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THE END  作者: 公
2/2

2. 新しい贈り物



今日で生まれてから180日・・・

お陰でこの世界のこともほとんど学んだ。




「やァノヴァ、お目覚めかね」




ノーマン・”プリングルス”・ウィラード博士だ。

あだ名の通り、お菓子のキャラクターに似ている。


勿論、僕は話すことが出来ない。

声帯がない...というより、まだに身体を与えられていないのだ。


意思の疎通方法?それは俺の頭脳をスーパーコンピュータと同期して思考をモニター越しに文字にして表示させている。


まぁ昨今の技術にしてはいささか旧い気もするが、なにより巨大な1つ眼と脳さえあれば人は生きられるという証明だった。




『おはよう博士』




「ノヴァ、今日は君にプレゼントがある」



『それはとても楽しみだ』


「...遂に完成したんだよ。人間が人間である為の唯一無二の概念がね」


『僕の探究心を燻っても無駄だよ。何せ心がない』


「そう!それだ。”心”だよ」


心?僕に心をくれるのか。

だが、論理的に考えると感情なんて必要ない。

生存する上で全く必要ないのだ。



『博士、どうして僕に心をくれるんだ?』



「ククク、君にはこの世界を見て欲しい。そして裁定者として決断を下し、新たな境地へ導くんだ。人間と同じ目線で、同じ世界をその進化した力でね」



博士は何かの欲望に取り憑かれていた。やはり心なんてのは合理的な進化の上では無駄な存在だ。確かに僕は身体的にも精神的にも、人間を遥かに凌駕する力を持っている。


しかし、裁定者として世界を導くならそんな無駄な感情や欲望よりも、その瞬間でどれが1番合理的かで決めればいい。


『わかった。とりあえず始めてくれ』


「ああ、もう準備完了(スタンバイ)だ」


そう言うと、プリングルスは手に持った大きめの注射器を刺してきた。


「痛みを...感じるか?」


『いや、特に何も感じない』


正確には何かが体内を流れているような違和感を感じるが、それをここで伝えても最早意味は無い。


「OK、終了だ」


プリングルスは空になった注射器を置いて煙草に火をつけた。僕はその煙が苦手だった。


彼は2本〜3本と続けざまに吸っている。

あんな害しかもたらさない嗜好品を愛して何になるのだ。人間は無駄が多いとつくづく思う。



コツコツコツ....


「・・・」


近付いてきた、次は何をする気だ?

煙草の煙を充満させた髭男は大きく煙を吸い込んだ。


まさか!


「・・・フーっ!!」


このクズめ!





『何をするんだ!今すぐやめろ!!』





「・・・成功だ!」





言い残して煙草を吸い終わった彼は研究室を出ていった。まったくマッドサイエンティストめ。




僕も静かに目を閉じることにした。






――――――――――――







休眠は超生物の僕にとっても必要なサイクルだった。

脳内でのデータ処理はやはり大切である。

しばらくすると、奥の扉が開いた。


「ハィ、ノヴァ!元気?」


うるさいレディのアヤ・”キャンディ”・ソフィア研究員は誰よりも探究心があった。


あだ名については僕に初めて食べ物をくれたのが彼女であり、それが一粒のミルクキャンディだったからだ。



『こんにちは、ミス・ソフィアご機嫌いかが?』



「あら、貴方から質問するなんて珍しい事もあるのね。おかげで最高に元気よ」



彼女は白衣のポケットからキャンディを取り出して僕にくれた。


甘い。



「イチゴ味、合成だけれど」


『いつか君と外へ出たら食べたいな。本物』


「誰の入れ知恵?まったく博士ったら」



なんだろうこの気持ちは。

今までに無いもの。


感じたことのない焦燥感・・・これが心?



『今日は何しにきた?』



「ああ、遂に人造人間(サイボーグ)体躯構成図が完成したのよ。今回はノヴァ専用試作品ということで、腕を持ってきたから動かしてみて!」



キャンディは私に直接機械腕と繋がった針を刺した。



『どうやって動かすんだ?』



「そうねぇ...」



ぎゅ!



彼女は僕の手を優しく包んだ。


「今から私の手を握って。勿論、優しくだよ」


握る?


ググッ・・・


これは、かなり難しい。

しかし、指くらいは曲げることが出来そうだ。


グググ・・・!


「そうそう!感じる?これが私の手!ぬくもりよ」


本当だ。

柔らかく暖かい。

今はただの肉塊に過ぎない僕の中に希望の火が灯った気がした。


彼女は直ぐに針を抜いて出ていく準備に取り掛かる。

僕はキャンディの瞳を大きな1つ眼で追いながら、

『また来てくれるかい?』と尋ねた。



「ええ、直ぐに来るわ!またね」



愛想良く笑う彼女の笑顔で僕自身も癒された気がする。これが心というやつか、言うほど悪くないじゃないか。


そんな良い気分のまま、僕はキャンディが来るのを毎日毎日楽しみにしていた。



”あの日”までは・・・



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