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scene30 加藤家の家族

真咲さんとは、ここで別れ、私は、気持ちを切り替える様に姿勢を正し、彼のご両親に会う為の心の準備をした。


「あれ? 鍵がない、鍵……鍵はっと……」


彼がバッグの中を探していると中玄関の明かりが点き『ガチャッ』とドアが開いた。


そこから出てこられたのは、白のタンクトップに緑色の短パン姿、彼のお父さんだった。その容姿は、白髪交じりで短い髪の真ん中分け、高身長で無精髭が似合うイケてるおじさんって感じだ。


その格好を見た彼は、声を荒げ、言い放った……


「父さんなんだよその格好はっ! それに髭! 今日女の子の友達が泊まりに来るって連絡したろ!」


「ああっ……そうだったね。こんにちは、えっとぉ……」


「は、初めまして、熊本から来ました神君子と申します、よろしくお願いします……」


見かけによらず意外とおっとりしているお父さんだ。そして奥からエプロン姿のお母さんが小走りで出て来られた。


「まぁまぁ遠いところようこそいらっしゃいました、千隼の母です」


「じ、神君子です。よろしくお願い致します、お母さん……」


「君子さん、どうぞよろしくね。ささっ、狭いところだけど上って!」


「お邪魔します……」


玄関に入り靴を揃え立ち上がると廊下を進み奥の和室へと案内された。和室のテーブルには、お寿司やお刺身等々かなりのご馳走が用意されていた。私は、緊張で顔も体も心までガッチガチ。彼はと言うと、ラフな部屋着に着替えて私の隣に座った。そして……


「きみちゃん、そんなに緊張しないで、楽にしてよ!」


「うん、ありがとう」


と言いつつも……


(そんな事言ったってこの状況で緊張しない方がおかしいでしょ! 真咲さんのせいで心の準備も出来ていなかったし!)

 

心の中で絶叫した。


次に彼は、立ち上がると襖を開けそこから2階に向かって誰かの名前を叫んだ。


「さくらぁ、つばきぃ! お客さん来たよっ!」


その声に反応するように……


『ガチャッ!バタンッ!ドタドタドタドタドタ!』


上から騒がしく誰かが降りてきた。


そして『ガラガラガラッ!』と襖から勢いよく飛び出してきたのは、細身で長い髪を後ろに括った同じ顔の女の子2人、双子の姉妹だ。彼と同じで目鼻立ちがはっきりしている美人姉妹だ。


「ほら! 2人ともご挨拶して!」


「加藤つばき、4年生です! よろしくお願いします!」


「あぁぁっ! 私がお姉ちゃんだから先に言うって約束したじゃん! ずるいぃ!」


そう言って小さな子どものように地団駄を踏む。


「なんで? いいじゃん」


(プッ…どっかで聞いた事のある台詞……)


納得いかない姉、二人の喧嘩が始まりそうになるが、そこに彼が割って入り一喝する。


「こら! お客さんの前で喧嘩は止めろ!」


「加藤……さくらです……4年生ですよろしくお願いします……」


ふてくされて挨拶をした姉(笑)、彼が兄らしく二人の喧嘩を宥めた。


それから楽しい食事会が始まった。お父さんは無口な人で一人黙々と食べたり飲んだりしている。時々私に話しかけてくれたけど会話は『そうですか……』で終わり全く続かない(汗)


お母さんは、とっても気さくで明るい方。どらさんを細くして村田さんと足して内藤さんで割ったような感じの人だ。双子の姉妹も口喧嘩が多いけど、とても仲がよさそう。

 

そして食事も随分進んでお互い打ち解け合ってきた頃、さくらちゃんが私に問いかけてきた。


「ねぇ、きみ姉ちゃん! きみ姉ちゃんは、保育園の先生だったんでしょ? お兄ちゃんから聞いたんだ!」


私は、ちょっとドキッとしたけど……


「う、うん、そうよ」


と、答えた。


「うわぁすごい! 私ねっ将来は、保育園の先生になるのが夢なの! 保育園の時のね、担任だった先生みたいに可愛くて、優しい先生になるって決めているんだ!」


私は、さくらちゃんの話を聞いてちょっと……胸が痛んだ。


(私は……その夢を叶える事が出来なかった。でも彼と出会う前の私だったら……さくらちゃんの言葉を聞いただけで、この場で泣き出してしまっていたのかもしれないなぁ……)


でもこの時私は、さくらちゃんの目を見つめながらこうアドバイスをした。


「保育園の先生は、とっても素敵なお仕事よ。大好きな子ども達と一緒に遊んだり歌を歌ったり時には、怒ったり一緒に泣いたり……さくらちゃん、子ども、好き?」


「うん大好き!」


「じゃぁ大丈夫! きっとなれる、素敵な先生に!」


そう言いながら頭を撫でてあげると


「やったぁぁぁ!」


と大喜びするさくらちゃん。でも……


(私がこんな綺麗事……言う資格は、ないのに……)


ちょっと心が痛んだ。そう思っていると……


「私はね、幼稚園の先生になるんだもん!」


つばきちゃんが負けじと言い返し、皆で大笑い。


食事会が終わり皆で後片付けを終わらせると彼が来て……


「きみちゃん、僕達の部屋に行かない?」


そう言って私を自分の部屋に誘ってきた。


(え……僕達の……部屋? !!! ぼぼぼ僕たたた達のへへへへ部屋って、ちちち千隼の部屋?!)


「おいで!」


そう考える間もなく彼は、私の手を握り階段の方へ引っ張った。


階段を昇る私は……


(あっ……まま、待って心の準備がぁ、心の準備がぁぁぁ!)


