「えっ、私もですか!?」
くるみ先輩の指示のもと、私は雅先輩と一緒にあれこれと沢山の写真を撮る。
「この角度かな……あっ、影が濃い。あ~~~サヤちんもっと強く念じて! 写らない!」
沢山ダメ出しされながらも、くるみ先輩が鳴らすシャッター音が、着実に雅先輩の本当の素顔を暴いていくのだと実感する。
私たちが思いついたのはとっても単純なこと。
沢山の記憶を読み取って、雅先輩の本当の顔を知った私が先輩の素顔を念じて、くるみ先輩に写真を撮って貰うというもの。
心象風景は念じたものが強く反映されるそう。さっきくるみ先輩がシャッターを切った時に撮ったという女の人も、きっと私の心象風景から漏れた雅先輩の姿だったんだと思う。
伝達系の精神系統の特殊能力者に知り合いがいれば話しは早かったんだけど。残念ながらそんな知り合いのいない私たちにとれる最善手が見つかって、本当に良かった。
雅先輩はくるみ先輩と付き合いがあるものの、くるみ先輩が写す心象風景がかなり具体的に写せるとまでは知らなかったみたい。ちょっと拗ねたような顔になってたのが可愛かった。
「不覚だわ、こんな身近に条件を満たせる人がいたなんて」
「まぁまぁ、それこそ先輩も言ってましたが、普通そんなにほいほいと自分の特殊能力をひけらかしたりしないので仕方ないんじゃないですか?」
「でも、くるみ先輩の心象風景の写真のことは知っていたのに……!」
悔しそうにきゅっと唇を引き結ぶ雅先輩。私は特等席で美少女の拗ね顔が見られるだなんて贅沢に、なんだか微笑ましい気持ちにしかならない。
そんな心境でにやけてしまいそうになっていると、すかさずくるみ先輩からダメ出しが飛んできた。
「サヤちん、集中~! 写真の中のマリア様が溶けるよ~!」
「えっ、溶けるんですかっ?」
「溶ける! それはもうアイスのように! でろんと!」
それは軽くホラーでは、と想像しかけて慌てて止めた。雅先輩の顔をアイスにしてはならない。
私は気合いを入れて、記憶の中の、幼くて、まだ火傷もしていなかった頃の雅先輩の顔を思い浮かべる。
雅先輩の顔の輪郭が溶けて、だんだんと記憶の中の幼い雅先輩と一致していくくらいに、強く、強く、念じた。
パシャ、パシャ。
カメラのシャッター音が響く。
何度かシャッター音を響かせたくるみ先輩は、おもむろにカメラを下げると、グッと親指を立てた。
「オッケー! たぶんいける! 後はこれを現像するね! 時間かかるから、また明日持ってくるよ~!」
「ありがとうございます、くるみちゃん先輩!」
「……ありがとうございます」
「良いってことよ! 他ならぬ麗ちゃん……いや、雅ちゃんのためならなんのそのだ! その代わり、またモデルなってね! 今度はサヤちんも!」
「えっ、私もですか!?」
にししっと笑ったくるみ先輩は「モチのロン!」と叫んで、脱兎のごとく駆け出していった。
その行動の澱みのなさに感嘆していると、ふと、雅先輩があまりにも静かなことに気がつく。
くるみ先輩が去っていった方から視線を戻して雅先輩を見れば、雅先輩はぼんやりとくるみ先輩が去っていた方を見つめていた。
「雅先輩、どうしましたか?」
「えっ? あ、ううん……そうね、ちょっと不思議な気分で」
そうぽつりとこぼす雅先輩が、自分の手のひらを見下ろして、それから私の顔を見る。
「……明日写真を見る時、サヤもいてくれる?」
「当然です! 写真に写ってるのが本当に先輩の顔なのか、私が見分けて差し上げるので!」
大船に乗ったつもりでまかせてください、と胸を張れば、雅先輩は泣き笑いのような表情で微笑んだ。