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scene15 家電友達 

そして次の日。朝から気が重くてもう、うんざりだった。何も考えずに普通に暮らしたいだけなのに、とか思っていたら、なんだか段々腹が立ってきた。


幕内三人衆は、朝から私の顔を見るたびにニヤニヤ。それを見て益々腹が立って、ついつい鍋を洗う手が荒々しくなる。


(あぁぁ……いかんいかん、落ち着け私……)


そして時は過ぎ、閉店作業を行う時間になった。私は、暖簾を店内に引っ込め、外の看板の明かりを落とした。そして再び外に出ると向こうから彼、加藤千隼がお店に向かって歩いて来ているのが見えた。私は、お店の前に立ち彼を迎えた。彼は、私に気がつくと帽子を脱いで……


「あ……こ……こんにちは……」


立ち止まり直立不動で挨拶をした後、ゆっくりと頭を下げた。若干緊張しているのか、言葉を詰まらせた。


私は、それに何も言わず彼と向き合い無言のまま頭を下げる。日中、誰かさん達に散々イライラさせてもらったお陰で、比較的落ち着いていた。


「もうすぐ終わりますから、ここで座って待ってて下さい」


私は、彼を導く様に店内に案内するとテーブル席から片付けていた椅子を下ろし、彼は、帽子脱ぐとそれをテーブルに置いて座りながら申し訳なさそうに弁当を注文した。


「すいません、あのぉ……幕の内弁当を一つお願いしてもいいですか?」


「どらさぁん、幕内一ついいですかぁ?」


「あいよっ!」


そっけなく厨房に向って注文を入れる。


残っていた閉店作業をやりながら気付かれないように時々彼の方へ視線を向ける。すると彼は、落ち着いた様子で壁にあるメニューボードをじっと見つめていた。


そして閉店作業が終わり、頭の三角巾を外しながら彼の元へ歩み行った。私が近づくと椅子からゆっくりと立ち上がり、2人向かい合って見つめ合う。


「お待たせしてごめんなさい。ご用は何でしょうか?」


(少し冷たい言い方しちゃったかな……)


「あ、あのぉ……これを……」


そう言いながらジャケットの、内側に手を伸ばし、何かを取り出そうとした彼。『手紙を渡したい』その事を知っていた私は、その手がジャケットから何かを取り出す前に言葉を発した。


「ごめんなさい、その手紙は、受け取れません。言いたい事があるのなら今、ここで手短にお願いします。そして……もうここには、来ないでください」


彼は、一瞬驚いた表情を見せ、胸に入れた手をゆっくりと戻し、姿勢を正すと大きく息を吸って意を決したように話し始めた。


「僕、貴方と友達になりたいです! 確かに僕は、貴方に酷いことを言ってしまった……。これは取り返しがつかない事実、だけど僕は貴方と友達になりたい! だからできれば、その……携帯電話の番号を教えて欲しい……です、あっ電話がだめなら手紙を書いていいですか? 返事はいりませんから……」


その言葉を聞いた私は……


(何言ってんのこの人? 友達になりたいって小学生かっ!)


そう思いつつちょっとイラっとしながら大きくため息をつき、言い返した。


「はぁぁぁ……。私は携帯電話を持っていません。テレビも全く見ないから貴方がどういう人かも知りません。それと返信いらないなんて、手紙をくれても私が読まなければ、意味ないんじゃないですか? 私は中を見ずに、そのままゴミ箱に捨ててしまうかもしれませんよ!」


きっぱり言い放つと……


「それでもいい! 貰っていただけるならそれでも良いです! 書いても……いいですか?」


なかなか食い下がらないので、私は『面倒臭い奴だな!』と益々イライラしながら、そこら辺にあった広告紙を切った小さな注文用のメモ用紙を『ビリッ!』っと荒々しく取って……


(掛けれるもんなら掛けてみろっ!)


と思いながら『カッカッカッ!』と雑に自宅の電話番号を書いて渡した。そしてそれを渡すときに冷たく一言……


「私、電話……苦手なんですけどねっ!」


と、一言付け加えた。


メモを受け取った彼は、まるで欲しかったおもちゃを買って貰った時の少年の様な満面の笑みを浮かべ、直立不動になって大きな声で簡単な自己紹介をした。


「僕、加藤千隼と言います! 幕内の皆さんよろしくお願いします!」


そう言いながら頭を深々と下げ、そして帽子を取って被ると出来上がっていた幕の内弁当を持って意気揚々と帰っていった。


あっけに取られ黙り込んだ4人、そんな中、どらさんがぼそっと一言……


「手紙を書いていいですか?なんて……。ひょっとしたらあの子……いい子……かもしれないね……」


それを聞いた私は、焦る必要もないのに……


「あ、ああんな紙切れ、す、すぐに捨てちゃいますよ。それに家電ですよ? 今時の若者が家電に掛けてくる訳ないじゃないですか!」


なんて言って帰ったその日の夜。夕食を済ませお風呂に入り、自分の部屋でくつろいでいる時、下の階からお母さんが私を呼ぶ声が……


「君子ぉ! 加藤さんから電話よぉ!」


「うん、加藤……? 加藤千隼っ?!」


私は、名を叫びながらベッドから飛び起きて考えた。 


(本当に家電に掛けて来るなんて!)


