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15 茶色に変えて

「見た物の色に染めることができるんですよね」


 マーサと一緒に糸を売りに行ったら、アンドリューさんに大歓迎されて、別室に案内された。


「貴族のご令嬢から、刺繍糸の注文が入っているのです。自分の髪色とそっくりの糸が欲しいとのことですが、見つからなくて困っていたところです」


 アンドリューさんが言うには、婚約者に自分の髪色の物を贈ることが、貴族の間で流行しているそうだ。つまりは、私にその令嬢をこっそり盗み見て、糸を染色してほしいってこと。


 いつもの10倍の金額を提示されて、私はすぐに頷いた。店員に紛れて、こっそり髪色を見て、その場で糸を染めれば良い。そう言って、マーサが私に渡したのは、茶色のウィッグだった。


「伯母さん! なんて失礼なことを! 申し訳ありません」


 アンドリューさんは、血相を変えて土下座した。


 貴族は髪色を誇りに思っているから、平民の茶色を身につけさせることは最大の侮辱にあたるそうだ。

 でも、私は色なしとして育ったから、そんな特権意識はなかった。むしろ、少しわくわくした。

 マーサから渡された茶色いのウィッグをかぶって、鏡の前に立った。


「! 私、平民になったみたい!」


 もちろん、目は銀色のままだけど、茶色の髪色になった私は、全く別人のように見えた。


「こういうのもありますよ」


 続いて、マーサは灰色のガラスの入った眼鏡を渡してくれた。


 すぐに、それもかけてみる。



 鏡に映るのは、いつも見慣れた自分じゃなかった。


「伯母さん! なんて物を勧めるんですか! お嬢様は貴族なんですよ」


「別に本人が気にしてないんだから、いいんじゃない? まあ、でも、お嬢様の美しさは、こんなものではごまかせないねぇ」


「それは、たしかに。茶色をまとっても、とても平民には見えませんね」


 大きな丸い眼鏡は不格好だったけど、色なしじゃなくなったみたいで、楽しくなる。

 鏡をじっと見つめる。これをつけていると、私は、後ろ指をさされることはなくなるの? 

 平民のふりをして、街を歩くこともできる?


「ダメですよ。お嬢様。こんなに綺麗な女の子が一人で歩いていると誘拐されますからね。平民だと思われたら、不埒な輩が近寄ってきます」


 使用を制限されてしまった。



 でも、店員のふりをして、こっそりと糸を染色するのは、すごく緊張した。


 だって、その令嬢の一人が、ブリーゼさんだったから。



「私の色の糸は用意できてるの?」


「友達も連れて来てあげたわ。学園祭までに飾りひもを作って婚約者に贈るのよ」


「あと、2週間しかないのよ。さっさと出しなさいよ」


 水色、桃色、緑色。

 貴族ならではの髪色の三人の令嬢が、アンドリューさんに命令していた。


 私は接客員の後ろに隠れながら、こっそりと眼鏡をずらして、手の中の糸を染め上げる。

 学園祭で、婚約者に飾りひもを渡すのが流行してるみたいね。


「メイドにいくつか作らせたんだけど、どれもいまいちなのよね。私の髪色と微妙に違ってるの」


「この店には、全く同じ色があるって本当でしょうね」


「私のこの美しい緑色とそっくり同じものを出しなさいよ。ギルベルト様の青髪を飾るのは、私の緑色よ」


 店員にそっと糸を手渡して、こっそりと部屋を出て行く。


 気づかれなかったよね。どうせ、貴族の令嬢は平民の顔なんて見ようともしないんだから。


 隣室に行ってからも、ブリーゼさんたちの声が響いていた。


「このブローチ、いいでしょう? ギルベルト様にもらったのよ。私は、とっても愛されているの。このリボンもね、ギルベルト様の色よ。ほら、きれいな青。 私には青色だけを身に着けてほしいんですって。ギルベルト様の愛が重くって、困ってしまうわ」


「全身、青色で素敵だわ。さすがは、未来の青の公爵夫人ね」


「毎日、遅くまで、ギルベルト様の生徒会が終わるのを待ってるんでしょう? ブリーゼ様は、とっても献身的なのね」


「まあ、うふふ。ギルベルト様はね、いつも私を心配してくれて、待たずに帰るようにって言ってくれるのよ。私と早く結婚したいんですって」


「本当に仲が良い婚約者同士で、うらやましいわ」


「そうなのよ。最近は、ギルベルト様ったら、ずっと私のことを見ててくれるのよ。前みたいに、他の女生徒と話をすることもなくなったしね」


 ブリーゼさんはギルお兄様とずっと一緒に過ごしているんだ。

 私には、契約結婚って言ったのに。

 子供を生ませて閉じ込めるなんて、ひどいことを言ってたのに。

 本当は、プレゼントを贈り合う仲の良い婚約者同士だったの? どういうこと? もしかして、お兄様は、私に嘘をついているの?


 もう、わけが分からなくなった。

 二人の結婚をやめさせなきゃいけないって思ったけど。

 でも、二人はうまくやってるんじゃない?

 ブリーゼさんはとても意地悪だけど、ちゃんと友達もいる。


 もしかして、意地悪するのは私にだけ?

 私が不吉な色なしで、お兄様に迷惑をかけているから。


 だったら、私さえお兄様の前から消えればいいんだ。私が邪魔者なだけだったんだ。

 そうね……。



 三人の令嬢は、渡された糸に満足して帰って行った。

 アンドリューさんからは、最初に提示された額よりもたくさんの金貨をもらえた。

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