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6  アランの失態

読んでくださってありがとうございます!

 アランは今更ながら伯爵家のことを調べなかったことをこれほど後悔したことはなかった。自分の家より格上だと認識していただけだったのだから。

婚約者が王族に連なる存在だと知らないで済む問題では無かった。

王宮の図書館でいくらでも貴族のことを調べる時間はあった。なのにこの体たらく、恥ずかしくてフランソワの顔がまともに見られなかった。



「ごめんなさいね、アラン。お祖父様のことは驚かせようと思って内緒にしていたの」

「情けなくて君の顔が見られない。文官としてというか貴族の端くれとして知っておくべき当たり前のことなのに知ろうとしなかった。婚約は解消だろうか?」

青を通り越して白くなった顔をしたアランが言った。


「そんなことあるわけがないわ、貴方と一緒に生きて生きたいと思っているのだから。それに知らなかったということは、王家との繋がりではなく私を見て申し込んでくれたのでしょう?皆計算高かったの、地位や財産が目当てだったわ」


「自分の馬鹿さ加減が嫌になるよ。貴女を支えられる男になりたいと思っていたのにこのざまだ」

「間違えないで、私が欲しいのは本物だけよ。偽物の愛情は要らないの、真っ直ぐな心が欲しいの」

「許してもらえるのかな?これからもっと貴女に相応しい男になるよう努力をすると誓うから」

「勿論だわ。腹の探りあいはこれから身に付ければいいわ。私の言う通りにすれば素敵な旦那様になるから」



フランソワは真面目一方でちょっと抜けたところのあるアランを貴族紳士に育てる作戦を考え始めた。

彼が愛の言葉を覚えてきたのは恋愛本からだった。恋愛小説の中にはハイスペックな男性が、思いを寄せる女性を貶める輩をどんな手を使ってでも消していくという物もあった。それに家には素晴らしい見本がいるではないか。彼を手本にしてもらおう。


にっこり笑ったフランソワをアランがうっとりした目で見つめていた。




※※※




 両親が亡くなった時に葬儀に顔を出したのは欲望丸出しの親戚達だった。

小娘一人組みし易いと踏んだのだろうが、後ろにはお祖父様がいらっしゃるのだ。睨みを利かせて貰うために応接室の一番目立つ所に座って頂いた。後ろには近衛騎士が立っていた。ミルボ伯爵家専任の弁護士カーティスにも同席を頼んだ。

古参の家令のメイナードにもいてもらった。


お祖父様が静かに

「伯爵家をフランソワに継がせる。何か不満がある者は申してみよ」

と仰った。王族の他を圧倒する威圧感が凄かった。それなのに

「フランソワでは領地経営と伯爵家の運営は無理ではないでしょうか。慣れるまで私が代理になりましょう」

と言う馬鹿がいたのだ。十度くらい気温が下がったと思う。


「儂の言うことに不満があると言うのか。フランソワは優秀だ。メイナードと今まで儂が育てていた優秀な文官が補佐に付くのだ。何の文句がある」


お祖父様が言われた時点で命令だというのに分かっていない。逆らったら家が潰されると貴族なら気がつけば良いものを愚か者はまだ言葉を続けようとした。

お祖父様が鋭い眼光で睨まれた。直ぐに何もかも潰されるだろう。

それが王族だ。


それを見ていた他の親戚は青ざめて帰って行った。二度と余計な手出しはしないだろうという確信が持てた。


「お祖父様ありがとうございました。大好きです。精一杯頑張りますわ」

「うん、出来る所を見せておくれ。決して侮られるでないぞ」

「期待に応えて見せますわ」

「泣く暇もないな」

「忙しくしている方が気が紛れますもの」

「ちゃんと食べて眠るのだぞ、病気にならないでおくれ。明日から優秀な男を派遣しよう。それに儂の影を二人付けるとしよう。毎日見に来る訳にいかないからな」




 こうしてフランソワは寝る時間も惜しんで死ぬ気で一年間頑張った。そして喪が明けたので婿探しを始めたのだった。最後まで残ったのがアランだったというわけだ。

お祖父様の許可が出たのだ。信用しても良いかなとこわごわ付き合い始めたら大型犬のような性格だった。穏やかで優しい人だった。もう少し腹黒さがあっても良いと思い教育をすることにした。




クリストフに付いて執務をマスターしてもらった。文官だけあって飲み込みが早かった。

裏から手を回して政敵を潰す方法も、最初は見ているだけから実戦でやれるようになるまで何度も繰り返しやってもらった。


何度か出席した夜会でも周りを飛び回る虫のあしらい方も上手くなった。


「ずいぶん上手になったわね」

「貴女を守るためにはどんなことでもすると決めたんだ」

「嬉しいわ、ご褒美をあげなくては。何が良いかしら」

「貴女の時間が欲しいな。今度一日付き合って」

「わかったわ、どこに連れて行ってくれるか楽しみにしてるわね」

「期待に応えられるよう頑張るよ」

「気楽に考えてくれれば良いわ。一緒なら楽しそう」




 その日、朝から乗馬用の服を着てフランソワはどきどきして待っていた。

愛馬のルリアにはお嬢様時代は乗れなかったが、当主となってから乗れるようになっていた。領地で視察に回る時に小回りが効いて動きやすくすっかり虜になっていた。


身体にフィットした乗馬用はドレスの時と違う女性らしさを引立てていて、メイド達から絶賛を浴びていた。「ご主人様が尊い」と何故かファンクラブが出来上がっていた。


迎えに来たアランも貴公子そのものできりっとしていた。

「お迎えに参りました、私の姫君。さあ出かけましょう」

「今日は遠乗りなのね、久しぶりにルリアに乗れて嬉しいわ」

「私と出かけられて嬉しいと言ってくださらないのですか?」

大型犬が耳を垂れてシュンとしている様でキュンとしてしまったフランソワだった。

「勿論嬉しいに決まっているわ。皆がいるところでは言葉にするのは恥ずかしいのですもの」


「主、いちゃいちゃしてる寸劇も宜しいのですが、少し遠いので早く出発しましょう」

と護衛兼執事のクリストフが言った。


「寸劇って容赦がないわね。分かったわ、メイナード留守をお願いね」

「お任せくださいませ、お気を付けて行ってらっしゃいませ」


馬で一時間程走った所に見せたいものがあるそうでフランソワは心が湧きたった。久しぶりの遠乗りは爽快感があり併走して走る婚約者はやはり美しいと思ったが、危険なので気を引き締め前を向いた。





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