14 アラン目覚める
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お祖父様に先触れを出して会うようにした。ミルボ伯爵家に戦いを挑んできたのだ。受けて立つ他ない。
三日後に伯爵家に来てくださるという。
炭のお陰か解毒剤が良かったのか熱が引いてきた。息が穏やかになり楽に眠っているように見えた。王宮の医師も峠は越えたと言ってくれた。
一日何度も様子を見に行くのが習慣になってしまった。手を握り話しかける。
「アラン、早く目を覚まして。もうすぐ冬にるわ、真っ白な雪が降ってくるのよ。初雪は貴方と見たいわ」
「奥様お身体に触ります。お昼寝の時間でございますよ」
「エミリー、眠くないわ。全部の部屋に暖房の用意は出来ていて?この部屋にも暖房を入れないとアランが風邪を引くわ」
「ご安心ください。出来ておりますよ」
「屋敷全体が温まる暖房器具があればいいのに、皆が寒くないようにしたいわ」
エミリーはより儚げになったフランソワが心配になった。午後から前国王陛下が来てくださる。旦那様が早く意識を取り戻し、元のように元気を取り戻していただきたいものだと願った。
「伯爵様、前陛下がおいでになりました」
メイナードが呼びに来た。楽な妊婦服のフランソワは上等なものに着替え、応接室に向った。
「お祖父様、来てくださって嬉しいわ。お会いしたかった」
と言うと抱きついた。安心させるように孫娘を抱き締めた祖父は
「大変だったね。心細かっただろう。犯人は分かったよ。もう捕まえて一族郎党牢に入れてあるから安心しなさい」
と言った。
「お祖父様、流石です、お仕事が早いですわ。アランはまだ目が覚めませんの。蛇の毒ってそんなに酷いものだと思いませんでしたわ」
「もうすぐ覚めるよ、王宮に研究資料があった。即死するような猛毒もあるようだが、それではなくて幸いだった。良い薬を飲ませているはずだ。犯人を聞きたいかい?」
「多分父の弟だと思いますがどうでしょうか」
「当たりだ。察しが良いね。アランが死ねばフランソワがショックを受けて流産すると思ったらしい。その隙に入り込もうとしたようだ」
「こんなに大きくなっておりますのよ。流産はしませんわ。早産はあるかもしれませんが。馬鹿なのでしょうか、葬儀の時にお祖父様に手を出すなと叱られたというのに」
「あの時見せしめに反抗した者は潰しておいたのに分かっていなかったのだな。暫く牢で痛めつけて処刑しよう」
「お祖父様がいてくださって良かったですわ。どうやって潰そうかと考えておりましたの。そんな悪意この子に良くありませんわね」
「そんなことはない。貴族なんて腹黒くなくてはやっていけないからな。お前を守る為には必要だ。その子も順調そうで良かった」
「産まれるまでに目を覚ましてくれると良いのですが」
「大丈夫だ、お祖父様を信じることだ」
「そうですわね、ありがとうございます、お祖父様」
「メイナード、クリストフ、エミリーそして影たち、フランソワを頼んだぞ」
「「「御意」」」
それから二日後フランソワがアランの寝室を訪れた時、閉じられていた瞼が薄く開いた。
「フ、フラン ソワ」
「アラン気がついたのね。水を飲む?少しずつね」
「 お い し い。ぼ ぼく は 一体 どうしたんだろう?」
「領地へ行った帰りに襲われたでしょう?賊を切り捨てた後、破れた手袋から相手の剣先が手のひらを切ったの。剣に毒が塗ってあって今日まで眠ったままだったの。良かった。ニ週間眠ったままだったわ。お腹空いてないかしら。スープ食べられる?」
「うん、赤ちゃんはまだ生まれてない?」
水を飲んで喉が潤ったアランはスムーズに話せるようになった。
「パパが目が覚めるのを待っているみたい。予定日は後一月よ」
ベルを鳴らしてエミリーを呼びスープを頼んだ。
喜びの知らせはあっという間に屋敷中を駆け巡り皆の知ることとなった。
フランソワは影を使いお祖父様に知らせを出した。
アランは柔らかな粥から徐々に固形食が食べられるようになり、体力を回復していった。ずっと寝ていたため歩くことが不安定だったが両脇を護衛に支えて貰いリハビリに力を入れた。
一人で立てるようになると部屋の壁を伝って歩く練習をした。それが上手くいくようになると廊下を伝って歩く練習をした。
若いだけあり目にみえて訓練の成果が表れた、一ヶ月もするようになると元通り動けるようになった。
これを教訓にもっと剣の訓練に励む事にした。
初雪はサンルームでフランソワが冷えないように、暖炉の近くのソファーで二人寄り添って見ることが出来た。ひらひらと舞い落ちる雪は地面に落ちる前に溶けて消え淡い世界を見せてくれた。
「初雪をアランと一緒に見られますようにと神様にお願いしていたの。叶って良かった」
「心配をかけたね。もう大丈夫だ」
しっかりとフランソワの肩を抱きながら言った。
そんなある日ついに陣痛が始まった。それは最初は直ぐ治まり時間を追うごとに激しいものになっていった。
「フランソワ、大丈夫だから」
という声が聞こえて来たが痛さのあまり何も言えなかった。




