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初めての会合

 スーツ姿の男がレコードに手をかける。今日はひどく疲れた。日本国の第100代内閣総理大臣、針生宣親は腹を立てていた。財務大臣の山野氏の反社会的組織との関係は全く知らなかった。針生氏が民治党の総裁に選ばれ、内閣総理大臣に指名されたのはちょうど一か月前。前人社党内閣の総務大臣、市井孝信氏の数年前から国内でも問題視され始めていた宗教団体との関係が明るみになり退任へ追い込まれ、総選挙にて政権を20年ぶりに奪取。ここ数か月必死になってつかんだこの地位がたったのひと月で揺らいでしまうとは。今日の国会では任命責任について厳しく追及された。あんなに生気がなかった人社党の奴らも嬉々として詰めてきた。そもそも大臣の指名の時だってしつこく確認をとった。彼はあんなにやましいことはないと言っていたのだ。明らかに私に非はない。野党だけならまだしもマスコミまであんなにしつこく…。何度思い返しても腸が煮えくり返る思いだ。

「ひと月か…。」

針生氏は大きくため息をついた。世の中はとても便利になった。スマホ1つで音楽が聴ける時代になったのだ。針生氏が小さい頃はスマホはおろかCDすらなかったのだから。しかしいくら時代が変わろうと針生氏にとってはレコードが一番落ち着く音楽媒体であった。レコードに針を落とした針生氏はソファーに腰を掛け、たばこに火をつけた。まもなくFoxy Devilのイントロが流れてきた。かかとで軽くリズムを刻みながら煙を吹かす。とっくに日付が回っていた。あと数時間もたてばマスコミが山野氏をメディアで大きく取り上げるだろう。野党なんかは不信任案でも出してくるのだろうか。最悪だ。

「最短記録かな。」

ボヤキは煙となって部屋に漂う。

 そんな時だった。突然部屋の電話がなった。

「誰だよ、こんな時間に。」

世の中の首相は夜中の1時は寝ているのだ。針生氏はしかとしようとした。しかしなんとなく嫌な予感がした針生氏は受話器をとった。どうせ出ないなら出ないでなんか言うんだろ。

「もしもし、針生です。」

電話の向こうは意外な人物だった。

「Hello,Mr.Haryu.」

ロナルド・ケリー氏はアメリカの現大統領だ。これにはかなり驚いた。

「どうしたのですか。こんなにいきなり。」

まさか、山野氏の件がアメリカにまで伝わったのか。不安がつのり口を開きかけたが途中で言葉を飲み込んだ。ケリー氏が答える。

「君はダークマターについて知っているかい。」

ダークマター。ずっと昔、幼いころに読んでいたSF小説の中に出てきたような気がする。いや、それは小説の話だ。言わばファンタジーだ。

「いえ、初耳です。」

ケリー氏は一段と声を落とす。

「そうか。実は地球が本来の軌道を逸れて、そのダークマターという領域に入ってしまったらしいんだ。」

本当に宇宙がらみだったんだ。

「ダークマターに入るとどうなるんです?」

「わからない。ただ何が起きてもおかしくないらしい。」

あまりにもアバウトだ。しかしケリー氏の口調からとても危険だということは分かる。

「あの報道すべきですか?」

これ以上マスコミや野党に詰められるのは御免だ。しかしその一方でこの一件で山野氏のスキャンダルが打ち消されるのでは、という密かな期待感があるのも事実であった。

「あぁ、それなら。このあとNASAが会見を開く。その後のことは各国に任せる。もっとも、対応のしようがないがな。日本にも優秀な研究機関があるではないか。少し話を聞いてみてはどうだ?」

ケリー氏は最後に日本語で、オヤスミ、と言って電話を切った。ほかの国にも報告しているのだろう。針生氏はソファーに腰を掛けなおした。空は白み始めていた。JAXAから電話がかかってきたのはそのすぐ数分後であった。


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