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朝と夕には食卓を囲んで  作者: 駒野沙月


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13/16

誰だって、炬燵の魔力には敵わない

 ある日、同居人《朝陽》が炬燵を買ってきた。


 今年は寒くなるのが早い。ここ数日は雨の日が続き、もはや秋服では完全に肌寒いくらいの気温だ。時々晴れが続いては夏並の気温となっていたような日もあったが、そういう日は翌日には一気に真冬並にまで冷え込む。

 そんな寒暖差に耐えかねてか、同居人は我が家にも炬燵を導入しようと考えたらしい。むしろ、個人的には今までそんな話が出なかったこと自体が不思議なくらいだったが。


 元々置かれていたテーブルを隅に追いやり、今やリビングの中央を占拠するようになったそれに、朝陽はすっかり入り浸るようになった。

 仕事があろうがなかろうが、朝だろうが夜だろうが。自室に戻るのは夜寝る時と着替えの時、あとは声を出したいのであろう時だけ…と言っても過言ではないくらいだ。


 こんな寒さだ、それ自体に関してはそこまで咎めるつもりはない(もちろん多少は咎めたいが)。


 ただ、そこで寝るのだけは本当に勘弁してほしい。掃除する時邪魔になるし、こいつが風邪を引きかねないし。それと俺が入る時こいつの足が邪魔だ。

 本人も一応、そんな俺の言い分は分かっているらしいのだが、それとこれとは別なのか、「人間はこたつの魔力に抗えないんだ…」とか何とか言って毎回蕩けている。その気持ちは分からなくもないが、風邪引いて困るのはお前だろうに。


 今もそうだ。台詞の暗記でもやっていたのだろうか、炬燵の上には朝陽のメモが随所に書かれた台本が開いて置いてあるものの、当の本人は炬燵布団に埋もれて眠ってしまっている。

 エアコンよりは乾燥しない分、声を出す時には良いのかもしれないが、こんな所でやって本当に覚えられるのだろうか?と少し心配になる。


 買い出し帰りにそんな光景を目にするのも、もうすっかり日常茶飯事だ。

 どれくらいの時間寝ていたのかは分からないが、とりあえず起こしておこうと、買い物袋を持ったまま朝陽の近くに屈む。


 その物音で気づいたのだろうか。

 それまで静かに眠っていた朝陽は微かに身じろぎ、薄く目が開いた。


「…ゆーくん?」


 吐息混じりの微かな声で、ぼんやりした口調で、朝陽は俺の名を呼んだ。昔、それこそ本当に小さい頃、呼ばれていたあだ名で。

 寝ぼけているのだろうか。…24にもなって、どういう寝ぼけ方をしてるんだ。


 起きろ馬鹿、と寝坊助野郎を起こしにかかる。軽くはたいただけのつもりだったが、はたかれた側は「ふぎゃ」と声を上げた。

 朝陽はしばらく目をしぱしぱとしていたが、その目にもすぐに焦点が合ったようだ。


「…あぁ、祐樹帰ってたんだ」

「こたつで寝んなっつってんだろ」

「ん…あー、喉いてえ…」


 軽く咳き込みながらも、朝陽は体を起こす。案の定、炬燵で寝たのが喉にきたらしく、喉を押さえるようにしながら出された声は少々嗄れていた。

 あーあー、とガラガラした声を発している朝陽に、ちょうど買い足しておいたのど飴を一つ投げて渡しておく。こんなこともあろうかと、我が家にはのど飴が常備してあるのだ。


「ちょっとは気休めになるだろ」

「…喉痛にのど飴ってあんまり意味ないらしいよ、気道じゃなくて食道を流れてくだけだし」

「いらないなら返せ」

「…いただきます」


 俺の投げた飴を文句を言いつつも受け止め、朝陽は案外素直にその袋を開けた。飴を口の中で転がしながら、退屈そうに台本をめくり始める。


「お前さ」

「うん?」


 キッチンで食材を仕舞いながら、後ろを向いたまま朝陽に聞いてみる。


「さっき、何か夢でも見てたのか?」

「夢?んー…なんか見てたような気もするけど、あんまり覚えてないや。なに、俺なんか寝言言ってた?」

「…いや、何も」


 それに答える朝陽の口調はどこからどう聞いても普段通り。別に何かを隠しているような様子もない。

 俺もそれ以上は何も言わなかったため、結局その話題はそれで終わりとなった。



 この時、後ろを向いている口実があって良かったと心から思う。


 不意打ちは心臓に悪いから。

 本当に、炬燵で寝るのは勘弁してほしいのである。

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