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scene12 蘇える記憶

【音楽室】


そして幕内を出発して15分程で配達先の我が母校(笑)桜欄大学に到着した。懐かしい……と言っても卒業したのは、ついこの間の事なんだけど。そう思いつつ車は、校内をゆっくり進む。


(そうそう、この楠木の下で、入学当初、心細くて友達とよく待ち合わせをしてたんだっけ)


そして校舎の裏に回ると来客用の広い駐車場があって、そこに映画出演者とスタッフ用のテントが沢山設営されていた。その端の駐車スペースに車を停めると、直ぐにテントな中から愛想のいい若い女性が出てこられた。どらさんと私は、車から降りてまずは、挨拶から。


「こんにちは、お世話になります、幕内です! お弁当をお持ちしました!」


「有難うございます、じゃあテントの中に宜しいでしょうか?」


「はぁい! 畏まりましたぁ!!」


2人で65個の弁当をテントの中に運び込み、無事に納品を終えた。そして私が車の中で待っているとどらさんが『コンコン……』と窓を叩いたので開けてみると……


「きみちゃん、会計担当の方が学校との打ち合わせで居なくてね。その人が帰ってくるまでちょっとお待ちくださいって言われたんだ。きみちゃん、学校懐かしいだろ? 私、その人が帰って来るまで暫くテントの中で待たなきゃならないから、その間ちょっと学内を散歩してきたらどうだい?」


そう言い残しどらさんは、事務スタッフ用のテントの方へ連れていかれた。私は、せっかくだからと、頭の三角巾と割烹着を脱ぎ、どこに行こうかなと考えながら校舎の方へ歩き出した。でもやっぱり自然と足が向いたのは、音楽教室だった。休み時間や放課後になると、毎日のように大好きなピアノを弾いていたあの場所へ行ってみたいと。


そこへ向かいながら考えた。あの時……とし子先生の誘いを受けていたら今の私は、どうなっていただろう……とか色々考えながらキョロキョロと懐かしい校舎を眺めながら歩いていた。


そしてこうも思った。あれ以来ピアノの前に立つと、足がすくんで弾く事が出来なくなってしまっていたけど今なら……とか思いつつ音楽教室へ向かった。校内の雰囲気は当時のまま……何も変わっていない、卒業したのは、ついこの間の事なのにとても懐かしく感じる。


北側、音楽専攻校舎の一階にある音楽教室の前に着いた。扉を開けて入ると左手にある大きなグランドピアノ、私がいつも弾いていたピアノだ。扉をゆっくり閉めピアノに歩み寄っていく。すると咄嗟に視界の中に何か違和感を感じて気付いた。右奥の窓際に誰か……誰か立っている!? 視線を向けるとそれは、背の高い男性、片手をポケットに入れ、窓ガラスにもう片方の手を付き外の方を向いてる。


そして私が気付いて驚く間もなく、私の気配に先に気付いたのか男性がいきなり大声で叫んできた。


「誰だっ!?」


背を向けたまま、力の限りの大きな怒鳴り声だった。


私は、戸惑いながら……


「あ、あ、あの……」


焦って言葉が出ず、しどろもどろになる私に再び怒鳴り、罵声を浴びせてきた。


「なんだっお前! 何で入ってきた!! 何しに入ってきたんだぁっ!!」


「ご、ご免なさい……誰もい……いないと思って……」


私は、恐怖で声も出せなくなり、体も硬直してその場から動けなくなってしまった。


「なにやってんだよぉ……早く出ていけぇ…………早く出て行け!! 出ていけよ、お前の顔なんか見たくないっ! 俺の前から消え失せろっ!」


体が硬直し、怖くて気を失いそうになっていた私は『はっ』と我に返り、後を振り向き『バンッ!!』と扉を開け放つと部屋を飛び出し、逃げる様に走り出した。


速くこの場から立ち去りたい! 無我夢中で走り、車がある駐車場へ走った! そして私の頭の中に……あの時の事……保育園……園長室での事が浮かんでくる。走りながらも恐怖で体が震えだす。


駐車場の車が見えてきた。どらさんが、すでに運転席に座っている。


『ガチャバンッ!』

 

無言で車に乗り込んだ私にどらさんが話しかけてきた。


「きみちゃん、久しぶりの学校は、どうだった? えっ? どうしたのきみちゃん? 顔が真っ青だよっ!」


「何でも……ないです……大丈夫です……」


そう答えたけど何故か涙が溢れだし、体の震えが止まらなかった。


『病院に行こう』と、どらさんが言ってくれたけど私は……


『お店に帰りたい! お店に帰りたい!』


と泣きながら叫んだ。


幕内に帰り着くと、どらさんが連絡をしてくれていたのかお店の暖簾が片付けられ、中から村田さんと内藤さんが飛び出して来てくれた。体に力が入らない、2人が私の両脇を支え休憩室に行く途中、膝をつき顔を覆って泣き出してしまった。あの時と同じだ、何も考えられない。嗚咽がひどくなり息が出来ない! 


(苦しい……誰か……お母さん……助けて……………)


頭の中が真っ白になりかけたその時、ふわっと甘く優しい香りがした……と同時に声が……聞こえてきた。


(大丈夫……きみちゃん……大丈夫……ゆっくり大きく息を吸って……もう大丈夫よ……)


(とても優しくて……澄んだ声……お母……さん?)


「すぅぅぅぅぅ……はぁぁぁぁ……すぅぅぅ……はぁぁぁぁぁ……」


その声に合わせてゆっくり息をすると次第に気持ちが落ち着いてきた。気が付くと内藤さんが、私を抱き寄せ、耳元で優しく囁いてくれていた。そのままゆっくりと私を横に寝かせて毛布を掛けてくれた。


「落ち着いた? もう大丈夫よ、きみちゃん……」


私が落ち着いたところで内藤さんが念の為にと、近くにあった鞄から道具を取り出し血圧と血中酸素濃度を測ってくれた。


「さすが元看護士長! やるときゃやるねぇ!」


「看護士さん? 内藤さんが?」


私が聞くと……


「そうさ! 元看護士長、それも大学病院でさ! 旦那は、お医者様! 金なんてクソ程持ってるくせに、こんな所でパートだなんてさ酔狂だよねぇ!」


と村田さんがはしゃぎながら茶化すと……


「こんな所ってどんな所だよ!」


「あっ……じょ、冗談よっ、じょぉぉだん!」


ばつが悪そうに誤魔化す村田さん。


二人の会話に私は、横になったまま『クスクス』っと笑ってしまった……。


その後、体調は回復したけれど、3人から『無理は禁物よ!』と無理やり退勤させられた。


そして次の日から、大事を取って2日間の休みをもらった。私は休むつもりはなかったけど、どらさんが『何も考えずゆっくり休みなさい』と言ってくれたので、その言葉に甘えさせていただいた。でも、その休んだ2日間の間にある事件が発生していた。


scene13へ……優しい幕内三人衆。皆がいるから続けていけるんだ……

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