24 大好きな色
建国祭の儀式が終わった後、舞踏会の会場に向かう。
その前に、化粧室へ入るために護衛騎士を遠ざけた。
中には、先客がいた。
王族専用の化粧室にどうやって入ったのか。
緑色の髪を揺らしながら、ブリーゼさんが私をにらみつけた。
「どういうこと? あなたが何かしたんでしょう?! ギルベルト様は私のモノよ! 返しなさいよ! 婚約解消なんて、認めないわ!」
私につかみかかろうと、近寄ってくる。
それを軽くかわして後ろに下がる。
お兄様は、ブリーゼさんとの婚約を解消した。私がリュカ様と婚約したから、ブリーゼさんと結婚する必要がなくなったそうだ。同居の条件がなかったなら、他にも魔力の高い令嬢はたくさんいるからと。
ブリーゼさんは、やりすぎたのだ。
お兄様を愛するあまり、近くにいる全ての人に嫉妬した。
お兄様の同級生に嫌がらせをして、公爵家のメイドに暴力をふるった。
あまりにも度が過ぎる嫉妬に、お兄様は私とのお茶会を中止し、生徒会の仕事に集中した。結婚するまでの我慢だと、ブリーゼさんを見張って、優しい婚約者のふりをした。
でも、それでお兄様は体調を崩した。食事をとれずに、眠ることもできなくなっていた。
「色なしのくせに! 何が聖女よ。みんな、騙されているのよ! ギルベルト様の目を覚ましてあげなきゃ。あなたが消えればいいのよ!」
ブリーゼさんはバッグからナイフを取り出した。両手で持って、私に向かって走ってくる。
「やめろ!」
リュカ様の声と同時に開いたドアが、ブリーゼさんの顔を直撃した。
「聖女様!」
「ご無事ですか!」
護衛達がすぐに化粧室に入ってくる。
床に倒れたブリーゼさんは拘束された。
「聖女様を攻撃するなど!」
「それは聖女じゃないわ! ただの色なしよ! みんな、だまされているのよ! ううっ!」
大声で叫ぶブリーゼさんが、引きずられて連れて行かれる。きっと、厳しく処罰されるだろう。
お兄様は、彼女に付け回されたり、怪しい物を送ってこられることもなくなるだろう。
私のせいで迷惑をかけたお兄様には、こんなことぐらいしかお返しできないけれど。
「アリアちゃん。大丈夫だった?」
リュカ様に、後ろから包み込むように抱きしめられる。
すぐ近くで、私のことを見守っていてくれたリュカ様。
わざとすきを作って、ブリーゼさんを罠にかける作戦を立てたのだけど、護衛達に大反対された。でも、リュカ様は協力してくれた。
私を守るためとはいえ、女性用の化粧室の掃除道具入れに隠れて見守ってくれるなんて。王子様なのに。
「どこも傷ついてないね。ああ、よかった」
リュカ様は私の髪を一房取って、もてあそぶ。
「綺麗だね。俺は今の色が一番好きだよ」
今の私の髪色は、もともとの銀色だ。
リュカ様はこんな色なしの髪を気に入ってくれている。
みんなに不吉だって言われた私の髪色を。
だから、私はリュカ様と一緒にいたいって思う。
この人と一緒なら、きっと私は強くなれるから。
私を見る時の、リュカ様のキラキラした瞳がとてもきれいだから。
「私は、リュカ様の金色がとても好きです」
最近、リュカ様は私のために髪を伸ばし始めた。
聖女になったので、ここで完結です。まだ書きたいことはたくさんあるので、番外編か続編ができればと思ってます。
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