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「私の顔を取り戻したい……!」

 身から出た錆というか、乗りかかった船というか。

 話を聞くだけ聞いて、後は我関せずなんてあんまりにも目覚めが悪かっただけというか。


 とにもかくにも、話を聞いたのに知らぬ存ぜぬの態度をするのなら、学園に入学した意味がない。変わりたいと思うのなら、自分から踏み出さないといけないわけで。


「失礼します! 一年の埴岡です! 明星先輩いませんか!」


 人形を返した三日後の放課後、私はホームルームを終えてすぐに二年の教室へと乗り込んだ。


 今日は部活動優先日なので、全学年が同じ時間に授業を終える。この時間ならと思った私の読み通り、まだ沢山の生徒が残っている教室には明星先輩もいた。


 驚いた様子の明星先輩が私のいる廊下まで出てきてくれた。


「えっと、埴岡さん? 久しぶり。私に何か用が?」

「モチです! 先輩のお時間が少し欲しくて! この後、時間ありますか!」

「あ、あるけれど」

「なら、この間のベンチで待ってるので! では後程!」


 言いたいだけ言って、私は二年の教室の前から早足で遠ざかる。


 わざわざ自分から首を突っ込んで、お節介を焼いて、先輩には迷惑をかけるかもしれない。


 でも私以上にずっともやもやを抱えて苦しんでるだろう先輩のことを思えば、ちょっとしたお節介を焼いてしまいたくなるのは仕方ないと思うんだよね。


 だから私は先輩を誘い出した。

 ある事を、提案するために。






 突然声をかけたのにも関わらず、先輩はちゃんとあの体育館横の寂れたベンチにまで来てくれた。


「ごめんなさい、お待たせしてしまったかしら」

「いいえ! 私も今来たところなんで!」


 私は立ち上がって、明星先輩にもベンチを勧める。

 促されるままベンチに座ってくれた明星先輩に、私も満足してその横に座った。


「先輩。この間のことなんですが」


 単刀直入。

 私がいざ話を切り出そうと口を開くと、明星先輩はハッとした顔になって、途端に申し訳なさそうに睫を伏せた。


「ごめんなさい。後から考えたのだけれど、初対面の人に話すような内容じゃなかったわ。忘れて頂戴」

「いえ、むしろ。先輩の本心をもっと教えてくれませんか」


 ずいっと明星先輩の顔に自分の顔を近づけた私は、この数日で考えたことを先輩に伝えてみる。


「先輩は自分の顔が思い出せないと言ってましたよね。それって、写真とかも残ってないからですか?」

「……ええ。火事の時に、そういったものは全て焼けてしまって」

「やっぱり。では先輩。その思い出せなくなった顔を、先輩は取り戻したいと思いますか?」


 明日の天気の話をするかのように、私は意識して明るい声で聞いてみた。


 明星先輩は一瞬何を言われたのか分からないと言うように、眉間に皺を寄せて怪訝そうな顔をしたけれど、数秒の後には徐々にその表情を驚愕の色に染めていった。


「私の顔を、取り戻す……?」

「はい。望む形にできるかどうか分かりませんが、でも、私ならそのお手伝いができると思うんです」


 私はそう言うと、黒い手袋に描いてある紫の校章を見せる。


「私は『直感』の特殊能力者です。触れた物の過去の記憶を読み取ります。私が偶然にも先輩の名前を知れたのは、人形の記憶から持ち主の名前を読み取ったからです」


 私は黒い手袋をした手で、明星先輩の手を握る。


「先輩。先輩は本当の自分を見つけてもらいたいのではありませんか。だから私なんかに大事なお話をしてくれたんだと思いました。先輩が望むなら、私に本当の自分を思い出すお手伝いをさせてください。聞いた以上は私も見て見ぬふりはできませんから」


 ぎゅっと手を握って訴えてみれば、明星先輩がくしゃりと顔を歪ませた。


「私の顔、取り戻せるのかしら……」

「きっと! 私は唯一、先輩の本当の顔を鮮明に見られる人間ですから!」


 ぶっちゃけて言えば、私以外にも何かの記憶を読み取れる『直感』の特殊能力者はそこそこいると思う。


 でも、それこそ何かの縁があって、私だけが明星先輩の本当の顔に気がついたのなら。


 それならお節介だろうと何だろうと、ちょっとくらい手を差し延べてみるくらい良いと思う。


 所詮はただの自己満足だ。


 でもこの自己満足が満たされれば、私は変なもやもやを抱え込むことも無くなるし、何より先輩の心の中に巣食ってるモノを取り払えるのなら、それは当然人助けになると思ってる。


 ごくりと喉を鳴らす。

 明星先輩はどう思うかな。


 私の手を取ってくれるだろうか、それとも不要なものだと払い除けられるのだろうか。


 どちらにせよ、私は私に提示できるものを先輩に見せるだけ。


 決めるのは明星先輩自身なのだから。


 じっと息をひそめて明星先輩からの言葉を待っていると、やがてか細く答えが返ってきた。


「私、は……」


 明星先輩の声が震えている。

 それでもしっかりと喉から音を紡がせて、先輩は顔をあげた。


「私の顔を取り戻したい……!」


 まるで迷子の子供のような悲痛な声をあげた明星先輩の手を引っ張って、私は立たせる。


「では取り戻しましょう、雅先輩!」


 明星先輩――ううん、雅先輩の綺麗な黒の瞳が大きく見開かれる。


 雅先輩を立たせた拍子に、先輩が着ているブレザーのプリーツスカートと、私のセーラー服のプリーツスカートが重なるように大きく揺れた。


 うまく行くかは分からないけれど、でも、やれるだけやってみよう。


 だって雅先輩を救うことができたら、私もきっと、正しく自分の特殊能力に向き合える気がしたから。


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