーになるという事は、子ども達と関わる時間が少なくなる、当然ピアノを弾いて一緒に歌ったり踊ったり遊んだり……殆どできなくなってしまう。


年度途中で、しかもまだ半年も経っていないのに……私は、言わば戦力外宣告を受け、担任を外されてしまった。


私の心の中に、悲しみと怒りが入り混じった感情が沸々と湧き上がる。


(半年で私の何が分かったの? 私の何ががさつなの? 私の何処がガサツなの?! 誰か教えてっ! 私は……優しくて……笑顔が素敵な……先生になるって思っていたのに……そんな私の保育が……ガサツだなんて……かみ先……生)



scene5へ……私……もう駄目かもしれない……


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