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12話 料理対決


 向こうに行けと言われたために女性陣を残して僕たちは周りを散歩していた。


 「誰が一番美味しいのを作れるかな?」


 僕は純粋に疑問に思った事を呟いた。

 杏は誰なんだろうね? と同調してくれる。


 「柚花の飯は美味いが、春咲も観月もそれなりに料理はできそうだがな」


 柊一はそっけなく答える。

 いやいや、春咲さんは置いておいて観月さんが料理ができるとは到底思えない!

 それよりもその口ぶりは何度も待雪さんの料理を口にしている事を意味している。

 このまま、この土地に埋めてやろうか?


 「待雪さんはどんな料理を作ってくれるの?」


 「そうだな…… 色々あるが俺の弁当は毎回作りやがるな」


 杏の問いかけにぶっきらぼうに柊一は返答する。

 この野郎、その有り難さを全然分かっていない!




 三人で敷地を一周して戻ってくると既に前菜を作り終わった後だった。


 「ジャンケンで決めた通り、私から」


 そう言いながら待雪さんは三人の前に小皿を並べる。

 お洒落な盛り付けに鼻腔をくすぐるレモンの香り、カルパッチョである。

 バーベキューの場らしく牛ヒレ肉が使われており、見た目の美しさは圧巻の一言である。


 「いただきます!」


 三人の声が重なり、一斉に食べ出す。

 味付けは塩胡椒とレモン汁というシンプルな組み合わせではあるが、限られた中からこれほどまで美味しいものができるのかと驚嘆する。

 見た目も含めて完璧である。


 「待雪さん、とても美味しいよ!」


 「本当に! お店のものと言われても驚かないよ!」


 僕と杏の賞賛に待雪さんは照れ臭そうにしている。

 その仕草がいかにも女の子らしくて可愛らしかった。


 「二人ともありがとう。 柊一はどう?」


 「ま、まぁ、特別に美味いというわけでもないが、いいんじゃないか?」


 柊一は少し動揺しながら答える。

 なんだ、この空間は?

 何故かぶち壊してやりたくなるな……


 「……ありがとう」


 待雪さんは本当に嬉しかったのだろう。

 俯き加減ではあったが、そこから見えた赤く染まる頬と笑顔はあまりにも破壊力が高く、僕が耐えられなかった。




 「じぁあ、次は私だなー」


 そう言いながら一歩前に踏み出したのは観月さんだった。

 正直、僕は凄く不安だ……

 だってあの観月さんだよ? まともな物体であれば御の字だ。


 どうぞーと言われながら目の前に出されたものは普通のサラダのように見える。

 少し生臭い匂いがするがおそらくアンチョビのせいだろう。


 「アンチョビやツナ、オリーブも入ってるなんて、だいぶ手が混んでるな」


 柊一は頷きながら目の前の物体を口に放り込んでいく。

 杏もそれに続いている。


 「買い出しの時に色々買ったからなー。使わなけりゃ持ってかえるし」


 確かに大量に買ってるなとは思ったが、まさかこんなものまで買っていたとは……

 もしかして、BBQというものを知らないのではないか?


 まぁ、取り敢えず、この物体を食べている二人は大丈夫そうだ。

 僕は意を決して口に含んだ。


 「あ、藍崎のやつはこの中で特別なんだ」


 「そうなんだ、どのへ……」


 僕は鼻を抜けるツーンとした感覚に思わず吐き出した。

 一体、これ何なんだ?

 

 「お、思い切って、ワサビを大量に入れてみたんだ!」


 「君は馬鹿なのかい!」


 僕は無意識のうちに叫んでいた。

 観月さんの方を見るとなぜかモジモジとしている。

 本当に何なんだこの状況は?

 



 「最後は私ですね……」


 そう言いながら料理を出そうとする彼女には、普段からは考えられないほどの気迫がこもっている。

 おそらく、とても緊張しているのだろう……

 僕も思わず唾を飲み込む。


 目の前に現れたのはプチトマトとオレンジといったシンプルな料理だった。

 見た目は間違いなく美味しそうだ、美味しそうだが、この世のものとは思えない香りが漂っている。

 言葉通りに一味違うと言ったところだろうか?


 「み、観月さん、このりょ、料理にはどんな味付けをしたのかな?」


 「黒胡椒にオリーブオイル、あっ、バルサミコ酢も入れさせてもらいました!」


 なぜ、こんなところにバルサミコ酢があるのかは不思議でならないが、それだけでこの香りがだせるとは到底思わない!

 絶対にまだ言っていないものがあるはずだ!


 「そうなんだ、ほ、本格的だね。ほ、他にはないの?」


 もう、動揺を隠すことができていない。

 この料理は危険だと、全身がSOSをだしている。


 「ひ、秘密です!」


 春咲さんは大きな声を出しながら、人差し指を口元に持ってくる。

 可愛いらしい仕草なのだが、今は恐怖の対象でしかない。

 そんな僕を見かねて、柊一がアイコンタクトを送ってくる。


 「龍斗、諦めろ。好きな人の料理なんだから、ありがたく噛み締めるべきだろ?」


 確かにここで逃げるという選択肢は存在しない。

 腹を括るしかないか……


 「いっただきます!」


 言うが早いか目の前の料理を思いっきり口に掻き込む。

 その瞬間、意識が朦朧としだし、気づけば気を失っていたのだった。


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