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イミテーション・ガールズ!~無貌の未来を取り戻せ~  作者: 采火


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5/13

「写真映えする子なら大歓迎だよ!」

 先輩の顔を取り戻すぞ計画が始動して一週間。


 ようやく私は読み取れるだけの記憶を読み取って、断片的ながらも先輩の本来の顔を確実に理解した。


 やっぱり物の記憶って一瞬のものが多い上に、最初に見た人形ほど使用している人間に焦点が向いていることってほとんどない。


 教科書とかだと、授業中は机の上に開かれっぱなしになってるから天井を向いていたり、逆に閉じられていたり、焦点が机に向いていたりで暗転していることもある。


 パジャマも同じで、着替えの時とかはちらりと顔が見えることがあってもくしゃくしゃに丸められたり、既に着替え終わってしまったりしていると、着ている本人の顔は見えない。妹さんのパジャマから雅先輩の顔が見えることがあったけれど、パジャマの位置からでは顔まで見えないこともしばしばだ。


 それでもなんとか断片的に記憶を拾い続けて、先輩の顔という記憶を強固なものにした。


 後はこれを、先輩に伝えるだけなんだけど……


「……さすがに絵は無謀だったんじゃないかしら」

「アハハ……」


 どうやって伝えるのかを考えた時に、とりあえずペンを持って、ノートの余白に先輩の顔を絵で書いてみたんだけど。


 ……これがまぁ、私の絵心が壊滅的だったというわけでして。


「貴女、美術の成績は?」

「五段階評価の万年三です……」

「良からず悪しからずね」


 ズバッと言われた私の胸にぐっさりの言葉の矢が突き刺さる!


 この一週間、雅先輩と一緒にいて分かったのが、雅先輩って結構キッパリと物事を言うタイプの人だってこと。顔がちょっと垂れ目で可愛いし、ツインテールとかで甘やかな雰囲気を持ってるんだけど、そんな雰囲気と違って結構さっぱりしている性格だ。


「でもどうしましょう。顔が分かっても伝えられなきゃ意味ないですよぅ」

「そうね。さて、どうしましょう……」


 雅先輩がベンチで足を組み、顎に手を添えて考える素振りを見せた。美女の考える姿って絵になるなぁとぽけぽけしながら眺めていると、考えがまとまったらしい雅先輩が顔をあげた。


「ねぇ、サヤ。貴女の友達に精神系で伝達に特化している特殊能力者はいない?」

「精神系ですか?」


 はて、と考えてみる。

 いやでも、こんなの考えるまでもなく。


「クラスメイトに精神系はいますけど、どんな特殊能力かまでは分かんないです。意外とも思われそうですが、私、本当は人と関わるの苦手で、そんな踏み込んだ話なんてとても……先輩の件は、ほんと偶然というか、自分にこんな行動力があったなんて自分でもびっくりだったくらいでして」

「まぁそうよね……特殊能力の制御が苦手な人達の集まりのような学園だもの。制御ができない内は友人作りも難しいわよね……」


 雅先輩も身に覚えがあるのか、苦笑いして腕を組み直して、ベンチの背もたれに背中を預けた。


 空を仰いで、再び思案するような表情になる。


「精神系統の特殊能力のなかでも、伝達系のものはそれほど珍しくない特殊能力だわ。私の学年にも何人かいるって聞いたことがあるのだけれど、誰が持ってるかまでは知らなくて」