私の考えは、甘かった。しかし今更居留守を使う訳にもいかず、下に降りて渋々電話を取る。


「もしもし……君子……です」


「千隼です今日はありがとう!今東京に着いたよ!お弁当は飛行機の中で食べたすごくおいしかった!いつも美味しいんだけどね!声が聞けて嬉しい!それから僕もきみちゃんって呼んでいいかな?それじゃおやすみなさい!」(ガチャッ)


すっごい早口で一方的にしゃべられて私は、一言も返せなかった。それは……


(私が『電話が苦手』と言ったからかな、だから気を使ってくれたのか……な)


それにしても早口で何を言っているのか分からなかった。


何の酔狂か、こんな私に興味を持ってもらって悪い気はしていないけど……私は、加藤千隼に全く興味がない。いいや……興味が無いように自分を仕向けているだけかもしれない。人見知り症候群に陥り、人と深く付き合う事が怖くなった事も影響しているのだけど。でも私は、お弁当屋さんのアルバイト。彼は、煌びやかなテレビの中の人。生きている世界が全然違う。そんな私が彼と、まともに付き合える訳がないし、そんな彼が私をまともに相手する訳ない。人間関係で悩むのはもう……沢山……。


【美香、爆笑】


連日、雨模様が続いていたある日の事、美香先生が傘もささずに、ずぶ濡れになりながらお店に入ってきた。


「いらっしゃ……み、美香先生?!どうしたんですか、傘もささずにそんなに濡れてっ?!」


美香先生は、ずぶ濡れになっている事などお構いなしに、バックからスマホを取り出し、それを触りながら興奮した様子で捲し立ててきた。


「ねぇねぇ! この幕の内弁当、ここのだよねっ! 『幕内』の幕の内弁当だよねっ!」


美香先生が私の目の前に差し出したスマホの画面、それは確かに幕内の幕の内弁当だった。


「そ、そう……みたいですね……」


迫る美香先生にたじろいながら答えると、益々興奮して早口で語り始める美香先生。


「これ加藤千隼のSNSだよっ! この間この町で映画のロケあったよね? 千隼ここにきたのっ?! ねぇ?!」


「うぅぅぅん……」


私がお茶を濁そうとしていると、どらさんが後ろから…


「来たよ、何回もね……」


そう言うと、どらさんは、続けて事の経緯を美香先生に全て話した。すると浮かれて興奮していた美香先生の表情が、一変して曇り、悲しそうな表情に変わった。私は美香先生が心配するから言って欲しくなかったけど……案の定…… 


「ごめんね、きみ先生……何も知らずに……思い出させてしまって……本当にごめんなさい……」


自分の為にまた美香先生を泣かせてしまった……。


でも私は『私のせいで美香先生が彼の事を嫌いになってしまう』と思い、直ぐに取り繕った。


「み、美香先生、もう彼から謝ってもらったので今は、何とも思ってないんです。気にしないでください!」


そう言うと今度は、村田さんが怒り心頭で言い始める。


「もう、しつこくてね! 追い返せって言ったのに、役者の口車に乗せられて電話番号まで教えるし、本当にお人好しなんだからっ!」


(もうっ! 村田さん余計な事を!)


それを聞いた美香先生は、目を見開き、とても驚いた様子で私の顔を見ながら聞いてきた。


「えっ? 加藤千隼に電話番号教えたの? じゃぁ千隼から電話がくるの? でも、きみ先生……携帯電話……持ってないでしょ?」


その問いかけに私が俯きながら……


「い……家電です……」


そう言うと……


「い……家、電…………プウゥゥゥッ……アハアハハッハァァッ! でたぁっ! 家電友達! きみ先生小学生かっ! それ最高っ!!」


美香先生から指をさされながら大爆笑された。


(美香先生! さっきまでご免なさいって泣いてたくせにっ! 酷い!)


その千隼から掛かって来る家電の事だけど、私は『面倒だからすぐに飽きて終わるだろう』……そう思っていた。だけど結構まめに掛かってくる。


しかも、私がくつろいでいる時間が、分かるかのような絶妙のタイミングだ。家の電話だから家族が取る事が殆どなので気を使っているのかな。しかも彼も携帯電話ではなく家電でかけてくる(ナンバーディスプレイでわかる)


そして今夜も……いつもの決まった時間に電話が掛かってきた。話は、いつも彼が一方的に話して終わるという感じだ。でも今日は、彼の様子が何時もと違ってた……



scene16へ……この会話の流れ……なんかやばい予感!

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