13 アラン襲撃される
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フランソワの悪阻は半年を過ぎると楽なものになった。食事も普通に採れるようになった。
季節は秋になり暑さも和らいだので庭を散歩するのが楽しくなっていた。
空は高く青空にぷかぷかと雲が浮かんでいた。色とりどりの薔薇やダリア、ガーベラが目を楽しませてくれていた。
相変わらずアランは過保護で散歩をしていると飛んできて転ばないように手を添えてくれた。
「心配しなくても転んだりしないわ。もう体調も良くなったの。執務も出来るようになったから一緒にいられる時間が増えるわ」
「嬉しいけど無理はいけないよ。毎日昼寝はしないとね」
「この子のお陰で子供の頃以来のお昼寝が日課になったわ。アランと一緒だと夜もぐっすり眠れるし。二人に感謝ね」
アランの蕩けたような笑顔が可愛く思えるフランソワだった。
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フランソワのお腹がいよいよせり出し、冬が近づいて来た頃領地から悪い知らせが届いた。
初夏に葡萄の葉が黄色くなり病気だと思った農民は消毒をしたり、葉を取り除いた。一応治まったが夏に雨が少なかったので木に元気がなくなってきた。水不足が響いたのだろうと専門家に言われ、井戸を掘り水をやったり株元の剪定をして風の通りを良くしたが、このままでは枯れてしまうかもしれないので大胆に剪定をしてもいいだろうかという手紙だった。
最初から上手くいく理由がないと思っていたフランソワは、現地の判断に任せるから宜しく頼むと返事を書いた。良くやってくれたという一文を添えて。
「良くやってくれたと直接言いたかったけど来年にするわ。この子も連れて行けるようになっているかもしれないし」
大きくなったお腹を撫でながらフランソワはアランに微笑んだ。
「私が行ってこようか?実際どうなっているか見てみたいし。農民に直接声をかければ元気が出ると思う。終わったら直ぐに帰って来るよ。一週間留守にするだけだ」
フランソワはいつも傍にいてくれる当たり前の存在が一週間だけとはいえ離れてしまうことに寂しさを覚えた。
「護衛を連れて行ってね」
「ああ、貴女が心配だから早く帰って来るから待っていて」
こうしてアランは護衛三人と馬で領地まで出かけて行った。
領地に着いたアラン達は馬を厩舎に預けて、本邸で汗を流し、お茶を飲むと領地の馬で視察に出かけた。
以前見た青々としていた木々は元気がなくなっていた。村長が申し訳なさそうに
「申し訳ありませんでした。手を尽くしたのですが」
と言った。
「やれる事はやったと報告が来ている。最初から上手くいく訳がない。ここまで良くやってくれた。病気になっている枝は切り落として構わない。雨ばかりはどうしようもないからな。来年も頼むぞ」
「もったいないお言葉でございます。精一杯励みます」
「根から腐らなくて良かったくらいだ。専門家というのはずっといてくれるものなのか?」
「いえ、他も回っておられるようで三ヶ月に一度くらい顔を出されます。病気の診断や消毒のやり方を指導していただくんです」
「葉が黄色くなった時は居たのか?」
「はい、でも初夏が一番病気になりやすい時期だそうで、指導されるとあっという間に次に行かれました」
「なる程な、じっくり腰を落ち着けてくれる専門家が必要だな。探してみよう」
「ありがとうございます。そう言っていただくと助かります」
「ここで出来た葡萄でワインを造って王都のレストランで出したいという夢があるんだ。話しすぎた、あくまで夢だ。責任は感じなくて良い」
「今できることをやっていこうと思えました。他の者も同じ気持ちです」
「頑張ってくれているのを褒めに来たのだ、安心してくれ、これからも頼む」
村長は良い婿様が来られたものだと本邸に帰られる後ろ姿を見送った。
その夜は本邸に滞在しゆっくり風呂に入りご馳走と酒で歓迎された。アランは酒が強かった。飲んでも顔に出ない。
朝早く帰るつもりのアランは護衛達に酒を出したが、悪酔いしないように釘を刺した。帰りにもし襲撃でもあれば危険だからだ。
護衛達も奥様が心配な主の気持ちが分かっていたので程々のところで切り上げた。
人はもちろん、馬も良く手入れされ元気を回復していた。
アラン達は本邸の使用人に見送られ朝早く領地を出発した。簡単に朝食を摘んだが、途中で食べてくださいとシェフがローストビーフやチーズとハム、豚肉のカツのサンドイッチに珈琲を詰めて持たせてくれた。
途中の休憩地点で皆で食べたのは言うまでもない。珈琲で眠気が飛び元気が出た。
オレンジ色の夕闇が迫る頃襲撃された。林の中から賊が出てきたのだ。
全身が黒い装束を纏っていた。数人いただろうか。
「ミルボ伯爵だな、死んでもらおう」
「何故私を狙う、金か」
「頼まれただけだ、悪く思うな」
賊は激しい打ち合いの末切り捨てることが出来たが、死んでしまい黒幕を吐かせることが出来なかった。
アランは手袋を切られ掌を切られただけで無事だと思われたが、剣に毒が塗ってあったらしく身体を思うように動かせなくなってしまった。護衛達は毒が付いていると思われる手を、持っていた水で洗い流し消毒をして急いで医者に診せるため宿に向った。
賊が持っていた剣も袋に入れ用心深く持ち帰ることにした。毒の種類が分かれば解毒に役立つと思ったのだ。
宿に呼んだ医者に解毒剤を飲ませて貰ったが、中々高熱は引かなかった。
医者は炭を潰し水と一緒に飲ませた。護衛は伯爵様に急いで伝令を出した。
驚いたフランソワは伯爵家の馬車に王宮の医師とクリストフを乗せ迎えを寄越した。
毒は田舎によくいる蛇から作られた物だった。
アランはまだ目を覚まさない。フランソワは犯人を付きとめて潰してやろうと怒りに燃えた。




