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12 フランソワ妊婦になる

読んでいただきありがとうございます

 フランソワとアランは観劇に来ていた。近頃人気の恋物語だった。

敵対する家同士の令息と令嬢が恋に堕ちてしまい、追い詰められた二人が考えたのが、令嬢の心臓が一時的に止まる魔法の薬を飲んで仮死状態になり、葬儀の後埋められた棺を令息が掘り返して二人で駆け落ちするというものだった。



お互いの家がいがみ合って喧嘩が絶えない中、束の間の逢瀬がすれ違うだけのものだったり、夜会会場で遠くから見ているだけだったりと切なさを押し出した演目だった。俳優達の演技が素晴しく墓を掘り起こした後、抱き合う姿は涙無しでは観られなかった。


フランソワも涙なしではいられずハンカチで目元を何度も押さえた。


「素晴らしかったわ」

「そうだね。これから食事に行こうと思うんだけどどうかな」

「余韻に浸る時間はもう少し欲しいけど良い提案だわ。その前にエミリーに顔を直して貰わないと」

「ここで直させよう。きっと化粧室はそういう御婦人で満員だと思うよ」

話しているうちにエミリーが席までやって来た。

「せっかくのお化粧が崩れてしまいましたね、さっと直しますからね。さあ手鏡をお持ちになってくださいませ」

「素敵なお話だったわね、ちゃんと観れた?」

「はいおかげさまで楽しませていただきました。さあ綺麗になりましたよ」

「次はレストランなの」

「護衛達とお待ちしておりますからゆっくり楽しまれてくださいませ」

「ありがとう、差し入れをするから楽しみにしていてね」

「もったいないことでございます」

「家族のような存在だもの大切にしたいのよ」

「幸せ過ぎて泣けてきます」

「あなた達がいてくれたから心細くても頑張ってやってこれたの」



アランが連れてきてくれたのはミルボ家が経営するレストランで、最高級の牛肉のフルコースが楽しめるところだった。前菜からスープメインディッシュのステーキやデザートのアイスクリームに至るまでミルボ領のものが使われていた。


「美味しいわ、食材が家の領の物ばかりじゃないの。どうやって運んだの?」

「流石にすぐに分かったね。レストランの食材だけ大きな氷の箱に入れて運んだ。アイスクリームはあちらで作ってから氷の中に入れて溶けないようにして持って来させた。多少は溶けたがこちらで少し手をかけてやれば元通りだった」


「素晴らしいわ。護衛達が食べているのはステーキの切り落とし部分で作った焼串なのね。豚も良いわね。レストランで高級感を出すために豚肉のメニューの工夫を頼まなくてはね。アランがレストランを出したいと頑張っていたのは知っていたけどここまで素敵だとは思わなかった。私も経理を見せてもらってもいいかしら」


「もちろん、自信があるから是非見て欲しい。その内葡萄の木が実を付けるようになるだろう?自家製ワインが出せるようになれば素晴らしいと思っているんだ」



「直ぐに実が生りそうな木を買って、指導者も来てもらっているのだけど中々成果は出せないでしょうね」

「聡明という言葉は貴女の為にあるようだ」

うっとりした目をしたアランが囁いた。

「もっと賢い方は多勢いらっしゃるわ。人に聞かれたら恥ずかしいからそういうのはやめて」

赤くなったフランソワが抗議を上げたが可愛いだけだった。








レストランの切り落とし肉で出来た焼串はあっという間に評判を上げ、平民街で小さな店を出すと直ぐに売り切れるようになった。

騎士達の小腹のお供に丁度良いようで、しょっちゅう騎士が訪れるのでいざこざからも守られていた。








フランソワはこの頃やけに眠くて仕方がなかった。気持ちの悪さもあり横になっていることが多くなった。心配したアランとエミリーは医者を呼んで診て貰うことにした。昔から伯爵家お抱えのおじいちゃん医師は


「月のものが最後にあったのは何時ですか?」

と尋ねた。

「三ヶ月前です」

エミリーが代わりに答えた。

「おめでとうございます、ご懐妊です。眠いのも気持ちが悪いのも悪阻です。良く眠られて欲しい物を召し上がるように気を付けてあげてください」

感動したアランがフランソワを抱きしめながら

「ありがとう、僕達の子供が出来るんだね」

と涙ぐみながら言った。


エミリーから懐妊の知らせは屋敷中に直ぐに知れ渡った。使用人達はこの嬉しい知らせに万歳をした。



「お祖父様にもお知らせしないと、エミリー便箋と封筒をお願い」

「はい、直ぐに。お喜びになりますね、飛んで来られますよ」

「ふふ、そうかもしれないわね」

フランソワは優しい祖父が一段と甘い顔になるのが楽しみになった。




アランは過保護になり、屋敷の中を移動するのもお姫様抱っこをしたがった。

専属侍女もエミリーの下にリネアというクリストフの妹を付けた。リネアは

素朴で素直な良い娘だった。初めてフランソワにあったリネアは妖精のような

奥様に見とれて直ぐに忠誠を誓った。



純朴な妹が何か失敗でもするのではないかと冷静なクリストフが気にかけているのも見ていてほっこりした。

エミリーが

「クリストフ様、最初は誰でもミスがあります。でもリネアにはそれを繰り返さないという長所があります。何より伯爵様に憧れていますので良いメイドになります」

「そう言って貰えると安心する。宜しく頼む」

クリストフは甘くなった兄の顔を引き締めエミリーに一任した。




お祖父様は予想通り外国産の珍しい果物を色々取り寄せて、喜び勇んで来てくださった。


「フランソワ良くやった、曾孫が見れるかもしれないなんて儂は幸せ者だ。身体を大事にするのだぞ」

「はい、お祖父様。必ずや可愛い曾孫をお見せしますわ」

「影と護衛を増やそう。儂の息がかかっている者だから安心するが良い。毒見役も派遣しよう」

「大げさではないでしょうか」

「何かあれば夜も心配で眠れなくなる。儂のためだと思って我慢してくれ。食器もカトラリーもこの際全部銀製の物に新しくしよう」

「分かりました、お祖父様の言う通りにしますわ。安心して長生きしていただかなくてはいけませんもの」

「毒見役はクリストフに迎えに来させてくれ。万が一があっては困るからな」

「分かりました。アランといいお祖父様といい過保護が揃っていてこの子は幸せですわね」

「まだ見ぬ子よりお前が大切だよ、フランソワ」



そう言うとお祖父様は名残り惜しそうに帰って行った。







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