15 フランソワとアラン親になる
読んでいただきありがとうございました!
急いで医師が呼ばれお産が始まった。
陣痛の間隔が短くなり激しい痛みがフランソワを襲った。
エミリーが顔の汗をこまめに拭きアランが背中を擦り続けた。あまりの激痛に耐えきれなくなったフランソワは八つ当たりをしてアランを追い出した。
追い出されたアランは孫娘を心配して来た前陛下と顔を見合わせ、落ち着かないまま扉の前でうろうろと歩き回った。
今まで聞いたことがないくらい大きなうめき声でフランソワが叫んでいた。
「せめてフランソワだけでも無事でありますように」
「ああ、母体が無事なら何も望まない、神よどうか孫を奪わないでください」
その時「おぎゃあ」という赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。
無事に生まれた赤子は男の子だった。
アランは膝から崩れ落ちそうだったが夫のプライドで何とか立つことが出来た。
医師に声をかけられ面会が許された。ベッドで息子を抱いて微笑む姿は苦しんでいたときとは違い聖母のようだった。
「アラン私達の息子よ、抱いてあげて」
赤子は髪はフランソワの金髪を瞳はアランの紺色を受け継いでいた。
妻が命がけで産んでくれた息子は小さすぎてどうやって抱けば良いのか戸惑った。エミリーが
「旦那様そっと抱いてあげてください」
と言って支えてくれた。
「産んでくれてありがとう。フランソワ、何て可愛いんだろう。貴女に似ているね。この子と貴女のために精一杯頑張るよ。前陛下も来られているよ」
恐る恐る入って来たお祖父様は初めてお産の時の声を聞かれたそうだ。
「女性があんな思いをして産んでくれているとは思わなかった。儂に曾孫を抱かせてくれてありがとう、フランソワ」
「これからもよろしくお願いしますね、お祖父様。長生きしてくれないと嫌ですわよ」
「分かった、せいぜい長生きして見守ることにしよう」
「この子に名前を付けてくださいませ」
「エリックだ。儂の祖父が同じ名だ。祖父は穏やかで優しく剣にも優れていた。愛妻家でもあった。良く可愛がって貰ったものだ」
「エリック、私たちがお母様とお父様よ。それから偉大なあなたの曾祖父様よ」
「大祖父様と呼ばせようか、長生きはするものだな」
「お祖父様はまだお若いです。年寄りのようなことは言わないでくださいませ」
「期待に添えるよう頑張って身体を鍛えよう」
医師が母体に障りますと言ったので面会はお開きとなった。
フランソワは生まれたばかりの我が子が乳首に吸い付く自然さに感動してしまった。生まれながらに分かっているものなのだなと。
エリックは昼も夜もよく寝る子だった。お腹が空くと泣きおしめが濡れると泣いた。母や父の顔が分かるようになるとよく笑うようになった。
フランソワに抱かれれば小さな腕を一杯に伸ばし顔に触ろうとし、アランに抱かれればもっと揺すれと言うように腕の中で身体を動かした。
首が座るようになると高く持ち上げて貰うのがお気に入りになった。
曽祖父にも笑いかけ直ぐに虜にした。
乳母やメイドにも慣れ、皆に抱かれあやされすくすくと育っていった。
「葡萄の木が今年は実を結びそうだよ」
「今度はワイン造りの専門家を招かないといけないわね。エリックの為に甘い葡萄が実る木をタウンハウスの片隅に植えようかしら」
「領地の専門家にタウンハウスに来てもらおうか」
「それは良いわね。アランが毒に侵されたときのことを昨日のように思い出すわ」
「あれから剣の腕は上げたよ。二度とへまはしない。訓練は続けるつもりだ」
「私達の契約書なんだけど書き直してもいいかしら?」
「貴女を裏切ってはいないよ、この先もずっと裏切らないと誓うから捨てないで」
「そんな顔しないで、あの時は結婚自体が怖かったの。候補者は酷い人ばかりだったから、小娘ごとき裏切られるんじゃないかって不安で一杯だったの。恐る恐る付き合ったアランはほっと肩の力が抜けるような人だった。ありがとう私と結婚してくれて。契約ではなくきちんと結婚して欲しいの」
「私から言いたかったよ。フランソワどうか僕と結婚してください」
「はい、宜しくお願いします」
「今日は間に合わなかったけど指輪と花束は今度ちゃんとプロポーズする時に用意するね」
「楽しみにしてるわ」
「父さま母さま僕も抱っこ」
三歳になったエリックがフランソワの膝に飛び込んできた。
「可愛いエリック愛しているわ」
「父さまも愛してるぞ」
「へへ、ぼくも父さまと母さま大好きだよ」
エリックがフランソワの頬にチュッとキスをした。それを見たアランも負けじと反対の頬にチュッとキスをした。
「お返しよエリック」
「お返しだエリック」
両親のキスはエリックを最高に幸せな気分にしたのだった。
これで最終回になります。お付き合いくださいまして有難うございました。
又お会いできますことを願っております。