『ガチャッ……』


「あっ、来た来たぁ! きみねぇちゃん!」


「えっ……」


彼の部屋は、姉妹と同じ部屋だった……。


(僕達って……こういう事ね……)


また……やってしまった……私の早とちり。がっかりしたような……ほっとしたような……複雑な心境。


「きみ姉ちゃん、ここ座って!」


「あ、ありがとう……」


つばきちゃんに促され白いフカフカしたソファーに座ると……ふと、目の前のローボードの上に置いてあるキラキラッと輝く物に視線が行った。


それは、クリスタルの様に透き通ったとても綺麗な写真立て、その中に飾られた一枚の紙。私は、徐ろに近づいてそれを覗き込むように腰を屈めた。


そう……これは、あの時……私がその辺にあったメモ用紙に雑に書いて彼に渡した……私の家電の電話番号が書かれた紙。『あんな紙切れすぐに捨てちゃいますよ』って言った広告紙を切っただけのメモ用紙。


私は、その写真立てを落とさないようにしっかり手に取り呟いた。


「これ……あの時の……」


「あっ、それねきみちゃんが家電の番号を書いてくれたメモ用紙。これを貰った時の嬉しさが忘れられなくてさ、飾ったんだよ。本当はね、もっといい写真立てを買いに行きたいんだけど時間が……なくてね。押し入れの奥に直し込んでたベストなんとか賞で貰ったやつの中身を捨ててこれを入れたんだ」


「それ、お兄ちゃんの宝物だよ!」


「これが?……宝物……?」


「お兄ちゃんそれを見ながら『きみちゃん、きみちゃんに電話!』って毎日の様に言ってさっ!」


「そうそう! 『明日会いに行けるかなぁ! 早く会いたい、きみちゃん!』って毎日の様に言ってたんだから!」


「馬鹿っ!! つばき、さくらっ!! 余計な事言うなっ!」


顔を赤らめ姉妹を叱責する彼……


(あの時……私……こんな紙切れすぐに捨てるって……彼の気持ちも考えないで言っちゃった……。なのに、こんなに大事にしてくれてるなんて……私って本当に……馬鹿……)


私は、嬉しさと自分に対する情けなさで押しつぶされそうになった、そこに……


「つばきっ さくらっ! お風呂にはいりなさいっ!」


下からお母さんの大きな声が……その声のお陰で私は、何とか気持ちを戻す事が出来た。


「はぁぁぁい! ねぇきみ姉ちゃん、一緒にお風呂入ろうよっ!」


「入ろおぉ入ろおぉぉぉ! お風呂ぉぉぉ!!」


燥ぐ2人に手を引かれ、3人でお風呂に向かった。


お風呂から上がるとテーブルには、彼が食後のりんごとアイスを用意してくれていた。それを皆で頂いた後、2人が私の手を引いて再び自分達の部屋へ案内した。そこにあった立派な電子ピアノの前に連れて行かれ……


「きみお姉ちゃん、ほらっピアノ! なんか弾いて聴かせてよっ!」


そう言いながら2人に椅子に座らされ私を中心にして3人で座った。


「じゃぁ、私が弾くから一緒に歌おっか!」


私は、鍵盤に指を乗せると何を弾こうか考えた。


「よしっ!」


と、気合を入れ、最初は『うれしいひなまつり』『うみ』『どんぐりコロコロ』続いて『あわてん坊のサンタクロース』と四季で曲を選び5曲目には、ここが東京と言う事で瀧廉太郎の『花』を弾いた。


「じゃぁ次はねぇ『ポロロン……ポロン……』私が大好きな曲ね……」


軽く鍵盤をつま弾きながら続けて『カノン』(とし子監修)を弾き始める……


この曲を弾くといつも頭の中には、笑顔のかみ先生が浮かんで来る……。


弾き終わると2人が目を輝かせながら精一杯の拍手を送ってくれた。


「すごぉぉい! きみ姉ちゃんすごぉぉい!」


そう言って『弾き方教えて!』と2人が腕にしがみついてきたのでここでピアノのレッスンを始める。その練習の甲斐あって最後には、連弾で『海が見える街』を弾けるようになった(2人とも覚えが早い!)


彼は、後ろのベッドに腰かけドラマの台本を眺めながら、レッスンする私達を見て微笑んでいた。


夜も更けてそろそろ就寝時間。私は、和室にお布団が用意されていた。化粧を落として着替えを済ませ暫くすると……


「コンコン……」


襖を叩く音が……『はい』と返事をすると『スススッ……』と開いたそこから、さくらちゃんとつばきちゃんが顔を出した……そして申し訳なさそうに2人同時に……


「きみ姉ちゃん、一緒に寝ていい?」


と、聞いてきたので……


「うん! いいよ」


そう返すと……


「やった!」


2人は、一瞬姿が見えなくなると足元に置いていた布団を抱えて入ってきた。


と、いう事で私が真ん中になり3人で川の字になった。そして2人が『これ読んで!』と持ってきた絵本『三匹のやぎのがらがらどん』と『ねないこだれだ』の読み聞かせを始めた。そして2人は、2冊目の途中でそろって寝入った。


私はそっと枕もとの電気スタンドを消た。2人の寝顔を覗き込む私……そしてお布団に入る。さくらちゃん、つばきちゃんに挟まれてとても幸せな気持ち……今日1日、短い時間だったけどまるで保育士のようにピアノを弾いて絵本を読んで……とても楽しかった。 


(やっぱり私……もう一度保育士に戻りたい。あんなに辛い思いをしたけれど……今なら……また保育士に戻る事が出来るかもしれない……今なら……そう今なら…………かみ……先生……)


scene31へ……加藤家……とっても温かい家族だな……

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