9 友達
「――――ものすごい勢いで中身が飛び出すから、絶対人に向けて使うなよ」
ポッポの忠告が聞こえた次の瞬間――――ステッキから飛び出した何かが、エリオの帽子を真上に弾く。
と、帽子はそのまま、ポッポの顔に落下した。
「……おい。最後まで話を聞け」
怒りの滲んだポッポの声が、静かになった部屋に響く。
その勢いに驚いて固まっているシューゼとエリオの頭上には、ステッキから飛び出した何かが天井に突き刺さっており、その何かからはチェーンがプラプラとぶら下がっていた。
「こ、これは……?」
困惑の声を漏らしたのは、シューゼだった。
「一応、発射式のマジックハンドのつもりだったんだけどな」
ポッポは自分の顔に乗っていた帽子をどかす。そして、
「けど、勢いが強すぎて、チェーンが千切れるか、手からステッキが滑り落ちるか。結局、使い物にならねえ」
と言って、ポッポは飛んで天井からぶら下がったチェーンを掴んだ。
チェーンにかかるポッポの重みで、その先端が天井から抜け落ちる。と、それをポッポが受けとめる。それを見てシューゼが、
「拳、の形……?」
と、口にした。
「そ、本来は飛んでいった先にある鉄骨とかロープを掴んで、ステッキを引き上げるためのもんだったんだけど……」
ポッポはそう言いながら、手の甲に作られたスイッチを押して、拳を開いたり閉じたりしてみせる。
しかし、それからポッポはシューゼに拳を預けると、顔に飛んできたエリオの帽子を手に持って一転。――――怒ったように「っていうかなぁ……」と語気を強めると、
「何でもかんでも、すぐにスイッチ押すんじゃねえよ! ガキかてめえは!!」
と、エリオの顔に向かって帽子を投げつけた。
「――――ぶっ! な、何すんの!?」
エリオが、ポッポに食ってかかる。と、ポッポは、
「帽子を返してやったんだよ!」
と、エリオからステッキを奪い返した。
「だいたい、作ってるのが全部不良品なのがいけない!」
エリオが、言い返す。
「不良品じゃねえよ! 出来たのがたまたま本来の用途と違っただけだ!」
「じゃあ、ダメじゃん! ポンコツ発明家!!」
「うるせぇ! ガキ金髪!!」
「チビ!」
「アホ!!」
エリオとポッポ、2人のおでこがぶつかりそうになる。――――が、2人を止めたのは、シューゼの手だった。――――いや、止めたというよりは、チョップして無理やり黙らせたというのが正確な内容だけれど。
「はいはい、両成敗ね」
エリオとポッポは、チョップされたおでこを抑えてシューゼを睨む。と、そんな2人にシューゼは諭すように優しく声をかけた。
「まず、エリオ。説明を全部聞く前に、勝手に動かしたのが悪い。それに不良品だなんて言い方もダメ」
「……」
「次に、ポッポ。シンプルに口が悪い。あと、帽子を投げつけるのはダメ」
「……ふん」
「分かった?」
2人は黙りこくる。しかし、もう一度、シューゼが、
「……無理に仲直りしろとは言わないけど、せめて喧嘩はやめてね。分かった?」
と、聞くと、
「わーったよ」
「……分かった」
と、2人とも不服そうに顔を逸らしながらも、少しは落ち着いたようだった。
「……はぁ、初めは友達になってもらうつもりだったのに」
そう肩を落とすシューゼの傍で、エリオが帽子を再度被ろうとする。と、その時、シューゼが、
「あ。あと、その帽子。ここでは被らなくてもいいよ。全部話すつもりだから」
と、エリオに言った。
「え?」
「……ん?」
エリオが戸惑いを見せると、ポッポが顔を上げる。そして、エリオと目が合うと、
「……ん え、あ、金髪じゃん!?」
と、目をぱちくりとさせ、驚きを見せた。
「さっきガキ金髪って言ってただろ……」
シューゼは、突っ込まざるを得なかった。
▼ ▼ ▼ ▼
「エリオは、いま逃亡中のリリエ・エンドで、あの灰髪の少年に化けてて、外に出たがっていて……。はぁ、頭が痛くなるぜ……」
一息ついて、3人は椅子に座り、ポッポの出したお茶を啜る。その所作が1人だけ綺麗なエリオを見ると、ポッポはため息を吐いた。
「……ま、お前が意味のない嘘をつくとは思えねえしなぁ。で、何の用よ。まさか、友達になって終わりってわけじゃないだろ?」
「うん。1つはこれ」
そう言って、シューゼはポケットから例の銀時計を取り出す。
「銀時計? ……ああ、前に言ってた直しかけの」
「うん。だけど、僕の力だけじゃダメで。ポッポは【テンプ】って知ってる?」
「もちろん。時計の心臓部のあの細ーい針だろ?」
「そう。あそこがうまく機能しなくて、だから見てもらいたいんだ」
「おう。分かった。明日には直してやるよ」
「ありがとう! ……それで、もう1つなんだけど。例の飛行機って……」
シューゼは、ガレージに置かれた一際大きな発明品を見る。
それはシューゼたちがこのガレージに来るまでポッポがいじっていたものであり、固く分厚く細長い落花生のような見た目をしていた。その中心やや前方には、穴が2つ空いてもいた。
「おう! ついに決心したか! 準備できてるぞ! ちゃんと穴が2つの、2人乗りでな!」
「2人乗り!? これなら……」
「そうさ! これなら――――」
シューゼとポッポは顔を見合わせると、笑顔になる。
「――――エリオも外に出せる!」
「――――お前と一緒にこの街を出られる!」
しかし、直後――――2人の顔は希望と絶望に分かれた。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!
励みになりますので、良いと思ってくださった方は【☆】や【ブックマーク】をポチッとしていただけると嬉しいです!!