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【1000PV 感謝】シューゼと水蒸気の姫君【完結済み】  作者: 誰時 じゃむ


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15/18

15 乳歯

「――――エリオ!」


 その姿を目にしたシューゼが突然、カーテンの中から現れる。


 と、シューゼはエリオを見つけて走り出しながら、カバンから取り出した銀時計をエリオに向かって投げた。



「シューゼ!!」


 エリオの手は、先ほどまで頼りにしていた父の手を驚くほどあっさりと放すと、銀時計を大切そうに受け取る。その時、遅れてその場にいた騎士たちがシューゼを取り押さえた。



「貧民!? なぜここに……!? リリエ、危険だ。その時計を――――」


 そう言って銀時計をエリオから奪おうとする、父ガッシュ。しかし、エリオの元に無事辿り着いたのは、銀時計だけではなかった。


 ガブリ――――エリオの頭に乗っていたネズミが、ガッシュの手を噛んだ。


「――――なあっ!? ネ、ネズミ! ネズミが!!」


 ガッシュは、腕をぶんぶんと振るう。しかし、ネズミはなかなかガッシュの手を離さない。


 すると、押さえつけられたシューゼが言った。


「銀時計を、開いて……!!」


「……え?」


「約束通り迎えに来た……! 後は、君次第だ。エリオ……!!」


 シューゼがそう告げると、騎士が「うるさいぞ!」とシューゼの顔を地面に叩きつける。


 その傍ら、エリオは困惑しながらも銀時計を開くと、目を丸くする。


「……お父様、親不孝な娘でごめんなさい」


 そして、そう呟くと、


「だけど――――友達が待ってるから」


 と、強く言い切った。


 次の瞬間――――辺りは爆風に包まれた。



   ▼ ▼ ▼ ▼



「なにかあったか?」


 慌ただしく扉が開かれる。と、外で警備していたはずの騎士が結婚式場内に転がり込んできて、どこかの夫人が悲鳴を上げた。そして、10秒も経たないうちに騒めきが広がった。


 騎士は鎧のところどころが焦げていて、扉の向こうにも火がちらっと見えた。


「ジーク様」


 ギルがジークを庇うようにして前に立つ。と、それから騎士に「何があった」と尋ねた。


「ひ、貧民です! 貧民が突然現れ、エリオ様を攫っていきました!!」


 その言葉を聞いた瞬間、ざわめきと悲鳴がより一層大きくなる。しかし、当の婚約者であるジークは、どこか余裕そうだった。


「ほぅ、凄いな。貧民のくせに……」


「感心している場合ではありません。このままでは、結婚式も――――」


「――――ああ。ギル、取り戻してきなさい」


 すると、ジークはニヤリと笑って、


「そのほうが、結婚前のゴタゴタに加えて、この結婚式での失態、そしてホールデム家の騎士が令嬢を取り戻したという2点で、さらに恩が売れる」


 そう、言った。こんな時でさえ、ジークは最大限にこの機会を利用しようとしているのだ。


「……さあて、何を取ってやろうかな」


 ギルは呆れて物も言えず、そう呟いたジーク横顔をキッと睨んだ。



   ▼ ▼ ▼ ▼ 

 


