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scene3 洋介の苦悩

大学4年生の中期になると私の周りでも一人また一人と就職先が決まっていく。


私の夢もいよいよ、現実見を帯びてきた。友達との会話も就職先を『幼稚園』『保育園』『児童施設』と、どの職種を希望するかが中心となっていた。大学の就職課には、沢山の求人募集のファイルが並べてあり時間がある時は、こまめに見に行くようにしていた。


そんなある日の昼休みの事、学校の芝生広場で友達数人で昼食を食べていると、向こうから洋介が歩いて来ているのが見える。ちょっと俯き加減で腕を組み、何処となく表情も暗い。そして私達のそばまで来ると俯いたまま無言で私の隣に無言でどかっと座った。その表情は険しく、暫く無言のまま一点を見つめ『はぁぁぁ……』っと大きなため息をついた後、ようやく口を開きボソボソッっと問いかけてきた。


「……きみちゃんはさぁ……幼稚園と保育園……どっちを考えてるの?」


その問いに私は、間髪を入れずに胸を張って偉そうに答えた。


「えっへんっ! 私はもちろん保育園よ! そう言う洋介は、まだ決めてないの?」


はしゃぐ私は、俯く洋介の顔を覗き込みながら問いかけた。するとその問いに表情が益々険しくなった彼。虫の鳴くような小さい声で……


「僕は……迷ってるんだ。皆は、どっちでもいいんじゃないって言ってるけど。僕が幼稚園の実習に行ったの知ってる?」


「知ってるよ、その幼稚園の園長先生から気に入られて『ぜひうちに来てほしい』って声を掛けていただいているんでしょ? 良かったじゃん就職決まって!」


「そうなんだ! そうなん……だけど……園長先生に気に入ってもらえたのは嬉しいんだけどさぁ……」


そう言いつつ益々項垂れる洋介。


「じゃぁいいじゃん! そこに決めれば!」


「そう! 決めればいいんだよっ! その園に実習に行ってさっ!子ども達は、可愛いいし、先生達も優しいし、園舎も綺麗だし、福利厚生も申し分ないんだ!…………だけど、だけどなんていうか……自分が感じただけかもしれないけどその幼稚園の『時間ないから早くして!』って子ども達を急がせる雰囲気がね……なんか僕は合ってないのかなぁって。僕は、子ども達とクタクタになるまでいっぱい遊んで、ゆっくり楽しく給食を食べて、絵本を読み聞かせながらお迎えを待って『また明日ね』ってバイバイして……もっと沢山子どもと関わりたいと思ったんだ……」


いつも陽気な洋介が、何時になく暗い顔で話しをするのでちょっと心配した。その園々で違いがあるかもしれないけど確かに幼稚園では、限られた時間の中で活動をするというのは、有るかもしれない。私も幼稚園の実習に行って洋介と似た思いをしたのも事実だった。


結局いいアドバイスが出来ないまま、洋介はその場から立ち去っていった。私に思いの丈をぶつけたせいか最後には、笑顔を見せていたけど大事な将来の選択を私にするなんて……洋介と別れた後、なんか変な事を言わなかったかとすごく心配になった。



【私の選択】


洋介の事も、心配だったけどそれ以上に自分の事もしっかり考えなければいけなかった。私の夢『優しくて素敵な先生になる』その夢が叶うのもあと少しだ。自分が本当にかみ先生のようになれるのか分からないけど、とにかくもうやるしかない、前進あるのみよ! 


そして大学四年生の秋口、いよいよ私も就職する保育園を決める時が来た。就職課に届いている求人情報を見ながら気になるいくつかの園を選び、その園の保育方針や園のホームページ等の情報収集を行った。その他にも家から通えるか、車の免許を持ってない私は、駅から近いとか交通手段等も考慮しなければいけなかった。こうしてみると条件がいいなと思う園は、沢山あったけど、いざ決めるとなると何かがネックとなり就職を希望する園は、結構少なかった


そして何度も担任の先生だけではなく両親とも相談した結果、3年生の時に実習でお世話になった、家から2駅ほど離れた街にある『千草保育園』に決めた。


この保育園に就職を決めた理由は、広い園庭にまだ建って間もないきれいな園舎、そして何より音楽を保育に取り入れている事だった。子どもの頃からずっとピアノを続けて、中学校から吹奏楽部で活動しピアノを弾くのが大好きな私。ここならその経験を保育に活かせると思ったから。そして実習でお世話になった時、先生達がとても優しく子ども達と接しておられて、私にも同じように優しく指導して頂いたのも選んだ理由の一つだった。


(PS……後日談だけど、結局園長の誘いを断れずその園に就職した洋介は、園になじめず僅か1年で退職したらしい)                              


scene4へ……続くよ!

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