scene1 私の夢~私が保育士になる理由(わけ)
【大好きな、かみ先生】
保育園に通っていた、あの頃。私はとても泣き虫だった。友達の何気ない言葉に傷つき、遊具の陰に隠れてよく泣いていた。そんな時……いつも私を見つけに来て……優しく慰めてくれた担任の先生。名前は田中かす美先生。皆からは、かみ先生って呼ばれていた。
顔が小さくて、背がすらっと高くて、声が澄んでて、ピアノと歌がとっても上手で、長い髪はクルクル巻いてお団子で……そして笑顔がとても素敵な可愛い先生だった。
運動会や発表会の時、緊張して、体がカチカチになっている私に……
「大丈ぉぉ夫っ! きみちゃんなら絶対できるっ!」
そう言いながら肩に手を添え、満面の笑顔でいつも励ましてくれていた。
そんなかみ先生がお昼寝の時、いつも流していた曲は、ピアノの音色がとても優しい曲だった。その曲名は『カノン』
ある時、私がかみ先生に……
「どうしていつもこの曲なの?」
小さな声で理由を聞くと……
「そうね……先生ねぇ……この曲、大好きなの。ピアノの音色がね、とても優しくて」
そう言って天井を見上げたまま上に向かって手を伸ばし、曲に合わせて小さく鼻歌を歌いながらピアノを引く身振りをした。私がピアノを弾くのが大好きになったのは、かみ先生のおかげだ。
保育園のどこにいても、かみ先生の姿が見えているだけですごく安心した。笑顔が素敵で優しくて可愛いいかみ先生。そんなかみ先生を見て、私も大きくなったら絶対、かみ先生みたいな優しくて素敵な保育園の先生になるんだって、ずっと夢見ていた。そしてその夢は、小中、高校生になっても虚ろう事はなかった。私、神君子は! 絶対に優しくて素敵な保育園の先生になるっ!
【大学生活スタート! いきなりチャラい男の子が馴れ馴れしく話しかけてきた件】
楽しかった高校生活もあっという間に過ぎ去り卒業後は、地元の大学『桜欄大学』へ進んだ。この大学には、幼児教育学部の他、国際グローバル学部、経済学部そして芸術美術分野の学部が有り、多くの学生が学んでいる。その恩恵か大学を中心に街が栄えていると言ってもいいくらい学校周辺は活気に満ちていた。私が選んだ幼児教育学部では、4年間で幼稚園教諭一種と、保育士の資格取得を目指す。
だけど私の通っていた高校から、結構沢山入学したけれど、同じ学部に入学した同級生とは、高校生時代あまり親しくなかったので少々心細かった。でも数人の友達が私と同じサークルに入ってくれたのでちょっと安心した。
そうそう、数あるサークルの中で、私が選んだサークルは、吹奏楽部だ。その理由は、私が中学校から高校まで吹奏楽部に所属していた事もあったけど、一番の理由それは、この大学にはピアノで世界的に有名な先生がいらして、その先生が吹奏楽部の顧問もされていると聞いたからである。本物のピアニストに音楽を指導して頂けると思うと、もう楽しみで堪らない!