 望ましいのは、他人の脳内を読み取って、別の人にその脳内を見せるという能力だ。


 だけどそんな都合の良い特殊能力を持ってる人なんて、そうそう居るわけもなく。


 ここで詰みか、と二人で顔を付き合わせる。


「……サヤ、ありがとう。ここまでしてくれて十分だわ。後はもう、のんびりと私たちに必要な特殊能力を持っている人が現れるのを待つだけね」

「面目ないです……ごめんなさい、見通しが悪くて……私から話し出したことなのに」

「いいえ、その気持ちだけでも嬉しかった。それに私の本当の顔を貴女だけが知っているって分かってるだけでも、心が軽くなったから」


 淡く、その愛らしい顔に不釣り合いなくらいに慈愛に満ちた笑顔を浮かべた雅先輩に、私の方が泣きそうになった。


 せっかく役に立てると思ったのに。


 皺になるのにも構わずに、セーラー服のスカートを握り締める。


 私がここで泣くのはお門違いだと堪えていると、雅先輩が私を優しく抱き寄せてくれた。


「サヤ。気に悩まないで。貴女がやってくれたことは無駄なんかじゃないのだから」

「……すみません」


 自分が情けなくて、情けなくて、本当は泣きたい。


 一番落胆しているのは雅先輩なのに、私のせいでそんな言葉をかけさせてしまってるのすら申し訳なくて。


 でも、自分の情けなさに打ちのめされている私は、先輩の優しさが身に沁みて、居心地が良いとさえ思ってしまった。


 雅先輩にされるがまま、じっと身を固めていると、不意に「パシャッ」とカメラのシャッター音みたいな音が聞こえた。


「え?」

「何の音?」


 雅先輩と二人で、音のした方へと顔を向ける。


 少しだけ視線をさ迷わせれば、中庭の木陰の一つに、オレンジと茶色と白の三毛猫模様の耳付きパーカーのフードで顔を隠した女子生徒がいるのを見つけた。


 かなり目立つフード付きパーカーに、ジーンズ生地のミニスカート。白とオレンジのボーダーの柄タイツに厚底スニーカー。


 女子生徒の手には本格的なごついカメラ。その黒いネックストラップには白でくりぬかれた菱形の中に、桃色の校章が入ってる。


 あの人が写真を撮ったのかと目を丸くしていれば、雅先輩も驚いているのか同じような顔で三毛猫パーカー女子の方を見ていた。


 そんな私たちの事を気づいているのかいないのか、上機嫌で三毛猫パーカーの人が近づいてくる。


「やほほー、麗ちゃーん。いや~、とても良い百合ベストショットいただいちゃったよ!」

「……くるみ先輩。許可なく写真を撮らないでと、何度言ったら分かるんですか」

「だって~、こういうのって自然体が一番なんだよ?? 私の写真は特に心象風景が映り込むんだから、そのビミョーな変化や美しき心情ごと、写真を撮らないと!」


 にっこにっこで話し出す三毛猫パーカーの人に、雅先輩が話しかける。えっと、知り合いな感じ?


「先輩、この人は?」

「三年の三毛縞みけじまくるみ先輩。写真部で、今まで何度かモデルとして依頼を受けたことがあるの」

「どっも~! 三年の三毛縞くるみです! くるみちゃんって呼んでね! それにしても私の事を知らないとは、さては君、新入生ちゃんかな!?」


 さすが雅先輩、その美少女具合ならモデルさんの真似事なんて朝飯前なのかもしれない……なーんて考えてる間にも、くるみちゃん先輩? が私にぐいぐいっと迫ってくる。


「えっ、あっ、ハイっ、一年の埴岡清花ですっ」

「サヤちんね~! おっけーおっけー、とってもベリーな挨拶だ! あっ、今撮った奴、今度のコンクールの提出候補に入れて良い? モデル料は後で払うから!」


 マシンガントークってこの事を言うのかな??


 ぐわーっと勢いよく話されて、私はよく分からないまま赤べこのように頷くだけ頷いた。


 こくこくしている私を見かねてか、雅先輩が助け船を出してくれる。


「くるみ先輩。事後承諾は止めてくださいって何度言ったら分かるんですか」

「麗ちゃんこそ、私がベストショットを撮るにはその一瞬一瞬を逃しちゃいけないんだってこと、分かって欲しいな~! 今だって慈愛に満ちた麗ちゃんがサヤちゃんを撫で撫でしてるの、レンズ越しに見たらマリアさまみたいな女の人が天使みたいにその背後に浮かび上がってて最高だったんだよ~!! よっ、さすが楠木異能学園のヴィーナスっ!」


 ぺらっぺらとびっくりするくらい口が止まらないくるみ先輩に、雅先輩が疲れたように頭を抱えてしまう。話が通じない人ってこういう人の事を言うのだろうかと、くるみ先輩の言葉を反芻していた私は、ふと気がついた。


「レンズ越しに女の人?」

「そそ! 麗ちゃんの背後というかー、重なるみたいに女の子がいたんだよね! 写真を現像してみないと分かんないけど、ふんわり美少女な麗ちゃんと違って、清楚な感じの美女! もうこれマリア様だよね~! 麗ちゃんなのかサヤちゃんなのかは分からないけど、素敵な心象風景頂きましたー!」


 くるみ先輩が「にししっ」と笑う。

 気がついた私は挙手をして、くるみ先輩の視線を引き寄せた。


「くるみちゃん先輩! 先輩の特殊能力って、心の中のものを写すんですか!?」

「間違ってはないね! 私がカメラで写真を撮ると、被写体の周囲にその心象風景が滲んでくるんだ~」

「その心象風景の定義って何ですか!?」

「ほぇっ? 情熱的だねぇ~!」

「いいから定義!」


 ぐいぐいとくるみ先輩に良い募ると、多少は面食らったものの、人懐こい笑顔を浮かべてくるみ先輩は答えてくれる。


「その人が、心や頭で見た景色全部。極端な話、おしゃべりをしていて、お菓子を食べる話をしていたとして、お菓子を食べる自分を想像したら、それが心象風景になっちゃうんだ!」


 つまり、それは。


「強くイメージしたら、イメージするほどくっきりと写真に写りますか!?」

「そのとーり! そうやって加工無しのファンタジーチックな写真を撮ったこともあるよ!」


 グッと親指を立てて教えてくれたくるみ先輩に、私は視界が開ける。


 パッと雅先輩を振り向くと、先輩も私が言いたいことが理解できたのか、目を丸くして、くるみ先輩を凝視していた。


「くるみ先輩!」

「あーい?」

「ちょっと私と雅先輩撮って貰えませんか!」


 勢いよく、私はくるみ先輩に言葉の突撃をしてみる。

 くるみ先輩はキョトンとして、目をぱちくりさせた。


 それからまじまじと私の爪先から頭の天辺まで値踏みをするかのように、見つめ。


「……ふむ。ミヤビセンパイとやらはどんな子? 写真映えする子なら大歓迎だよ!」


 私が雅先輩を指差せば、くるみ先輩が首を傾げたので、雅先輩が親切に挙手をして、自分自身を指差した。


 そして、雅先輩が事の次第を話し出すと、くるみ先輩はまるで悪戯小僧がとっておきの悪戯を思いついた時のように、にわかに満面の笑みを浮かべたのだった。



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