scene23 上妻真咲 来店
【告白の後】
海へのドライブデートから随分と月日が経った。彼が帰り際に言った通り、ここに来るどころか電話も掛かって来ない、それほど忙しい日々を送っているのだろう。あの日、別れ際に彼が言ってくれたあの言葉……とても嬉しかった。嬉しかったけどやっぱり私とは、何もかもが違う、違いすぎる!
(私がっ?! この私が人気絶頂のイケメン俳優と付き合う?! 有り得ない、有り得ないでしょ! だって私は、この前まで引き篭もって……ブツブツブツ)
「きみちゃん、どうしたんだい? 眉間にシワなんか寄せながらブツブツ独り言って。なにかあったのかい?」
「えっ? なんか言ってました? ハハッ……変だなぁ、何にもありませんよ、なぁぁんもない、ハハハハハッ!」
(いかんいかん、心の声が口に出てしまう。考えれば考えるほど迷いが出てくる、考えるな私!)
そして私は、余計な事を考えないように仕事に集中した。そんな私を見て……
「クスクス……いや……何も変じゃないよ、きみちゃん……」
薄ら笑いをしながらどらさんが言った。
【超絶イケメンが来た!】
いつものお昼時、お店の中は、スーツを着たサラリーマンさんやOLさん、作業服を着た人達でお店の中は、商売繁盛でごった返している。今日のシフトは、どらさん、村田さんと私が厨房担当でひっきりなしにくる注文をフル回転でさばいていた。
そしてお昼の混雑時間を過ぎて、ようやく交代で休憩に入る私達。昼食を済ませ和室でくつろいでいるとカウンター係の内藤さんから……
「きみちゃぁん、お客様よ!」
「えっ? はぁぁぁい!」
(私にお客? 誰だろう?)
そう思いながら表に出て行くとカウンターの前に紺のスーツに身を包んだ男性が背を向け立っていた。
「おまたせしました!」
私が声を掛けると『くるっ!』とかっこ良く振り向いたその人、細身のスーツに真っ白いシャツ、紺に白のドッド柄のネクタイ、すらっとした長い脚で身の丈170センチぐらいかな。髪型は短めでの金髪、例えるのならぁ……そう、宝塚の男役のような超絶イケメン! 言わずもがなこの方もこの近辺では絶対お見掛けする事がないようなオーラを醸し出していた。
(出たぁ……またあれかぁ?)
過去の経験を思い出した私の顔がヒクヒクっと引きつる。するとその男性は、軽く会釈をし、徐に胸ポケットから小さいケースを取り出し、それから名刺を一枚取り出すと私に差し出した。一つ一つの行動が何処か、様になってかっこいい。
「初めまして。私、ライジンサンプロダクション統括マネージャー、兼社長秘書を務めさせていただいております上妻真咲と申します、以後お見知りおきの程、よろしくお願い致します」
「は、はあぁ…」
私は、差し出された名刺を受け取ると、それをじっと見入った。確かに『ライジングサン プロダクション 統括マネージャー兼第一秘書 上妻真咲』と記してある。
(この人……男性の割には、顔ちっちゃくて肌が白くて凄く綺麗……瞳もきらきらしてるし声もなんか男性にしては高い……『彼』か『彼女』か……わからない……どっちだろう?)
そう考えながらその人の全身を上から下へ何回も見直していると、それを察してか、その人は、笑みを浮かべながら俯き、右斜め45度の目線で髪をかき上げながら……
「ふっ……私は、女性ですよ」
と、かっこよく返された。私は顔が赤くなるのが自分でもわかるくらい恥ずかしくて……
「あっああぁぁ……そういうつもりじゃぁぁぁ……す、すみません……」
と思わず俯き、何も悪い事はしていないのに謝ってしまう私。
【社長からの招待】
「今日ここに伺ったのは君子さんにお話……いや、お願いがありまして。この後、お仕事が終わる頃に出直して参りたいと思います。終業時間は、如何程の時間になるでしょうか?」
すると、どらさんが
「出直すなんて面倒くさい! 裏の和室を使っていいよ、今からの時間、暫く暇なんだしさ!」
そう言った途端、目をキラキラ輝かせた村田さんが何故か横から入って来て真咲さんをいち早く和室に案内した。その村田さんが私に耳打ちをする。
「かっこいいねぇぇこの子! 宝塚の男役みたい! 私ファンになっちゃいそう!」
(もう、村田さん本当に調子いいんだからっ!)
呆れる私。
和室に二人で向かい合ってテーブルに座ると、すぐに内藤さんがお茶を用意して持ってきてくれて、そのお茶を一啜りした後、真咲さんがここに来た理由について話を始めた。
「君子さん、お願いと言うのは、誠に急な話ではありますが再来週の週末、私共の事務所所属の加藤千隼が主演する映画の完成披露試写会に是非、貴方をご招待したいと、社長が申しておりまして……そのご案内に伺った次第でございます」
「彼が主演する映画?」
そう……その映画の撮影は、私が卒業した大学を使って行われ、彼と初めて会った場所でもあった。初めての出会いは、余りにも最悪でここで私は、彼から酷い言葉を浴びせられ体調を悪くした。あまり思い出したくはないけれど、今は、もう何とも思っていない。
「何故私が? もしかして千隼さんが無理を言っているのではないでしょうか?」
「いいえ今回、このご招待の件に関しまして千隼本人は、一切関わっておりません。ご招待するのは我が社の社長です。あなたに辛い思いをさせてしまった、せめてもの罪滅ぼし……という思いもあるのかと存じます。無論、全ての費用は、こちらで面倒を見させていただきますし、ご希望がございましたらご家族、ご友人何人でもご同行されて結構でございます」
(彼がいる東京へ? 会いに行けば……答えを……返事をしなければいけなくなる。私の……この中途半端な気持ちのまま会いに行っていいの?)
そう思いながら俯いて考え込んでいると『ガラガラガラ!』と戸が開き、幕内三人衆が私を捲し立てた。
「行っておいでよ、きみちゃん! 彼の事好きか嫌いか分かんなくなってんだろ?」
「そうだよ! 行ってはっきりしてきなよ!」
「そうですよ! 行くべきです!」
「皆……」
その通りだ……私の気持ちは揺らいでいる。好きか嫌いか……その二択だけ……当然だけど真ん中はない。
三人衆の後押しがあってか、私は、試写会に……東京に行く事を決めた。でも東京に行くにあたってひとつだけ真咲さんにお願いをした。それは、試写会での私の座席を真咲さんが掲示した関係者席ではなく一般招待者の席にしてもらう事だった。
そして……もう一つ大事な事。家に帰ると両親にこれまでの事を話した。それは、大学であった出来事の事……そこで俳優、加藤千隼に出会い、告白されその返事に悩んでいる事だった。両親に心配をかけたくなかったから今まで話せていなかったけど、東京に行く決心がついた事でもう黙っては、いられなかった。私の話を聞いた二人は、少し心配そうな表情を浮かべていたけれど……
「君子の人生、貴方の選んだ道が最善の道よ。行っておいで君子!」
あんなに……あんなにあんなに……心配をかけてしまったお父さんとお母さん。私の優純不断な気持ちがまた二人に心配をかけてしまうんじゃないかなって思っていたけど、両親共快くそう言ってくれた。
そして私は、若干の不安を抱きつつ東京行きを決意した。
scene24へ……行ってきます東京! でも……私、飛行機怖い……




