11 シューゼの考え
「これは、もともとお前にあげるためのものだった。お前が外に出ることを教えてくれたから、今度は俺がこの町の外にって。だから、もしその女を乗せるってんなら――――この町を出るのは、お前たち2人だ。そうなっても、俺は恨まねえよ」
しかし、ポッポはその最後に素顔の自分でシューゼに向き直うと、
「でも、俺は……。俺は、お前と出たいんだよ。この町を……」
と、言った。
「……あの時のお前のままで、一緒に出ようって。そう言ってくれよ」
「ポッポ……」
ポッポの縋るような声を聞くと、シューゼは同じように悲しそうな顔になる。
「……あの頃の僕は、何でもできると思ってた。君を連れ出すのだって怖くなかったし、いじめっ子にだって立ち向かえた。だけど、そのうちに周りの子供も大人たちも、死んでいなくなって。死の恐怖が大きくなっていって。失うことが怖くなって。だから、大きなことは何も望まず、ここで生きてこうって思うようになってたんだ。ダントンさんだって、炭鉱所のみんなだって、それが1番いいよねって。それで……」
シューゼがぽつぽつと語り出したそれは、懺悔のようだった。
「そうしていくうちに、いつの間にか自分のために動けなくなってた。他人のためには、動けても。誰かを応援できても。……でも、それで良いって思ってた。思い込もうとしてた。それが大人になるって、この町で生きるってことだから」
諦めたような言葉が、並べられていく。――――しかし、その以後にシューゼが言ったのは、
「……だけど、もっと欲張りになっても良いのかな」
という、言葉だった。
「ポッポと出会って町の外に出るっていう夢を知って、エリオと出会って自分のことを少しずつ分かり始めてきて。そんな2人だから、聞いてほしいんだ」
すると、それに答えたのはエリオだった。
「……きっと、いいと思うよ」
シューゼは頷いて、それからポッポを見る。そして、真っ直ぐに自分の意見を伝えた。
「僕は……。僕の夢は――――3人でこの町を出る。だから、2人に協力してほしい」
ポッポが顔を上げた拍子に、兜の鈴がリンッと鳴った。
すると、次の瞬間、ポッポは力を貯めるようにぷるぷると震え出し、それから嬉しそうにバシバシとシューゼの体を叩いた。
「……っ。……ぃた。痛っ! 痛いなぁっ!!」
あまりにその言葉が嬉しかったのか、無言でシューゼを叩き続ける、ポッポ。シューゼも最初はそれを受け入れてたものの、だんだん強さを帯びてきて耐えられなくなってきた。――――と、そのあたりで、
「……で、具体的には何をするの?」
と、戯れを諌めるようにエリオが聞いた。
シューゼはエリオと目が合うと、一転して真面目な表情になって頷き、それからポッポの飛行機に触れる。
そして、言った。
「僕に考えがある」
「考え?」
「簡単に言うとね、これを3人乗りにするってことなんだ」
シューゼは振り返ると、エリオをじっと見つめた。
「この飛行船は、赤の魔石で動く。それはポッポがずっと前から言ってたことで、準備してきたことだ。ほんの小さな魔石で、2人乗り。なら……」
何かを察したように頷く、エリオ。すると、エリオはネックレスを取り出し、
「これがあれば、ってことね」
と、言った。そこには、赤い赤い魔石が取り付けられていた。
「それは、魔石……!? そうか、貴族は……!」
「ああ。だから、エリオ。そのネックレスと僕たちの未来を交換してほしい」
「……ねえ、天才発明家さん。これがあれば、3人乗りにあれを改造することはできるの?」
エリオが尋ねる。と、ポッポは自信満々に、
「おうよ! 3日……。いや、2日で作ってみせらぁ」
と、言い切った。
その態度を見ると、エリオは、
「なら、断る理由はないね」
と言って、笑った。
「使って」
ポッポにネックレスを渡す、エリオ。すると、そのネックレスに付けられた赤い石を見て、ポッポが聞いた。
「ところで、魔石ってどの部分なんだ? 普通、魔石って大きく見せるために、似た色の石と合わせて1つの石に見えるように加工されてるんだろ?」
「全部だよ」
すると、シューゼとポッポは顔を見合わせて、
「でっっっっっっっっっかッ!!」
と、2人して驚きの声を上げた。
▼ ▼ ▼ ▼
すっかり日が傾いて、町に喧騒が戻り始めた頃。
「――――時計の件も了解した。じゃ、また明日。炭鉱でな」
