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5話 わかりやすい奴


 昨日は散々な目にあった……

 後悔と恥ずかしさから頭を抱える。

 なぜ、あんな茶番に付き合ってしまったんだ……

 ため息をつきながら教室に入り、自分の席につく。


 「藍崎ー。昨日は付き合ってくれてありがとうな」


 顔を上げるとそこには、満面の笑みの観月さんがいた。

 不覚にも少しドキッとしてしまう。


 「いやー、とてもいい笑い話になったから、誇っていいぞー」


 「僕からしたら、ただただ不名誉だ!」


 前言撤回!

 沸々(ふつふつ)と怒りが湧き上がってきた。


 「でも、悪いなって私も思ってるんだ……」


 今まで見たことがないほどにしおらしくなりながら彼女は呟く。

 まぁ、反省しているなら許してあげてもいいんだけどね!


 「クラウチングスタートじゃなかったから参考にならなかったんだ……」


 「それは、僕に対しての詫びになってないから!」


 やっぱりだめだ。

 どうにも観月さんとは話が合わないようだ!

 



 「そういえば、直に球技大会があるけど、なにに出るつもりなんだ?」


 急に小声になり、周りをうかがいながら僕の耳元でささやく。

 僕の通っている高校では親睦しんぼくを深めるためか、四月早々にクラス対抗の球技大会が行われる。

 今回の競技はソフトボール、ゲートボール、バスケの三つがあるのだが、まだ決めあぐねていた。


 柊一と杏の二人と一緒に出るつもりでいるのだが……

 まだ、話し合いすらしていない。

 というよりも、そもそも観月さんの質問に答える義理もない!


 「ど、どうだろうね? それはお楽しみにという事でいいんじゃないかな?」


 特に、意味もないのに勿体ぶって答える。

 人生において、これ以上ないくらい無駄な駆け引きをしている。

 その言葉を聞き、彼女は更に顔を近づけ、僕の耳元で囁く。


 「教えてくれたら、美桜に口添えしてしてあげるんだけどなー」


 観月さんはにんまりと笑いながら僕の顔を覗き込む。

 なんて卑怯ひきょうなんだ……

 春咲さんという、僕の弱みに漬け込むなんて……


 「ソフトボール……ソフトボールに出る予定だよ!」


 僕は、なにも考えずに宣言していた。

 まぁ、どれもろくに経験がないから同じようなものだしね!

 三つの中なら一番マシだろう!


 「そうなんだ、あとは任せとけよー、大船に乗ったつもりでなー」


 そう言いながら背を向ける彼女に僕は疑問をぶつける。


 「どうして、球技大会について聞いてきたの?」


 最初から気になっていたのだ。

 こんなことを聞いても、観月さんにはなにもメリットはないはずだ。

 んーと首を傾げた後に彼女は言葉を紡いだ。


 「藍崎のことが気に入ってるからかな? まぁフィーリングってやつ」


 そう言いながら彼女は屈託くったくのない笑みをこちらに向けてきた。

 色々と腹が立つことはあったけど、率直に言って……満更でもない……


 「アホっぽいところとか、特にたまんないなー」


 「それは、お前のせいだ!」


 さっき湧き上がった気持ちは気のせいだったようだ!

 こいつといると、振り回されてばかりだな……


 観月さんが自席に戻ろうと僕から離れると同時に強い視線を背中に感じた。

 気のせいかな?

 振り返っても、原因を突き止めることはできなかった。




 「柊一、杏、球技大会で僕とソフトボールにでない?」


 休み時間、いつも通り柊一の席に集まった際に話を切り出した。

 折角なら親しい友人たちと一緒にでたいしね!


 「どうして龍斗はソフトボールをやりたいの?」


 杏は小首を傾げ、質問してきた。

 ただ、そんな質問されても真っ当な理由は存在しない!

 今すぐそれらしい誘い文句を捻り出せ! 僕!


 「僕はクラスのために絶対に勝ちたいんだよ! 僕らがでれば絶対に勝てる気がするんだ…… 僕に力を貸してくれない?」


 勝てるかどうかはわからないけどね! と言いながら杏はうなずく。

 僕でもびっくりするくらい、まともな理由を言った気がする。

 動機はこれほどまでによこしまなものなのに!


 「龍斗、お前は本当にそう思っているのか?」


 柊一は僕を鋭い眼光で睨みつける。


 「も、もちろんだよ!」


 緊張からか声がうわずってしまう。

 はぁーとため息をつき、柊一は言葉を発した。


 「お前は春咲と同じ競技にでて、少しでも格好つけたいだけだろ?」


 背筋から冷や汗が噴き出る。

 なんで、バレてるんだよ……


 「わかりやすいやつだな。普通に言えば力くらい貸してやるさ」


 柊一は淡々と言葉を続ける。

 持つべきものは友だな……


 「お前の醜態しゅうたいを周りにさらすためなら、さらに好きな人の前で恥をかきたいのなら、惜しみなく協力するさ」


 うん、やっぱりこいつは悪魔だ!

 こいつを誘ったのは失敗だった気がするが、もうしょうがない……

 ただ、柊一の言う、醜態を晒さないためにも少しでも練習をしようと心に決めるのだった。


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