その吹奏楽部の入部説明会の日の事だった。説明会がある教室で一人座っていると、突然男の子が私の隣に『ドカッ』っと座った。私がそれを気にせずにスマホを触っていると、軽い声で横から話しかけてきた。
「こんにちは! 君も吹奏楽部に入るの?」
横を見るとその彼は、背がすらっと高く(170センチ位かな?)さらさらの茶髪、グレーのパーカーにジーンズというぱっと見イケてはいるけど、どこかチャラい感じで私にしては、余り印象は良くなかった。
(「吹奏楽部に入るの」? 何言ってるのこの人? 入ろうと思っているからここに居るんですけどっ!)と思いつつも笑顔でこう返答した。
「はぁ……そのつもりですけどぉ」
「やっぱそうなんだぁ僕、葉山洋介です! よろしく!」
聞いてもいないのに、この彼が勝手に自己紹介をしたので『何この人』と再び思いながらも礼儀として私も自己紹介をした。
「神……君子です、よろしくお願いします」
「君子、きみこ……きみ……きみ……ちゃん……うん! きみちゃんさぁ、幼児教育専科だよね? ひょっとして高校は、正慶女子高校?」
(はあぁ⁉ 何! この人初対面の私をいきなり『きみちゃん』って呼んだっ!)ちょっとイラッとしつつ……
「そ……そうですけどっ!」
俯いて答える私。
「やっぱり! 受験の時に正慶女子高の制服を着た子の中に、おさげ髪のすっごく可愛い子がいると思ってたんだ! 似てるなぁっと思って声を掛けたんだけど、やっぱりあの時の可愛い子はきみちゃんだったんだ! 僕も同じ幼児教育専科だよ!」
(終わった事とは言え、試験直前に何考えてるのこの人! 信じらんない!)
「やったぁぁ! これで楽しい学園生活が遅れるぅ! 大学生バンザーイ!」
なんて調子がいい奴だ、とその時は思っていたけど(友達として)付き合ってみると天然と言うかなんというか……どこか憎めない人だった。ある日ピアノ室で練習をしていると洋介がいつになく真剣な表情で教室に入ってきたかと思ったら何か深刻に話しかけてきた。
「きみちゃん……ちょっと聞いて欲しい事があるんだけどさぁ……」
「なぁに洋介、改まって!」
すると急に真剣な顔になり頭を下げ手を出して告ってきた!
「き、き、きみちゃん好きですっ! ぼ、僕と付き合ってくれませんかっ!?」
と突然の告白、私はその告白に大きくため息をついて即答した。
「はぁぁぁ……ごめんなさい!」
洋介は、焦って聞き返してきた。
「なんでぇ⁉ なんで即答なのぉぉ? 考えてもくれないのぉぉ?!」
私はその問いかけに再びため息を交えながら答えた。
「はあぁぁぁぁぁ……よぉうすけぇくぅぅぅん……先週、美由紀ちゃんに『好きだ、付き合ってくれ』って告白したんだってぇ?」
その質問に、しどろもどろしながら答える洋介。
「えっ、えっ? あ、それは、そのぉぉぉ……」
「その前には、恭子ちゃんにも告ってるし!」
「あ、あは、あはは……そのぉ……。な……何で……知って……るの?」
「恭子ちゃん、美由紀ちゃんがダメだったから今度は私? 絶対にそれはないっ!!」
呆れた私は冷たく言い放ってやった。しかも洋介は、大学に入ってから二年間の間に、同じ吹奏楽部の女の子六人(私を入れて七人)に告白している。とにかく告白する相手が身近過ぎる。バレないと思っているところが可愛いが、皆と『せめて私達と関係のない女の子に告白すればいいのにね』と話していた。
その時、私に冷たく言われたのが効いたのか、その後、洋介が吹奏楽部の誰かに告白したという話を聞かなくなった。でも皆には内緒にしているけど……実は私、卒業するまで洋介に5回、真剣に告白されている、全部断ったけどね。
そして大学3年生にもなると、実習もより実践的になってくる。0歳の赤ちゃんから5歳児、年長クラスまですべての年齢の保育を経験した。保育指導の設定も、より内容が充実した保育計画が求められるようになり、思っていた以上に難しくなってきた。
そして一番苦労するのがやはり記録だ。設定した活動に対してのねらいを定め、活動の目的、その活動に対しての配慮事項、子どもに対しての語り掛けにどのような反応があったか、そしてその活動に対しての反省点等を記録する。
頭の中では、『子どもとこういうふうに関わった』『子どもがこのような遊び方をしていた』『こどもが先生にこう伝えてきた』と分かってはいるけれど、それを文章に、読み手が理解できるように書き起こすという事がとても難しい。でも先輩や先生達のアドバイスのお陰で、何とか課題をクリアできていた。
scene2へ……続く!