ポッポの家の正面玄関の(ガレージでない)ほうの扉が開かれ、シューゼと帽子を深く被り直したエリオが姿を現す。
と、その時、エリオの帽子に何かがポッと落ちる音がして、それから子供たちが走り回るようにダーッと雨が町に降り始めた。
「……あ!」
ポッポは何かを思いついたようにそう言って、一度家の中に消える。と、それから慌ただしく戻ってきて、シューゼに傘を1本差し出した。
「これ使ってくれ! じゃあな!」
バタンと扉が閉じられて、シューゼとエリオは傘を差して雨の中を歩き出した。
ポッポの渡してきた傘は、ガレージにあった不良品たちとは違ってちゃんと開き、傘としての機能をなしていた。――――と、思っていたのも、束の間。傘はその身を広げると、少しずつ回転し始める。
そして、3分が経つ頃には、傘の先端は送風機のプロペラと同じようにクルクルと回り出し、辺りに飛沫を撒き散らし始めた。
そんな傘の下で身を寄せ、小さく収まった2人は傘を見上げると、思わず吹き出して笑ってしまった。雨が水溜りの上で踊り、雨音がこの言葉にできない高揚感を謳ってくれる。――――だけど。
「……何、これ」
シューゼの家の前。
2人は傘を畳んで、家に入る。――――が、そもそもがおかしかった。鍵が、蹴破られていたのだ。
そして、その直後、エリオの「きゃっ」と言う言葉と共に、シューゼは廊下に向かって背中を蹴り飛ばされた。
「おかえりなさいませ、お嬢様」
振り返ると、家の入り口に立っていたのは――――3人の貴族騎士だった。どうやら、シューゼが帰ってくる時を狙い、逃さないようにシューゼが家に入ってから襲撃してきたようだ。
「エリオ……!」
誰が通報したのか、どこからバレたのか。今はそんなことどうだっていい。
シューゼはとにかく、エリオに向かって手を伸ばす。と、3人のうちのそばかす顔をした騎士がシューゼの腹を蹴って、さらに家の奥へと飛ばした。
「シューゼ!!」
そんなシューゼをエリオが追いかけようとするも、エリオは騎士の1人にあっさりと後ろで手を押さえられてしまう。すると、シューゼに暴力を振るったそばかす顔の騎士が、エリオの帽子を投げ捨てて顔を覗き、
「少し手荒くなりますが、ご勘弁ください。……うん。ちゃんと、リリエ嬢様ですね」
と、言った。
「あなたは――――ギル・ホールデムッ……!」
エリオは、そばかす顔の騎士――――ギルを睨む。
しかし、ギルはそんなエリオの表情など気にも留めず、おもむろに胸の前に手を置くと、
「おおっ、覚えていただけているとは光栄です」
と、むしろ深々と頭を下げた。
それからギルは空気を切り替えるようにポンッと軽く胸の前で両手を合わせると、
「さて、冒険の方ですが、そろそろ終わりにしていただいてもよろしいでしょうか? お父様が、屋敷でお待ちになっておりますよ」
と、話した。――――が、エリオはそれを喰うように、
「あたしは、戻らないッ!!」
と言うと、自分を押さえていた騎士の男の足を踏みつけた。
苦痛の声を上げてエリオを放す、騎士。
「……ッ! このガキがッ!!」
そして、その怒りのままにエリオに殴りかかろうとした――――が、その時、騎士の拳を止めたのはシューゼではなく、同じく騎士であるギルの頬だった。
「……おい。貴族に手上げようとしてんじゃねえよ、新人。殺されてえのか」
その瞬間――――新人、そう呼ばれた騎士の表情がひどく怯えたものに変わる。
「俺たちはあくまで貴族騎士。貴族じゃねえ。貴族に仕える人間だ。万が一にでも手ぇ出したら、全員まとめて犬の餌。それでもって言うなら……」
グググッと、首の力だけで頬に当たっている拳を押し返す。と、ギルは、
「飽きるまで、俺を殴れよ」
と、先ほどまでのエリオに対する丁寧な態度から一転して、ひどく冷たい表情を覗かせた。新人はそれに気圧されると、すぐに拳をしまって謝罪した。
すると、今度はその鋭い目つきをシューゼたちに向ける。そして、ギルは、
「そうか……、その男のせいか……」
と、呟き、ギルは滴る雨とともにその紫の髪を後ろに掻き上げ、それから赤い瞳で床に這いつくばるシューゼを見下して、
「ならば、あなたが首を縦に振るまであの男を嬲って見せましょう。――――たとえ、その男が死んだとしてもね」
と、言った。
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