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scene28 酒乱

【パッヘルベルのカノン】


そして試写会が終わり、真咲さんが席まで迎えに来てくれた。この後、同じ階の別会場で行われる完成披露感謝パーティへ真咲さんのエスコートで向かった。移動中、真咲さんが私に試写で見た映画について聞いてきた。


「映画はいかがでしたか? 君子さんの感想が聞きたいです。」


「千隼さんが……私の知っている彼と、全く別人に見えてとてもカッコよかったです」


そう答えた。本当は、もっともっと感じた事や思った事がある。真咲さんには、私の想いを聞いて欲しかった。だけど……話してしまったら自分の決心が揺らいでしまうのが怖くてとても話せない。


パーティ会場に到着すると、沢山の人。男の人、女の人も皆着飾っていてカッコいいしとても……綺麗。何だか場違いな私……。


「あ……っ……」


その雰囲気にたじろいでしまった私の足が思わず止まる。すると前を歩いていた真咲さんが立ち止まった私に気付き振り向きながら……


「ふっ……君子さん……。貴方も皆様方と同じように綺麗ですよ、さぁ……」


と、ほほ笑みつつ手を差し伸べてくれた。


(きゃぁぁぁぁぁぁ!! かっこよかぁ! よか男! やっぱこん人かっこよすぎばい! 顔ばみきらんっ!)


何度顔を赤くすればいいのか、自分でもはっきり分かる程、真っ赤になった顔を背けながら手を差し出した私。その手を優しく包むように握ってくれた真咲さん。


(惚れるわぁ……)



【噂話その2】


皆周りに誰も知り合いがいない私を心配してか、会場内では、真咲さんが私の傍に付いてくれていた。だけどそこまで迷惑を掛けてはいけないと思った私は……


「真咲さん、あのぉ……私一人でも大丈夫です」


そう言うと……


「はい、それでは、私はこれで。何かありましたらスタッフに遠慮なくお申し付け下さい」


そう言って人の群れの中に紛れていった真咲さん。だけど、離れた所から多分私から自分が見える位置に立って見守ってくれていた。


食事は、バイキングの立食形式で、各テーブルの大きなお皿に沢山のお料理があり、好きなものを好きなだけ食べられた。私が今まで食べた事がないような素晴らしいお料理ばかり! しかも超美味しい!!


誰とも話さず、ひたすら食べ歩き、ちょっと食べ過ぎた感があったので会場の後ろに用意してあった椅子に『ふうぅぅ……』と言って腰かけた。すると私が座っている前のテーブルにお皿を持った3人の煌びやかな年配の女性が近づいて来て、料理を取りながらひそひそと話を始めた。


私は聞きたくなかったけど、そのひそひそ声が若干大きいので自然と耳に入ってくる。


「ちょっと聞いた? 千隼、明華と別れたんだってさ!」


(明華……坂東明華さん? 彼の事を……話してる?)


「聞いた聞いた! でもみりあと別れて付き合い始めたばかりだったんでしょぉ?」


「でさぁ……次に狙っているのは、OKプロの貴戸佐奈って話らしいよ!」


「えぇ? でも私が聞いたのはその娘じゃなくて……」


「ちょっと売れてるからって調子に乗ってんじゃ……」


そんな話をこれ以上聞きたくなかった私は、立ち上がりその場を離れた。人の噂を鵜吞みにするつもりはないけれど……こんな噂話を聞くとまた心が乱れてしまう……。


(さっきの話ホントかなぁ……いや、嘘に決まってる。だって貴子社長が言ってたもん『この世界、お互い足の引っ張り合い』だって……そんな噂を流して彼を貶めようとしているんだ)


只の噂……そう分かっていても、やっぱり考えてしまう。そして余りにも深く考えすぎてしまったのか、私の心の奥底から徐々にイライラとした感情が沸々と湧いてきた。


(みんな好き勝手言ってるけど彼は、そんな人じゃない! 多分……)


そうブツブツと呟きながら歩いていると、ふと、目に入った色とりどりのグラスが並べられたテーブル。それは、カクテルが注がれたグラスで、テーブル一杯に咲き乱れる花の様にセッティングされてとても綺麗だ。


「えっ何これ?! カクテル? すっごい綺麗!」


私は、そこから一つ手に取って目の前に翳すとイライラとした気持ちを払拭する様に意を決して……


「くっそぉっ、飲んでやる!」


それをグイッと飲み干した。


「なにこれ!? 甘くてすっごくおいしい!」


思ってた以上に美味しかったその一杯のカクテル。ジュースみたいに甘くてトロトロッとした飲み心地が気持ちいい! それから調子に乗って次々に手に取るとグイグイっと一気に飲み干した。


しかし! お酒が全く飲めない私が、カクテルなんて物を一気に何杯も飲んでどうにかならない訳がない。徐々に酔いが回り、なんていうか気持ちがいいというか、気が大きくなったというか……今まで経験した事がない感覚に気持ちが高ぶってしまった。


