再調査
あの衝撃的な光景を見た日から3日がたった。亀裂に関する研究は今のところ例の巨大生物について、というところに完全にシフトしており、あの時持ち帰った写真などから様々な推測がされている。
地震の被害についてはやっぱり何も情報がない。この施設内ではけが人が数人いたのに、地上での被害が0なのはやっぱり不自然だが、ないというならないんだろう。被害があるなら子供たちの様子を見に地上にいったん戻ることも考えたが、その必要はないようだ。
「マスター、研究科長からメッセージが届いてます」
個人研究室の椅子に座っていると、机に置いていたAIスピーカーに入っている不定形電脳体のメティスがそう言ってきた。
「要約してくれ」
「明日、例の亀裂の調査を再度行うので参加してほしいそうです。これは行くべきでは?」
あそこにもう1度行くのか……。
「そうだな、ぜひ参加させてもらいたいと返信しておいてくれ」
「了解しました」
あの生物への恐怖が頭をよぎったが、それに勝る好奇心により俺は再びの参加を決意した。
「返信完了です」
このメティスは、今は亡き旧友が製作した、人格を持った人工知能を受け継いで完成させた自立人工知能、「s-s AI」(Self-sustaining artificial intelligence)だ。外部からの支援を必要とせず、自立して様々な情報処理を行うことができ、備わっている人工意識によって幅広い面で俺の手助けをしてくれる。不定形、つまりデータとして存在しているので、接続してある電子機器間を基本的に自由に出入りすることができ持ち運びに便利だ。メティスとしては今入っているスピーカーの中がお気に入りなようだが。
「……なあ」
「はい?」
業務が終わって研究室に帰り、俺が声をかけるとメティスは気の抜けた返事をした。スリープ中だったようだ。
「地上の被害、やっぱり無いのか?」
「何度も確認しましたけど、公式に発表されてる被害状況に何も書いてないんですから、まあ何もないんじゃないですか?」
……まあ、これ以上待っても被害の確認とかはないだろうな。
「よし、じゃあ明日に向けて潜水艇のオプション整備すっか」
「頑張ってくださいねー」
スリープに向けて小さくなっていくメティスの声を後ろに聞きながら、俺は扉を閉めた。