「――――シューゼ、この時計……!!」


 シューゼに手を引かれながら、エリオが聞いた。その手には、銀時計が握られていた。


「銀時計に、どうして魔石が埋め込まれて……。魔石を持ってたの?」


「いや、ポッポがサプライズでね。エリオがネックレスの魔石を使わせてくれたから、元々飛行船に使う予定だった小さな魔石をどうせ余るんならって。おかげで、助かった!」


 そんな会話をしていると、ピィーッ――――シューゼたちが馬に乗って走り出した直後、警笛が辺りに鳴り響く。


「誰か、そいつを捕まえろ!!」


 すると、次の瞬間、どこに隠れていたのか、街中から軽装重装問わず騎士がワッと現れた。


 事態を把握しきれていないうちに何人かはすり抜けられたが、そのうちに2人の前には騎士が立ちはだかる。出口までは、まだもう少しあった。


「シューゼ!」


「エリオ、銀時計を!」


「――――! 分かった!」


 エリオが銀時計に魔力を流し込むと、魔石がピカッと光って爆風が巻き上がる。と、砂煙は騎士たちからシューゼを隠した。


「うわっ!!」


 騎士たちが混乱する中を、潜り抜けていくエリオとシューゼ。そうして門にたどり着くと、今度は門番2人がシューゼたちの前を阻んだ。


「シューゼ、ごめんなさい。体力的に、次が最後になる……」


 息を切らしながらエリオが、銀時計を構える。しかし、その時、シューゼは手を前に出してそれを静止した。


「僕に任せて!」


 そう言うとシューゼはカバンの中から何かを取り出して、門の前の騎士たちに投げつける。――――その正体は、忍び込んだ台所で見たトマトだった。


「ぐあっ!」


「なっ、血!?」


 隣の仲間の顔にトマトが衝突し赤い液体が飛び散ると、思わずもう一方の騎士はそちらに顔を向けてしまう。が、直後、その騎士の顔にもべちゃっとした何かが張り付いた。


「――――うわっぷ!」


 騎士は覆われた視界に張り付いた何かを手に持ってみる。と、それは肉だった。


「に、肉……!?」


 トマトが目に染みて悶えている仲間の横で、騎士は顔を上げる。――――が、しかし、そこにもうシューゼたちはいなかった。


「どこに――――」


 そう呟いた次の瞬間、騎士の顎を痛烈な痛みが襲う。それは、シューゼの頭突きだった。


 騎士はドサッと倒れ込み、シューゼが「行こう!」と言った。


「ちょっと待って」


 しかし、エリオはそう言って騎士の懐をゴソゴソと漁ると、何かをドレスにしまった。


 貴族街の門からポッポの家までは、そう遠くはなかった。

 ポッポの家に行けさえすれば、ガレージにはあの飛行船がある。それが、シューゼの希望でもあった。――――しかし、


「――――シューゼ、危ない!」


 その瞬間、シューゼはエリオに引っ張られて道端に倒れる。と、その目の前を――――大きな剣の刃が、通り過ぎた。


「チッ、邪魔しないでもらえますかね。リリエ様」


 ブルルルルッ――――馬がこちらを威圧するように、喉を鳴らす。


 ポッポの家まで、後少し。だが、2人の前に現れたのは、シューゼに痛みを覚えさせた騎士。


「ギル・ホールデム……ッ!!」


 その人であった。


「――――な、なんだぁ!?」


 結婚式前の貴族行列も終わり、各区画を行き交いできるようになっていた貧民街には、多かれ少なかれ人が行き交っていた。


 そんなところに突然、貧民の子供とドレスを着た花嫁、さらには馬に乗った貴族騎士まで現れるものだから、3人の周りにはすぐに群衆が集まってきた。


「ギル、命令です。ここを通しなさい」


 エリオが言った。しかし、ギルは睨むのをやめないまま、


「できません」


 と、返す。


「あたしは、貴族。貴族の命令を聞くのが、騎士の役目でしょう?」


「ええ。ですが――――あなたを連れ戻せというのは、ジーク様の命令です。あなたとあなたの夫であれば当然、夫であるジーク様の指示が優先されます」


「……っ! これだから嫌、貴族っての……!!」


 エリオが憤りを感じていると、ギルが馬から降りる。そして、剣を構えた。――――が。


「襲いかかってこない……?」


 そうシューゼが呟くと、


「……あら、怖気付いた?」


 と、続けて煽る、エリオ。しかし、ギルは動じない。


「俺の役目は、お前たちの足止めだ。時間がかかればかかるほど、そっちの門から騎士がやってくるだろう」


「そういうこと……!」


 その時、シューゼが小さな声でエリオに言った。


「2人で一緒に走ろう。どのみち、もう止まれない」


 エリオは頷く。ここを突破する以外に道がないのは、エリオも分かっていた。


「行くよ!」


 ひと塊になってギルの左側に向かって走り出す、シューゼとエリオ。すると、ギルは2人に向かって剣を振るった。


「エリオ!」


「うん!」


 その瞬間、エリオが銀時計に最後の魔力を送り込む。と、あたりには土煙が巻き上がり、さっきと同じように2人を隠した。――――かに、思われた。


 しかし、逃さんと言わんばかりに、爆煙の中からギルの左手が現れる。と、それはシューゼの胸ぐらを掴んで煙の中から引っ張り上げ、街道に叩きつけた。


「シューゼ!」


 土煙の幕が晴れると、エリオの目には煤のついた剣が映し出される。それを見て、エリオは察した。


「わざと魔石を使わせたの……!? 剣を振り下ろすフリをして……。そして、爆発の直前で剣を盾代わりにして、魔石から自分を守った……!」


「……魔石の爆発は、すでに式場で見てますからね」


 ギルは地面に投げ捨てたシューゼの胸ぐらを改めて掴み、持ち上げる。その時、シューゼの口から血が垂れた。


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