そして何故か彼を探し始めた私。


「千隼どこなのぉぉ? 千隼どこぉ?」


(何かとってもいい気持ち、こんなの初めて……)


この時の私は、まだ意識がしっかりしていた方だった……と思う。

 

場内をふらふらと彼を探して彷徨っていると慣れないヒールにふらついた拍子に何かに手をついた。それは、スタインウェイのグランドピアノだった。見ると鍵盤蓋と屋根が開いている。


「おぉぉ! ピアノだぁ……おっきなピアノ!」


(そういえばあの事以来、ピアノの前に立つ事もできなくなってたなぁ)


そう独り言を言いながら鍵盤に指を置く……


『ポロォン……ポロロォン』


(綺麗な音色だなぁ……)


私は、徐に椅子を引き出し、座って両手を鍵盤に添え目を閉じた。


(そう……私は、ピアノを弾くのが……大好きだった)


そして私は、その音色を確かめるようにかみ先生が大好きと言っていた曲『ヨハン・クリストフ・パッヘルベルのカノン』(仁科とし子教授編曲版)を弾き始めた。


(自慢じゃないけど、とし子編曲版でも今の私なら楽譜を見なくても楽々弾けるぜっ! それぐらい練習したんだからっ!)


『ポロン……ポロロロン……』


目を閉じてピアノを奏していると、保育園の頃の映像がまるで映画のスクリーンを見るように頭の中を流れて行く。園庭を走る私達を笑顔で追いかけるかみ先生……ピアノを弾きながら歌うかみ先生……。私は、体をゆっくり左右に揺らしながら弾き続ける、すると閉じた瞼の中から自然と涙が溢れ出てくる。


(かみ先生…………私も先生みたいに……ピアノを上手に弾けるようになったよ……かみ先生……)


『ポロン……ポロン……』


弾き終わり満足げにゆっくりと顔を上げる……すると……


『ワアァァァァァァァァァァッ!!! パチパチパチパチパチパチパチ!! すごい!! うまいなぁ!! 誰あの子?』


ものすごい歓声と拍手。それに驚いいて何事かと目を開けると、ピアノの周りに沢山の人が集まっていた。その歓声と拍手は、私に向けられたものだ。


(し……ししまった! 酔った勢いで調子に乗っちゃった!)


もう恥ずかし過ぎて、酔って赤い顔が益々真っ赤っかに! あたふたしながら急いで立ち上がり、さっとお辞儀をして立ち去ろうとして一歩踏み出したその時、足がふらつき後ろ向きに倒れた。


「きゃっ?!」


酔った私は、もう態勢を立て直す気力もなかった。


(あぁぁぁ……だめだぁ……倒れるぅぅぅ)


『ドスッ!』


すると誰かが私を抱きかかえるように下から受け止めてくれた。それは、彼、加藤千隼さんだった。そして彼は、受け止めた私の目を見つめて……


「きみちゃん……」


と呟き顔を近づけてきた!


(えっ?!ままま待ってぇぇ!こんなに沢山、人!人!今やばいってぇ!)


避けようにも体に力が入らない! そう思った瞬間、真咲さんが間に割って入り、風のように彼から私を奪ってその場から立ち去った。そしてそのまま地下駐車場の車へと連れていかれた。


酔ってふらふらの私は、真咲さんに車の後部座席に押し込まれ、顕わな格好でそのまま座席に横たわり……


「す……すみません……真咲さん、ありがとうございました……」


と、お礼を言った。すると真咲さんは若干お怒り気味の口調で……


「いいえっ! これも仕事ですから! しかしお酒を飲めない方があのような飲み方をしてはいけません!」


(見られてたんだ……)


「はぁい……気をつけまぁぁす……」


そう返した。続けて……


「ふふっ……それと周りの雑音にも、惑わされてはいけませんよ」


(そこまで見られておまけに見透かされていた。超恥ずかしいぃ!)


もう真咲さんと言い貴子社長と言い……誰も彼も私の胸の内が分かっているようで、ちょっとイラつきながら言い返した。


「なんか皆さん、まるで私の心の声が聞こえているようで恐いんですけどぉぉ!!」


そう言うと真咲さんは声を上げて『ハハハハハッ!』と高笑いした。


覚えているのはそこまで……その後、完全に酔いが回ってしまった私は、ホテルへ帰ったけど、どうやって部屋に帰ったのか、帰って何をしたのか全く覚えていない。


所々覚えているのはぁ、確か部屋に連れていかれ……着ている物を全部脱がされ……お風呂に連れていかれてぇぇ……。朝起きたらルームウェアを着ていたからぁ……真咲さんに着替えさせられたと思う。そして……なんか真咲さんに絡んでしまったような……そんな記憶がうっすらと……。しかし何を言ったのか覚えていない。でも真咲さんに相当手間を取らせてしまったのは確かだった。以後、お酒の飲み方には気を付けます。


真咲さん、ごめんなさい。



scene29へ……あ…頭痛ぁぁい……これが二日酔い?

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